日本生産性本部が16日に発表した2023年の労働生産性の国際比較によると、日本の時間当たり労働生産性は56.8ドル(5379円、購買力平価換算)で、経済協力開発機構(OECD)加盟38か国中29位となった。前年の31位から2ランク上昇し、ポーランド(57.5ドル)やエストニア(56.5ドル)と同水準だった。
労働生産性は、「働いた量(労働投入)」に対して「生み出された成果(産出量)」の割合を示す指標。簡単に言えば、1人の労働者がどれだけ効率よく成果を出せたかを測るものであり、仕事の効率性を評価するために使われる。
日本の生産性が低い原因
日本の労働生産性の低さが指摘され続けてきた背景に、30年にわたる円高が影響している。円高により、日本製品の輸出価格が外国市場で割高となり、競争力が低下した。結果、次のような問題が生じている。
一つに円高で、日本から輸出される製品(例えば、車や家電など)の価格が外国市場で割高になり、競争力が低下を招いた。これにより、輸出企業は収益の確保が難しくなり、国内での設備投資や生産性向上のための取り組みが後回しになった。その一方で国内市場の縮小や利益率の低下を補うために、製造業では生産拠点を海外移転する企業が増加を招いた。結果、日本国内で生産される付加価値が減少し、企業の生産性向上への投資が後回しにされ、労働生産性の低迷を招く一因となっている。
円高は輸出企業の利益を圧迫し、一部の国内の企業ではイノベーションに投資する余裕を失ったり、効率化を進めることが困難になった生産性の改善が進まなかったことも指摘される。円高以外にも、日本の労働生産性が低迷してきた要因として、顧客対応の質を重視するあまり、効率化が進んでいないサービス業の生産性が低い傾向にある。また日本では「長く働く」ことが評価される傾向があり、その事も労働生産性に影響を与えている。
順位回復の背景
経済正常化と成長率回復
日本の労働生産性は2018年の21位から2022年にかけて急激に低下していたが、2023年は経済正常化による成長率の回復と円ベースの物価上昇が名目値を押し上げたことが順位上昇の要因と考えられる。
実質ベースの労働生産性上昇率では、日本は前年比+1.2%と堅調で、OECD加盟38か国中9位、主要先進7か国(G7)では米国(+3.1%)に次ぐ高い上昇率を記録した。
円安の影響
2021年後半から2022年にかけて、円安が顕著に進み始めた。円安による外国市場での相対的に安くなるため、輸出が増加する。特に、日本の製造業にとっては、海外市場での競争力が向上し、売上が増え、利益も上がりやすくなり、この事が労働生産性の向上に寄与している。企業は新しい技術や設備投資に積極的になり、生産性向上のための投資を増やすことができるようになり、生産ラインの自動化やデジタル化、AI技術の導入など、さらに労働生産性を高めるための改革も進むことが期待される。
中小企業と日本文化の関係
中小企業庁によると約3380万社(2021年6月1日時点)の中小企業が存在し、国内の雇用の約70%を支えている。全企業の約99.7%が中小企業であり、これは世界的にも高い割合。グローバル化が進む現代では、中小企業が多いことは、生産性向上や効率化などの問題を抱えている。
中小企業が国内経済の中核を担っており、地方経済においては大企業よりも中小企業の存在が圧倒的に大きい。町工場や伝統工芸など、ニッチな分野で世界トップクラスの技術を持つ企業が多い。
中小企業とサービス業は日本文化の一部であり、その存在は日本経済や社会の基盤を支えている。これらの分野は、地域社会への貢献や雇用創出において重要な役割を果たしており、その独自性や丁寧さは日本の魅力の一部でもある。
生産性向上や効率化の課題に取り組む中でも、文化的な価値を守りながら、時代に適応した変化を進めることが求められる。
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