1月28日に発表されたカナダの外国干渉に関する最終報告書では、一部のカナダ議員が外国勢力の影響を受けている可能性があるものの、議会内に「裏切り者」がいるという証拠は確認されなかったと結論付けられた。
調査委員長のマリー=ジョゼ・ホーグ(Marie-Josée Hogue)氏は、報告書の中で、中国共産党(中共)の統一戦線工作部がカナダの一部の華人コミュニティ団体に影響を及ぼしていることが明らかになったと指摘。さらに、カナダの選挙への干渉や、偽情報を用いた世論操作の可能性についても詳細な調査が行われた。
統一戦線工作部の影響と華人コミュニティへの浸透
報告書では、中共がカナダの民主主義に干渉する最も積極的な勢力であり、カナダを最重要ターゲットと見なしていると指摘している。その背景には、カナダに大規模な華人コミュニティが存在すること、そしてカナダが複数の国際防衛同盟の重要メンバーであることが挙げられる。
中共は、代理組織や統一戦線を通じた外交的な影響力、ソーシャルメディア、サイバー攻撃を駆使し、カナダの各級政府に干渉している。 また、中共の大使館や領事館、中国人留学生、華人コミュニティ団体を通じて、カナダ在住の華人社会に影響を及ぼしている。さらに、中国に住む家族や友人を人質に取るかのような圧力をかけ、個人の行動を制御しようとしている。
統一戦線は、中国共産党が海外で政治的影響力を行使し、情報操作や世論誘導を指揮する対外工作機関である。証言によると、統一戦線はカナダの一部の華人コミュニティ団体に浸透し、中共政権に批判的な人物が職を失ったり、社会的に孤立したりする状況を生み出しているという。
対外干渉委員会は、カナダの民主主義への中国共産党(中共)の干渉を直接知る証人による極秘証言の要約を公開したが、証拠全体は安全上の理由から99年間封印されたままとなる。
証人Bの証言によると、統一戦線の影響力によって、中共に批判的な人物が地域のイベントから排除されるケースがあるほか、ネガティブキャンペーンの標的にされることも報告されている。同氏は、中共からの報復の可能性があるため、自身の身元が明らかになることを強く懸念していた。
一方、証人Cは、中共政府関係者とカナダ国内の個人のつながりについて証言。カナダ国内の華人コミュニティ団体が、特定の選挙候補者を支援するために利用された事例や、中共政府関係者とつながりを持つ人物が意図的に不利な情報を作り出そうとした疑いについて述べた。
報告書は特に、中共がカナダ国内に設置した「海外警察拠点」の存在が、政府の対応を難しくしていると指摘している。これらの活動の一部はカナダ国民によって実行されているため、政府が国外追放することが困難な状況にある。
カナダの選挙への干渉
報告書では、中共政府がカナダの選挙や政治家に影響を与えている疑いがあることも指摘されている。
特に、2019年と2021年のカナダ総選挙では、中共政府が保守党候補に対する偽情報キャンペーンを展開し、「反中国」とのレッテルを貼る戦術を用いたとされる。
また、2022年末にGlobal Newsが報じたスクープでは、2019年のカナダ総選挙において、中共政府の干渉を受けたとされるトロント拠点のネットワークが明らかになり、11人の候補者が関与していたとされている。
さらに、2024年6月に発表された国家安全保障監視機関の報告では、一部のカナダ議員が外国の干渉活動に「意図的に」関与していた可能性があると警告されている。
偽情報の脅威と政府の対応の遅れ
ホーグ氏は、偽情報がカナダの民主主義に「存続の危機」をもたらしていると警告。「現在の重要な局面で、情報操作(国内外を問わず)がカナダの民主主義にとって最大の脅威となっている」と述べた。
また、報告書は、カナダ政府の対応が遅れ、主要機関間の連携が不十分であることを批判。さらに、政府の情報共有の不備や透明性の欠如が、大きな問題となっているとも指摘した。
報告書の中で、ホーグ氏は、議員らの一部の行為は「懸念されるかもしれないが、議会内に『裏切り者』がいるという証拠は見られなかった」と記した。
51の対策提言
ホーグ氏は、外国干渉への対策を強化し、情報共有を改善するための51の提言を報告書にまとめた。主な提言は以下の通り。
・外国干渉への包括的な対策を策定し、実施スケジュールを明確化する
・カナダ安全情報局(CSIS)が国会議員にとって重要な報告を特定し、適切に共有する仕組みを導入する
・外国干渉を通報するための専用ホットラインを設置する
・公的利益に合致する場合、外国干渉に関する機密情報の解禁を可能にする仕組みを構築する
ホーグ氏は、「これらの提言の多くは、次回の選挙までに実施可能である」との見解を示した。
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