トランプ大統領は、1期目にアメリカの対中政策を大きく転換させた。それまでの中国共産党(中共)との関与から、中共への対抗と抵抗へと舵を切った。しかし、アメリカの長年の同盟国であるヨーロッパはトランプ氏の路線には同調せず、そのためトランプ政権は中共と対抗する国際舞台で孤軍奮闘することになった。
その代表的な例の一つが、中国のハイテク大手・華為技術(ファーウェイ)とその5Gネットワークによる西側諸国への浸透をどう阻止するかということだった。
最近、「連線中國(the Wire China)」誌は、トランプ政権がヨーロッパの同盟国にファーウェイ排除を説得しようとした経緯を明らかにした。しかし、ヨーロッパ諸国はなおもファーウェイの5G導入を進め、アメリカの働きかけには応じなかった。こうした状況で、当時のトランプ政権は単独で対抗せざるを得なかった。しかし、アメリカの強い実力を背景に、ファーウェイ排除の動きが成功に至ったと報じられている。
トランプ政権は2017年1月の発足後、2年をかけてアメリカ国内の与野党に対し、中共が自称する「平和的台頭」が決して「平和」ではなく、中共こそがアメリカの敵であり脅威だと認識させた。そして、アメリカは中共の脅威に対応するために外交政策を見直す必要があるとした。しかし、ヨーロッパは依然として中共とのビジネスに熱心だ。
イギリスのファーウェイ5G導入決定にトランプ政権が衝撃を受ける
2019年4月下旬、イギリスは自国の通信ネットワークのデジタル化を進めるにあたり、5Gの導入をファーウェイに委託する決定を下した。このニュースはトランプ政権に大きな衝撃を与えた。
アメリカの当局者の間では、すでにファーウェイに対する共通認識が確立していた。彼らは、ファーウェイが表向きには中国の民間ハイテク企業でありながら、実際には中共政府の一部門であり、地政学的な戦略を遂行する機関だと考えていた。ファーウェイの5G機器(基地局、アンテナ、交換機など)を経由する機密情報はすべて、中国の広範な監視システムの管理下に置かれる可能性があると懸念していた。
さらに深刻なのは、ファーウェイの設備が世界中に広がることで、将来的に中国が遠隔操作によって敵対国の経済活動や軍事行動を妨害できるようになるのではないか、というアメリカ当局者の懸念である。もし世界の大多数の国が、都市や工場、さらには軍隊の管理をファーウェイに依存するようになれば、中共はそれらの地域の社会全体を麻痺させ、自らの意向を強制できる力を持つことになる。
特に、アメリカにとって最も親しい同盟国の一つであるイギリスがホワイトハウスの強い反対を無視し、ファーウェイを受け入れたことは、アメリカにとって極めて危険なシグナルだった。もしアメリカがイギリスを説得できなければ、他の西側諸国も次々とファーウェイを採用する恐れがあった。なぜなら、ファーウェイの高度な技術と低コストが極めて魅力的だったからだ。
イギリスのファーウェイ導入とホワイトハウスの説得工作
イギリスがファーウェイとの5G協力を発表する数か月前から、当時の大統領副補佐官(国家安全保障担当)マット・ポッティンジャー氏とトランプ政権の高官たちは、イギリス政府に対してファーウェイを排除するよう強く働きかけていた。さらには、「イギリスがファーウェイを採用すれば、アメリカはイギリスとの情報共有を停止する可能性がある」と警告するまでに至った。
しかし、2019年4月23日、当時のテリーザ・メイ首相は、国家安全保障会議(NSC)の会合でファーウェイのイギリス5G網への参入を承認。この決定は、イギリスのデイリー・テレグラフによって最初に報じられた。
この発表を受け、数日後、ポッティンジャー氏は2人の同僚と共にロンドンに向かい、イギリス政府に対して再び説得工作を試みた。
アメリカ側は、イギリスがファーウェイの潜在的な安全リスクを軽視し、過信していると見ていた。一方でイギリス側は、アメリカの姿勢は「頑固で横暴だ」と受け止めていた。イギリスの政府通信本部(GCHQ)の関係者は後にメディアに対し、「ポッティンジャー氏はただ大声でまくしたてるばかりで、イギリス側の分析にはまったく耳を貸さなかった」と証言。さらに、ポッティンジャー氏の言葉として「我々はあなたたちにこうしてほしくない! 中国(中国共産党)がどれほど邪悪か分かっていないのか? と語った」と明かしている。
ポッティンジャー氏自身は「大声で怒鳴った」ことを否定しているものの、両国の意見の隔たりは大きく、会談の雰囲気も極めて緊張したものだったことは明白である。
同氏は、この交渉を通じて「イギリスの決定は、技術的なリスク評価に基づいたものではなく、純粋な政治的判断によるものだ」と確信した。つまり、「イギリスはEU離脱後の新たな貿易パートナーとして中国を重視し、関係強化のためにファーウェイを受け入れた」という結論に至った。彼は後に、「イギリスの考え方は『敵に勝てないなら、仲間になれ』というものだった」と振り返った。
