米国に迫る「商用不動産危機」到来 誰も準備できていない

2024/06/02
更新: 2024/06/02

米国経済研究所の研究員ピーター・アール氏は言い放った、「まだまだやってくる」。

度重なる米地方銀行の倒産と巨大金融企業クレディスイス銀行の経営破綻が迫り来る金融危機への恐怖を引き起こしてから、およそ一年が経った。

2023年の夏までに、恐怖に駆られた預金者による取り付け騒ぎはかなり落ち着いた。

ところが今年の2月、ニューヨーク・コミュニティ・バンコープ(NYCB)は24億ドルの損失を発表、最高経営責任者(CEO)の交代が決まった。同時に、フィッチ・レーティングスムーディーズによる信用格付けが引き下げられ、金融危機の再来が危惧された。

いまや広く知られるところとなったが、NYCBの株価は実質一晩で60%も暴落、数十億ドルもの市場価値が一夜のうちに消え、大混乱となった。

米国経済研究所上級研究員で証券アナリストのピーター・アール氏は、「まだまだやってくる」とエポック・タイムズに述べた。

アール氏によると、今年金融市場が混乱している原因の根本は、多くの地方銀行が不良債権化した商業用不動産(CRE)ローンを大量に保有し、それをほったらかしにしていることにある。そして、多くはいわゆる「extend and pretend(期限を延長して問題がないかのようにふるまう)」でもって、破産した債務者に猶予を与え、状況が好転するのを待つ。

「問題は存在するが、そのほとんどは未然に防がれる。というのは、返済を先延ばしにして数年の時間をかせぐ間に、状況が改善するかもしれないからだ」「ところが、それは問題を先送りにしているにすぎない。中期的視点で見れば、いっそう脆弱な金融システムができあがることを意味する」

NYBCの問題は、破産を避けたいニューヨークの大家へ多額の融資をしていることにあった。その融資が返済されないリスクが非常に高い状態にあり、今年の初めに同銀行は、複数家族向け・家賃規制賃貸物件に対して180億ドル以上の貸付金があった。

この状況は特に懸念されるもので、それというのも、NYCBが、2023年3月に破綻した別の地方銀行であるシグネチャー・バンクを救ったセーフ・ヘブン(安全な避難所)であったためだ。昨年の銀行危機でシグネチャー・バンクのような銀行を破綻に追いやった主な原因は米連邦預金保険公社(FDIC)の保険が適用されないほど大きな金額の預金を高資産者や法人顧客から受け入れすぎて管理できなくなったことだった。

2023年3月13日、サンフランシスコのファーストリパブリック銀行本部の前を歩く人々。 (Justin Sullivan/Getty Images)

シグネチャー・バンクの場合、預貯金のおよそ90%が保証されていなかった。暗号通貨市場の損失による過度な圧力にさらされるや否や、取り付け騒ぎとなった。

地方銀行に圧力が加わる原因として、米連邦準備制度(FRB)がインフレ対策のために行う度重なる利上げに対し、効果的に対処できなかったことがある。低い金利で固定された債券を大量に持つ銀行の多くは、所有する債券の価値が低下し、含み損を生み出すことになった。

多くが米国債で構成されるこれらのポートフォリオは信用の観点から安全だとされるが、市場リスクにはさらされている。市場における債券価値が低下すると、債券が売られた際の銀行の支払能力を懸念する見方が強まった。金利リスクへのエクスポージャーが大きい銀行の株式を売却する動きが加速すると、預貯金を心配する顧客による取り付け騒ぎが発生する。

結果、困り果てた銀行は預金保護をしようと(無駄に終わるが)債券やローンを購入時より安く売ることになり、含み損は瞬く間に実損へと変わる。

利上げ停止でも問題は残る

今現在、金利は高止まりしているが、変動そのものは比較的安定している。それでも、米地方銀行の健全性に対する懸念は未だに強い。原因はやはり、商用ビル、多世帯住宅、小売施設を含む商業用不動産(Commercial Real Estate, 以下CRE)エクスポージャーが大きいためだ。

米最大手銀行の場合、CREローンの融資に占める割合が13%なのに対し、地方銀行のそれは44%に上る。米銀行のポートフォリオに占める不良債権化したCREローンの割合は、2022年の0.4%から、2023年の終わりまでに2倍の0.81%に跳ね上がった。

米国には計130の地方銀行が存在するが、総資産は3兆ドル強ある。それぞれ100〜1000億ドルの資産を保有するこれらの銀行は、通常市場の景気に左右されやすいが、収益性の高い特定のセクターにも影響を受けやすい。

住宅ローン、自動車ローン、企業向け融資といった分野の貸付は一般的に大手金融機関が担い、地方銀行は不動産投資家向け融資に収益性を見出した。しかしここ数年の間、商業用地主は二つの方向から打撃を受けている。

コロナ禍におけるロックダウンの実施やリモートワークの定着により、多くの企業はオフィスレンタルをコストカットの対象と見なし始めた。

米不動産鑑定会社Commercial Edgeが発表したCREレポートによると、全米におけるオフィスの空室率は3月時点で18.2%を記録し、前年同月比1.5%増となった。

