経済産業省は20日、2026年度に導入する「排出量取引」制度について、年間10万トン以上の二酸化炭素(CO2)を排出する大企業の参加を義務付ける方針を固めた。鉄鋼や自動車など大手300〜400社が対象で、国内の温室効果ガス排出量の約6割近くをカバーできる見通し。
経産省は、温室効果ガスの排出削減と経済成長の両立を目指し、「成長志向型カーボンプライシング構想」を推進している。この構想の一環として、企業が自主的に設定した排出削減目標に基づく排出量取引制度(GX-ETS)を2023年度から試行的に導入し、2026年度からの本格稼働を予定している。
排出量取引とは、企業が自主的に排出削減目標を設定し、その達成に向けて排出量取引を行うことで、企業間での排出削減努力を促進し、効率的な温室効果ガスの削減を目指す。
政府がそれぞれの参加企業に対し、「排出枠(キャップ)」を設定し、実際の二酸化炭素の排出量が排出枠の範囲内であれば、余った排出枠を他の企業に売ることができ、枠を超えた場合は、他の企業から枠を買い取るなどして埋め合わせを行う。
二酸化炭素の排出量が排出枠を超過したのに、ほかの企業から購入しないなど、制度に違反した企業には課徴金を科す方向で検討を進めていて、年内にも制度を具体化させる方針だ。
排出量取引制度は、EUやカナダ、アメリカの一部州のほか、アジアでは中国や韓国などが導入している。
欧州連合(EU)では、2005年に「EU域内排出量取引制度(EU-ETS)」を開始しており、現在30カ国の約1万2000施設を対象に、EUの排出量の45%をカバーしている。
排出量取引への批判や課題
排出量取引をめぐっては、賛否両論ある。
大規模な企業が資金力を使って排出枠を購入できる一方、中小企業には負担が大きい。
また、一部の企業が単に排出枠を購入するだけで、自社の削減努力を怠るケースがあり、実質的な削減につながらない「見せかけの削減」になる可能性がある。そのうえ、排出枠の価格が市場の需給に大きく左右され、予測が難しく、価格が低すぎる場合、削減インセンティブが弱まる。
排出量取引の設計や監視には多大なコストと時間がかかる。
課題として残るのが、業界や部門によって適切な排出枠を設定することが困難。規制の緩い国へ企業が移転し、結果的に温室効果ガスの排出量が増加する可能性があるという点。
コストの高騰排出権価格の上昇が企業負担となり、CO2削減効果が期待できる一方、企業の負担が増える可能性があるため、価格転嫁を通じて消費者の負担が増す懸念も残す。
厳格な管理と監視が必要で、高度なシステムと透明性の維持にコストと労力がかかる。
公平性の問題: 企業間での排出枠の設定が公平に行われるかという懸念がある。
国際競争力への影響: 排出上限が課されていない諸外国の企業に対して、自社の国際競争力が損なわれる可能性を懸念している。
経営への圧迫: 環境省の調査によると、多くの企業が制度導入の最低条件として、企業の経営や経済成長を圧迫しないことを挙げている。
企業側の反応
日本鉄鋼連盟は、鉄鋼業などのエネルギー多消費産業では、排出規制に対応するための負担が極めて大きく、排出規制は事実上の生産規制になると指摘。
そのうえ、企業間での公平な排出上限の設定は困難で競争条件を歪めると述べている。
また日本自動車工業会は、排出量取引制度が導入されれば、日本の自動車産業の国際競争力が損なわれると同時に、排出制限のない国への生産シフト、制限のない国からの素材の購入が進み、実質的なCO2排出量の削減 にはつながらないと指摘している。
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