アメリカによる中国への追加関税の背景とリスク

2024/06/16
更新: 2024/06/16

ジョー・バイデン米大統領は、中国共産党の不公平な貿易慣行に対抗し、中国製品に追加関税を課している。トランプ政権時代に始まった関税の見直しを経て、バイデン政権は5月にこれらを継続し、新たな関税を導入する方針を示した。

アメリカが新たに課す関税の対象は、特に中国からの電動自動車、バッテリー、半導体である。また、欧州連合も7月から中国製の電動自動車に最大38.1%の高関税を課すことを決定した。これは、中国共産党政府の補助金が国際貿易のルール違反であった調査後の措置である。アメリカとEUが自国産業を保護するための追加貿易障壁は、相手国からの報復を招く可能性があるとされている。

トランプ政権に続き、バイデン政権も中国の産業政策と貿易政策がアメリカの利益に反すると見ている。中国共産党は大量の低価格製品を輸出し、経済危機を解消しようとしているが、西側諸国からは反感を買っている。

以下はブルームバーグの報道を基に、カリフォルニア大学サンディエゴ校の経済学副教授カイル・ハンドリー(Kyle Handley)氏が分析したものである。アメリカが定めた6つのカテゴリーの輸入品に対する関税率の上昇と、バイデン政権が関税を課す背景及びそれに伴うリスクについて述べている。

半導体の関税

2025年までに、アメリカが半導体に適用する関税率は25%から50%に引き上げられる予定である。2023年、アメリカは中国からの半導体輸入額が約5億400万ドル(約793億円)に達した。

中国とアメリカはコンピュータチップ製造でのリーダーを目指している。アメリカ政府は国内半導体産業を強化するため527億ドル(約8兆3千億円)を投資し、中国共産党のチップ開発野望を抑える輸出管理策を導入した。アメリカとヨーロッパは、中国が技術的優位を軍事利用することを懸念している。

アメリカは中国の従来型チップ生産能力を過大評価しているかもしれない。中国はコスト増加を通じて従来型チップを戦略的に利用する可能性がある。

重要な鉱物資源

アメリカは現在のゼロ関税を変更し、2024年と2026年に25%の関税を新設する予定だ。2023年、アメリカは中国から7億8300万ドル(約1232億円)分の製品を輸入した。

アメリカは、電気自動車製造に必要なコバルトや亜鉛などの重要な鉱物資源に対し、現在の無税から25%の関税を課すことにした。この関税の大部分は今年中に施行され、天然グラファイトの関税は2026年に施行される予定である。

中国は、低炭素経済を支える材料供給のための産業ネットワークに投資し、整備を進めている。これにより、鉱物資源分野でのリーダーとしての地位を強化している。

どの国も、特定の供給国に過度に依存すると、供給中断時に製造業が大打撃を受けるリスクがある。実際、中国は昨年12月に天然グラファイトの輸出で制限措置を取った。

電気自動車のリチウムイオンバッテリーで、グラファイトは最も重い成分で、バッテリー重量の約三分の一を占める。アメリカのグラファイト供給は世界の1%未満だが、中国が90%を供給している。

グラファイトに対する関税の課税延期により、供給の不均衡を解消する猶予が得られるかもしれない。しかし、関税の影響で、アメリカの自動車メーカーは供給チェーンのコスト増加に直面する可能性がある。

電気自動車

アメリカは2024年に電気自動車の関税を現行の25%から100%に引き上げる予定だ。

2023年には、アメリカの電気自動車の輸入総額が3億8500万ドル(約606億円)に達した。電気自動車の関税が倍増すると、中国の製造業者はアメリカ市場への参入を断念する可能性が高まる。現在の関税はすでにアメリカ市場への進出を難しくしている。

バイデン政権は、補助金を受けた安価な中国製自動車の大量流入を防ぎたいと考えており、これは国内自動車メーカーの市場シェア喪失を防ぐためだ。ヨーロッパでは既に同様の事態が発生している。

しかし中国の自動車メーカーがメキシコに新工場を建設し、そこからアメリカへ輸出することで関税を回避する可能性がある。また、アメリカの関税政策の変更がヨーロッパにも影響を及ぼす可能性があり、中国がドイツ、フランス、イタリアなど自動車生産大国に低価格の電動車を投入することが予想される。

リチウムイオン電気自動車と非電気自動車のバッテリー

アメリカは2024年から2026年にかけて、リチウムイオン電気自動車および非電気自動車のバッテリーに対する関税を現在の7.5%から25%に引き上げる予定である。2023年には、アメリカの輸入総額が131億ドル(約2兆620億円)に達した。

アメリカの政府関係者は、中国の電池産業の過剰な生産能力が、今後10年から20年の間に環境に優しい技術への移行を目指す重要な分野で、アメリカの生産能力の発展を妨げる可能性があると懸念している。

分析家たちは、アメリカの炭素排出量削減の取り組みが失敗するリスクを指摘している。

大西洋理事会グローバルエネルギーセンターの上級研究員ジョセフ・ウェブスター氏は、中国からのリチウムイオンバッテリーの輸入が、不安定な太陽光発電を補うための電力網の蓄電に非常に重要であると指摘している。

ウェブスター氏は、関税増加で「アメリカの電力網の脱炭素化が遅れる可能性がある」と述べている。

鋼鉄とアルミニウム

2024年、アメリカは鋼鉄とアルミニウムの関税を7.5%から25%に大幅に引き上げることを決定した。2023年、これらの金属の輸入総額は127万ドル(約2億円)に達した。

貿易専門家は、鋼鉄とアルミニウムに新たに課された関税の背後には政治的動機があると見ている。

具体的には「 錆びついた工業地帯(rustbelt)」と呼ばれるウィスコンシン州、ミシガン州など、大統領選挙において毎回、勝利政党が変動する不安定な州で、バイデン氏がトランプ氏に対する支持率で遅れを取っていることが理由としてあげられる。

アメリカ鉄鋼協会はバイデン氏の決定を支持し、これを中国共産党の不公正な貿易慣行に対抗する手段と見ている。

しかし、ムーディーズの分析によると、中国からの輸入は全米のわずか2%で、そのためアメリカのアルミニウム生産者への影響は限定的であり、鉄鋼業界への影響も大きくはない。

一方で、高額な関税により、金属を多用する自動車製造業の生産コストが上がり、消費者がそのコストを負担するリスクがある。

岸壁クレーン

アメリカは2024年までに岸壁クレーンに25%の関税を導入することを決定した。2023年のアメリカへの岸壁クレーンの輸入総額は1750万ドル(約28億円)に達する見込みである。

中国の海運業界での膨大な資産とインフラの中、中国共産党の民間海上力を利用したスパイ活動がアメリカ政府の注目を集めた。

これには国家運営のコンテナ輸送会社、港湾ターミナル管理者、造船会社、クレーン製造会社が含まれる。

中国は大型クレーンの主要製造国で、これらは世界中の港でコンテナの積み下ろしに使用されている。他国の製造業者を選ぶと、手続きが複雑になり、コストが増加する恐れがある。

追加コストを負担したアメリカの港は、そのコストを運送業者に転嫁する可能性があり、結果的に運送業者は輸出入業者の料金を上げる可能性がある。

 

秋生
中国語大紀元の記者