トランプ次期大統領が新設する「政府効率化省(DOGE=ドージ)」の取り組みの中でも、最も議論を呼びそうなのが、、増加の一途をたどる米軍の防衛予算を大幅に削減する計画だろう。
今年、国防総省は7年連続で監査に失敗した。その一方で、2025会計年度の国防予算は8952億ドル(約140兆円)に膨らみ、米国会の議員らの間で改めて精査の対象となっている。
近々イーロン・マスク氏とヴィヴェック・ラマスワミ氏が率いる政府効率化省は、国防総省の膨大な予算を調査し、コストの抑制に努める予定だ。
国防総省の監査失敗の歴史や、不透明な会計手法を踏まえると、政府効率化省が掲げる「連邦予算から2兆ドル削減」という目標の中で、この課題は最も野心的なものの一つとなるだろう。
また、政策専門家は、政府効率化省が国防総省の予算削減に直面する主要な障害として、海外での脅威の増大、ワシントンにおけるロビー活動の反発、そして国防総省に所属する軍人の給与や福利厚生にかかる膨大な費用を挙げていると指摘している。
「国際的な安全保障情勢は悪化する一方だ」と米国の軍事予算を研究するケイトー研究所の上級研究員、エリック・ゴメス氏は大紀元に語った。
「軍事支出削減に反対する人々は、不安定化の進行がさらなる支出の必要性を訴える理由になると主張するだろう」。
企業の拠点移転や経済開発を専門とするボイド・カンパニーのジョン・ボイド・ジュニア氏は大紀元に、歴史的にも、軍事予算の削減は非常に難しいと語った。
しかし、トランプ氏の当選後、政治的状況の変化が見られる。特に国防予算の見直しについては、超党派の支持が拡大しつつある。「注目を集める進歩派の政治家の中にも、こうした取り組みを称賛する人がいる」とボイド氏は述べた。
「誰が、膨れ上がった連邦予算、特に国防総省の予算に、政府効率化省の効率化を取り入れる時期ではないと正面から主張できるのか?」と続けた。
爆発的に増加する国防総省予算
バーニー・サンダース上院議員とロ・カンナ下院議員は、国防費削減を目指す政府効率化省の取り組みを評価している。カンナ氏は、この取り組みが「大規模な超党派の協力」を生むと予測している。
サンダース氏はXで、「昨年、軍産複合体と無駄や不正に満ちた防衛予算に反対票を投じた上院議員は13人だけだった。この状況を変えなければならない」と投稿した。
米政府監査院によると、国防総省は航空機、船舶、地上戦闘車両を含む兵器システムの維持に毎年数百億ドルを費やしている。これらの維持費は兵器システムの「全ライフサイクルコスト」の70%を占め、運用開始から廃棄までの費用が含まれている。
軍事予算のもう一つの大きな部分は軍人の給与や退職給付に充てられている。
ホワイトハウスの予算書によると、2025会計年度には、退役軍人向け給付とサービスの予算が3648億ドル(約57兆6130億円)に達し、同年度の軍事裁量予算全体の3分の1以上を占める見通しだ。
ケイトー研究所の上級研究員エリック・ゴメス氏は、「政府効率化省が兵力、つまり現役軍人の大幅な削減を推奨しない限り、防衛費を大きく減らすことは難しい」と指摘。「もしトランプ政権が失業率の上昇に敏感であるならば、退役軍人を増やすような兵力削減に抵抗する可能性がある」と述べた。
ホワイトハウスの予測によれば、国防総省の裁量予算は2034年までに1兆ドルを超える見込みである。
F-35プログラムの問題
スペースXの創設者であるイーロン・マスク氏は、ロッキード・マーティンのF-35プログラムにおける進行中の課題を指摘した。
Xに、「F-35の設計は、あまりにも多くの要求を満たそうとしたため、複雑で高価な『多目的だが専門性に欠ける』機体になった。「成功は最初から期待できない設計だった」と投稿した。
F-35は、米国防総省史上最も野心的で高額な兵器システムプログラムであり、2088年までの使用が予定されている。
その総コストは、調達と維持を含め2兆ドルを超える見込みだ。維持費だけでも2018年の約1.1兆ドルから2023年には約1.58兆ドルと44%増加した。GAOによれば、寿命の延長がコスト増加の主因である。
