米国のジョージ・グラス駐日大使は、12日、自身のSNSアカウントで、南シナ海をめぐる中国の対応について強い批判を展開した。グラス大使は、米国が国連海洋法条約(UNCLOS)の締結国ではないものの、国際法を順守していると主張。一方で、中国はUNCLOSの批准国でありながら法を守っていないと指摘した。
グラス大使は、2016年7月に常設仲裁裁判所(PCA:Permanent Court of Arbitration)が下した南シナ海仲裁判決に言及した。この判決では、フィリピンが中国を相手に提起した問題について、中国が南シナ海で主張する領有権のほとんどに法的根拠がないと全会一致で判断された。中国はこの裁判に参加せず、判決も受け入れていない。
またグラス大使は、中国のこうした対応を「偽善」と表現し、この「偽善」にふさわしい中国のことわざがあるとして、「役人は放火しても許されるが、庶民は明かりをともすことさえ許されない」(只許州官放火,不許百姓点灯)を引用した。このことわざは、権力者が自らの行為には寛容である一方、一般市民には厳しい態度を取る二重基準を批判する意味合いを持つ。
国連海洋法条約(UNCLOS)は1982年に採択され、海洋の法的枠組みを定めている。中国は1996年に批准したが、米国は現在も未批准である。ただし、米国はUNCLOSの多くの規定を慣習国際法として遵守しているとされる。一方、中国はUNCLOSの締約国でありながら、南シナ海の「九段線」に基づく広範な領有権主張を続け、国際社会からの批判を受けている。
2016年の常設仲裁裁判所判決は、南シナ海のほとんどの海域について中国の歴史的権利主張に法的根拠がないと明確に示した。しかし中国政府はこの判決を認めず、南シナ海での実効支配を強化している。
グラス大使の投稿は、米中両国の国際法遵守姿勢や二重基準をめぐる議論を呼んでいる。今後も南シナ海問題は、国際社会における法の支配と地域の安定にとって重要な課題であり続けるとみられる。
常設仲裁裁判所(PCA)とは
PCAは、1899年にオランダ・ハーグで開かれた第1回ハーグ平和会議で採択された「国際紛争平和的処理条約」に基づき設立された国際機関である。主な目的は、外交交渉では解決できない国家間や国家と民間組織、国際機関などとの間の国際紛争を平和的に解決するための仲裁や調停の場を提供することである。
PCAは設立以来100年以上にわたり、国家間の領土問題、海洋権益、投資紛争など多様な国際紛争の解決に関与してきた。
国際司法裁判所(ICJ)など他の国際裁判機関と異なり、より柔軟な手続きや非公開審理が可能であり、迅速な解決が期待できる点が特徴である。
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