ポッティンジャー氏はロンドンを離れた時、大きく落胆した。「イギリスを説得できなければ、他の西側諸国もファーウェイを選択するだろう」という懸念が強まったためだ。
さらに、ワシントンの多くの政府関係者は、ファーウェイの5G市場独占を阻止することはもはや不可能ではないかと疑問を抱き始めていた。
当時、ポッティンジャー氏の直属の部下であり、元海兵隊戦闘機パイロットのアイヴァン・カナパシー氏はこにように回想した。
「当時のワシントンでは、諜報機関を含め、多くの関係者が『あなたたちは国家安全保障会議(NSC)内の狂人グループだ』と言っていた。『この戦いは無駄だ。ファーウェイの進出を止めることはできない』と」
カナパシー氏は現在、トランプ2期目政権の国家安全保障会議でアジア担当上級部長を務めており、かつてのポッティンジャー氏の役職を引き継いでいる。
経済制裁でファーウェイ包囲網を強化
ポッティンジャー氏は、ファーウェイの封じ込めを図るため、アメリカ商務省に支援を求めた。2019年5月21日、アメリカ商務省はファーウェイを「エンティティリスト(禁輸リスト)」に追加。しかし、当初この措置はファーウェイの事業に大きな打撃を与えなかった。
エンティティリストに追加されたことで、ファーウェイはアメリカのチップメーカーから製品を調達できなくなったが、日本、韓国、台湾などのチップメーカーからは制限なく供給を受けることができたためだ。アメリカ政府が本気でファーウェイを封じ込めるつもりなら、アメリカ企業が取引を断つだけでは不十分であり、ヨーロッパやアジアの企業にも同様の措置を取らせる必要があった。
しかし、ヨーロッパには協力する意思がなかった。
2020年1月24日、トランプ氏はイギリスのボリス・ジョンソン首相(当時)に直接電話をかけ、ファーウェイの5G導入決定を撤回するよう求めた。しかし、ジョンソン氏は譲歩せず、ファーウェイの関与を容認する姿勢を崩さなかった。
これに対し、トランプ氏は激怒し、ジョンソン氏を「裏切り者」と非難した後、電話を切った。
トランプ政権 FDPRを発動し世界規模でファーウェイ制裁へ
トランプ政権は「外国直接製品規則(FDPR)」を適用し、ファーウェイとの取引を制限する新たな戦略を打ち出した。
FDPRでは、アメリカの技術を使用して製造された外国製のミサイル部品やその他の機密性の高い製品は、アメリカの輸出管理の対象となると規定していた。
このFDPRをファーウェイに特化して強化することで、世界のどこで製造された半導体であっても、アメリカの技術を使用している限り、ファーウェイへの販売を禁止することが可能になった。
2020年5月15日、トランプ政権はFDPRをさらに強化し、世界規模でファーウェイの半導体調達を遮断する「経済制裁」を発動した。
世界最大の半導体受託製造企業である台湾のTSMCは、ファーウェイをアップルに次ぐ第2位の主要顧客と位置づけていた。ファーウェイはTSMCの売上の15%以上を占めていたが、TSMC自身もアメリカ製の設計ソフトウェアや製造装置に依存していた。
新たなFDPRの施行により、TSMCやその他の半導体メーカーは、「ファーウェイにチップを販売するか、アメリカの技術を使い続けるか」の二者択一を迫られることになった。
FBIの調査、ファーウェイ機器の潜在的な危険性を強力に裏付け
FDPRを適用し、ファーウェイへの規制を発表する前に、FBIはファーウェイ機器の潜在的な危険性に関する調査を行い、その結果が強力な証拠となった。
当時のビル・バー米司法長官は、FBIが極秘で進めていたファーウェイの調査結果をホワイトハウスに報告。その調査では、アメリカ中西部の機密性の高い軍事施設周辺に設置された複数の携帯基地局にファーウェイ製機器が使用されており、これらがアメリカの核兵器に関連する通信を傍受し、場合によっては妨害する可能性があるとの結論を示した。
FBIの報告によると、有事の際、中国政府がファーウェイの機器を「キルスイッチ(停止装置)」として利用し、アメリカの核兵器の指揮・制御システムを無力化する恐れがあるという。
バー司法長官はこの調査結果を総括し、「もしファーウェイが次世代インターネットの基盤を確立すれば、アメリカが現在行っている経済制裁の影響力は無意味になり、我々は中国(中国共産党)の経済的圧力に屈することになる」と警鐘を鳴らした。
FDPRの影響 イギリスがついにファーウェイを排除
2020年6月、ファーウェイはイギリスの主要新聞に全面広告を掲載し、メディアを活用した広報キャンペーンを展開。ジョンソン首相はトランプ氏から多大な圧力を受けていたが、依然としてファーウェイを禁止しないと主張した。