「企業がリモートワーク、ハイブリッドワークを採用し、オフィス面積の見直しを行うにともない、米国のオフィス空室率はここ数年で増加している」。また、「空室率の増加は特定の市場あるいはセクターに集中しているわけではない」という。

レポートによれば、サンフランシスコ、シアトル、ダラス、シャーロット、ボストンといった都市では、テック系および金融系企業のオフィス需要が急激に低下している。従業員が在宅勤務を希望(あるいは要求)するにともない、会社は人の集まらないオフィスにますますお金を使わなくなる。

北米大手トロント・ドミニオン(TD)銀行が2月に発表した報告書によれば、米全土5〜7%だったリモートワーク日数が、コロナ禍の2年を経て、30%までに増加したという。

すると、多くのオフィス用不動産の価値が、ローンが組まれた当初の数分の1になりうる。そうなれば、資産総額に対する負債残高の割合といった融資基準は著しく悪化することになり、銀行は融資規模を縮小するか、質の悪い資産を担保に入れざるを得なくなる。

通常5〜10年単位のCREローンは、現在多くが支払い期限を迎えようとしており、より高い金利を設定する必要に迫られている。

1兆ドル近いローンの支払い

米国モーゲージ銀行協会によれば、総額4.7兆ドルに上るCREローンの約20%にあたる9290億ドルが、今年で返済期限を迎える。

TD銀行は、さらに5350億ドルが2025年に支払い期限を迎えると予想している。

これは商業用地主にとって、貸出収入が減る中で融資コストが急激に増加することを意味する。すると、債務返済比率も悪化するため、貸し手にとっては新しいローンがよりリスクの高いものとなる。

小売業者が直面している他の問題として、「retail shrink(失われた在庫)」と呼ばれるものがある。万引きや倉庫への被害による損失が、コストを引き上げているのだ。

「これまで単に小売業を営む上でのコストとして見なしていたものが、2022年、驚くべきことに損失額が1000億ドルを超えた」。大手会計コンサル企業アーンスト・アンド・ヤングが2月に発表したレポートで、このように報告した。

近頃、ウォルマート、ターゲット、CVSヘルス、ライトエイド、ウォルグリーンなどの米大手小売企業が、次々と犯罪率の高い都市からの撤退を発表した。

2023年9月29日、カリフォルニア州オークランドで閉店予定のターゲットストアの前を自転車に乗った人が通り過ぎる。(Justin Sullivan/Getty Images)

ターゲットは2023年9月に、「強盗や組織的犯罪が我々のチームと顧客の安全を脅かすと同時に売り上げの不安定化を招いているため、当該店舗の操業は継続できない」との声明を発表した。

FRBとFDICの規制当局は、ローンの状況を注視しており、大惨事は差し迫っていないとした。当局は、融資ポートフォリオにおける未解決問題を解決するため、水面下で銀行と協力していると見られている。

「商業用不動産、特にオフィスや小売業、あるいは大打撃を受けたセクターへの集中が激しい銀行を、我々はすでに特定している」。FRBのジェローム・パウエル議長は3月、上院銀行委員会に伝えた。

「この問題は、今後何年も取り組むことになるだろう。銀行の破綻はあるだろうが、大手銀行が破綻することはない」

時間稼ぎ

アール氏は、インフレーションは徐々に抑制され、「ソフトランディング(景気が緩やかに減速し、安定成長へと向かう)」と利下げの可能性は改善していると見ている。

「FRBは何があっても利下げを進めるだろう」「それゆえ、おそらく高い確率でローン返済が1年、2年、あるいは5年先延ばしにされ、いくらか時間稼ぎが行われる」

アール氏によると、解決策の一つは用途変更だという。例えば、モールやオフィスビルから居住スペースや福祉施設へとリメイクすることで、将来的な収益性を見込めるようになる。

臨時の策として、多くの地方銀行がCREローン・ポートフォリオの縮小を検討しているが、そのためには下落した市場価格でローンを売らなければならない。最終的に、こうした損失は自己資本を大幅に減少させるため、資本をさらに売却するか、大手銀行に吸収・合併されるかして資本を強化する必要に迫られる。

S&P地方銀行セレクト・インダストリー・インデックスは去年と比較して30ポイント近く上昇しており、米中小銀行の経営回復について楽観的傾向がみられている。一方で、2022年初めのピーク時に比べると、いまだに低迷を続けている。

CRE市場が復活するまで、地方銀行がいかにして収益性を改善できるかは不透明だ。資本基盤の再構築に必要な投資家を惹きつけるには、「再び黒字化できる」という信用に値する説明をする必要がある。

この記事に記載されている見解は筆者の意見であり、The Epoch Timesの見解を必ずしも反映するものではありません。

この記事で述べられている見解は著者の意見であり、必ずしも大紀元の見解を反映するものではありません。
経済記者、映画プロデューサー。ウォール街出身の銀行家としての経歴を持つ。2008年に、米国の住宅ローン金融システムの崩壊を描いたドキュメンタリー『We All Fall Down: The American Mortgage Crisis』の脚本・製作を担当。ESG業界を調査した最新作『影の政府(The Shadow State)』では、メインパーソナリティーを務めた。
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