予算削減の可能性
クインシー研究所の上級研究員、ウィリアム・D・ハートゥング氏はジュリア・グレッドヒル氏と共同で、Webサイト「トムディスパッチ紙(TomDispatch)」において、膨張する国防総省の予算とその削減方法についての報告書を執筆した。ハートゥング氏とグレッドヒル氏は、F-35を「国防総省が兵器プログラムに巨額の費用を投じる典型例」と評し、この戦闘機が計画開始から23年後にようやく本格的な生産に移行したが、現在でもエンジンの問題や不十分なソフトウェアに悩まされていると指摘した。議会は長年、F-35をフルスケール生産が正式承認される前から資金提供してきたという。
航空宇宙企業のボーイングと協力するボイド・カンパニーのジョン・ボイド氏は、F-35プログラムが政府効率化省による効率化の象徴的な例になる可能性があると指摘。「効率的なシステムは、無駄を防ぐだけでなく、信頼性の高いプロジェクトをより迅速に完成させる助けとなる」と述べた。
軍事予算削減の課題
政府効率化省が国防総省の支出削減を目指す場合、マスク氏とラマスワミ氏は、ワシントンにおけるロビー団体からの強い抵抗に直面する可能性が高い。これらの団体は、国防総省の支出の約半分を占める防衛契約企業を代表していると、ハートゥング氏とグレッドヒル氏は報告書で指摘している。
しかし、政府効率化省の取り組みにおいて、さらなる障害となり得るのは、海外で拡大する地政学的な不安定性だ。ケイトー研究所のエリック・ゴメス氏は、ヨーロッパや中東での紛争、アジアでの中国や北朝鮮からの脅威が増加していると述べた。
「これらの不安定性の多くは、過度に攻撃的で軍事化された米国の外交政策に起因する部分がある。したがって、軍事予算を増やせば簡単に解決するわけではないが、不安定性の増大を理由に、軍事支出の削減に反対する主張が予想される」とゴメス氏は述べた。
兵力削減の戦略的意義と課題
「軍の全ての部門、特に陸軍における現役軍人および文民職員の総数を指す『最終戦力』の削減が戦略的に議論される可能性がある。しかし、これには政治的な反対が予想される」とゴメス氏は述べた。
また、中国との対抗を優先するために、ヨーロッパや中東への注力を減らすとしても、アジアの地理的特性から、依然として高コストな兵器プラットフォームへの支出が必要になるという。
費用削減の可能性
ゴメス氏は、日本や韓国のような国々が軍事予算を増額すれば、アジアにおける米国の投資を削減できる可能性があり、現地の国々が危機に直面した場合、米国が地域に軍を展開する余地を確保できると述べた。
「このような戦略に基づいた米軍の態勢は、現在の態勢よりも規模が小さく、コストも低く抑えられるだろう。しかし、それでも大型艦船、潜水艦、防空システム、さらには物資を戦域に輸送するための航空および海上輸送といった分野に資金を投入する必要がある」と同氏は述べた。
「コストを削減し、より低コストな装備に投資する方法はいくつかあるが、それ自体で大規模な節約にはつながらない可能性がある」
同氏は、トランプ次期政権は米国の外交政策に対して、国の利益を異なる形で定義する新たなアプローチを推進しようとするだろうと示唆した。
これには、防衛予算を縮小しつつも、想定外の事態が海外で発生してもその「戦略」を維持できるよう、広範な目標を支える形での予算運用が含まれる可能性がある。
緊急支出の規制
ハートゥング氏とグレッドヒル氏の報告書では、国防総省の予算膨張に対処する方法として、議会やホワイトハウスが「緊急支出」を利用して軍事費を増額する能力を排除することが挙げられている。 「しかし、それを実現するのは困難だ。国防総省関係者や防衛企業の経営者、そして利害関係のある議会メンバーなど、多くの利権者がこの支出から利益を得ているからだ」と報告書は指摘している。
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