しかし、アメリカ商務省がFDPRの詳細を公式に発表すると、イギリス政府は数日以内にファーウェイの5Gネットワークへの関与について緊急の見直しを開始した。
やがて、イギリスの通信企業もファーウェイへの懸念を次第に強めていった。
イギリスの通信業界もファーウェイ排除の動きへ
しばらくしてから、イギリスの通信企業は、もはや低価格だけではファーウェイの採用を正当化できないことを渋々認めた。ファーウェイが高性能チップを調達できなければ、製品の性能にも支障をきたす可能性がある。
イギリス政府の緊急調査が完了する前に、国内の主要通信事業者はすでにファーウェイ製品の採用を見送る決定を下していた。
2020年7月14日、イギリス政府は国内の5Gネットワークからファーウェイを排除することを正式に発表した。
この決定の背景には、もう一つの重要な要因があった。それは、中共政府が6月30日に「香港国家安全法」を強行成立させたことだった。
香港の自由が中共によって侵害されたことはイギリスにとって深刻な問題であり、ジョンソン氏にはこれに対抗する具体的な手段がなかった。 結果として、ファーウェイ排除という決断は、イギリスの対中強硬姿勢を示す象徴的な措置となった。
イギリス政府のファーウェイ禁止措置の詳細
ジョンソン政権が発表したファーウェイ禁止措置では、2020年12月31日以降、イギリスの通信事業者がファーウェイから5G関連機器を購入することの全面的禁止を決定した。さらに、2027年末までにイギリスの5Gネットワークからすべてのファーウェイ製機器を完全に撤去する方針が示された。
この決定により、イギリスは約20億ポンド(約3814億円)の追加コストを負担し、5Gの導入が約3年遅れる見通しとなった。
トランプ氏の経済戦略が中国共産党を弱体化させ、アメリカ経済は成長
トランプ1期目政権では、アメリカの対中政策を大きく転換し、特に経済戦略は極めて大きな効果をもたらした。
トランプ政権が中共と貿易戦を起こした際、多くの批判が上がった。世界第2位の経済大国である中国が報復措置を取れば、アメリカ経済に悪影響を及ぼすとの懸念が広がった。
当時の状況について、元国家安全保障会議アジア担当上級部長のマット・ポッティンジャー氏は、「当時、多くの人が『大変なことになる』と警告していた。しかしそうはならなかった。我々が自ら恐れすぎていただけだった」と述べた。
1期目政権では経済が順調に成長し、コロナのパンデミックが発生するまで活況を呈していた。
ポッティンジャー氏は 「我々は実際に強力な経済的な『テコ(レバレッジ)』を持っていた。その力があるうちに、最大限に活用すべきだった」と指摘した。
トランプ氏は経済戦略の目的を「相手の行動を変えさせること」から「相手を弱体化させること」へと明確に転換した。
その結果、国際経済における中共の影響力は大きく削がれた。時間が経つにつれ、中国経済は深刻なダメージを受け、現在では衰退の一途をたどっている。その影響は中共の支配体制にも及び、政権基盤が揺らぎ始めていると指摘している。
トランプ政権 二期目も対中戦略で孤軍奮闘か
トランプ政権の二期目が始まって間もないが、彼は再び単独で中共と対峙する局面に立たされているようだ。
現在、トランプ氏はロシア・ウクライナ戦争の停戦と和平合意の仲介に取り組んでいる。彼は、ロシアとウクライナの双方に譲歩を求めることで、できるだけ早く和平を実現しようとしている。
多くの政治アナリストは、この停戦交渉の背後に、米・露・中の三大国による戦略的な駆け引きがあると指摘している。トランプ氏の狙いは、露ウ戦争の3年間で強化された中露同盟を分断し、ロシアをアメリカ側に引き込むことで「対中包囲網」を形成することにある。これにより、アメリカはヨーロッパでの負担を軽減し、アジアに軸足を移して中共への対抗に集中できるという計算だ。
ヴァンス副大統領「ヨーロッパは自立を」
J・D・ヴァンス米国副大統領氏は、2月14日に開催したミュンヘン安全保障会議でヨーロッパの同盟国に対し、「ヨーロッパは防衛力を強化し、アメリカは他の高リスク地域に重点を置くべきだ」と明確に伝えた。
しかし、ウクライナや他のヨーロッパ諸国は、アメリカの軍事的な支援と安全保障の確約を求め、アメリカをヨーロッパの防衛に引き留めようとしている。
今後、トランプ氏がどのような「外交カード」や「経済制裁」を駆使して中共への対抗を進めるのか、その戦略に世界の注目が集まっている。彼の二期目の動向が、米中関係や世界の地政学的バランスにどのような影響を与えるのか、今後の展開が注視される。
ご利用上の不明点は ヘルプセンター にお問い合わせください。