「中国人は頭がいいから、交渉相手を読む。舐められる人間は最後の最後まで舐められる」
改革開放初期から中国本土に赴任し、日系企業進出の足掛かりを作った大手企業の元幹部のA氏は取材に対し、自身の体験談をもとにこう語った。
中国側に妥協して迎合するのではなく、筋を通した主張を曲げない姿勢を貫くことが肝要だと氏は説く。時には交渉決裂も辞さない構えを示すこともあったという。
A氏は長年の経験から、対中外交のテクニックは対中ビジネスと通ずるものがあると考える。中国共産党の威勢に押され、日本の国益を損なう行動を取っても、逆に中国共産党に舐められるだけだと指摘する。
「中国人と交渉するときは、正論で徹底的に議論するわけ。それこそ喧嘩になるくらいに議論する。そうすれば逆に信頼をしてもらえる」
喧嘩して信頼を獲得
取材に応じたA氏は、日本の大手メーカーで長年、中国事業を担当していた人物。中国進出に際して、現地の取引先と侃侃諤諤の交渉をこなしてきた。
「当時、多くの企業が中国の市場を欲しがっていた。今とは違って、一回市場を独占したら2、3年は安泰だった。しかも大きなマーケットだ。10数社の日本企業がこぞって契約を獲得するために奔走した。私も担当者として現地入りした」
A氏によると、中国人との交渉は一筋縄ではいかなかった。「向こうはどこまでが私たちの限界かをよく知っていたため、無理難題を言ってくる」「御しやすい人はもう徹底的にやられる」。
そこでA氏は対策として、異なるバージョンの三国志を読破し、中国人の性格を分析した。その結果、中国人との商談では弱さを見せてはいけないとの結論に至った
「私は言いたいこと言って、喧嘩になり、もう受注やめるというところまで行った。『もう結構だ』と言って、ノートをバーンと叩きつけて帰った」「そうするとエレベーターまで走ってくるよ。『先生先生、あなたの考えを受けます。全部受けます』と」
A氏によると、中国側との折衝では、時折このような激しい議論になることがあった。「私が上海に駐在していた時、虹橋空港で(書類に)サインしたこともある」という。
ビジネスと外交は同じ
中国ビジネスで成功を収めたA氏は帰国後、大手企業や系列会社の役員を対象とした講義を行った。その際に特に強調したのは、己の意見を曲げない交渉術だという。
「中国に行ったら、交渉のテクニックを身につけなければならない。交渉のテクニックとは徹底して言い合うことだ。向こうに心証を害して怒られるかもしれないけど、戦争が起こることはない。日本の印象を悪くしたとか考える必要は何もない」
A氏は対中交渉の模範的人物として、垂秀夫前中国大使を挙げた。中国共産党に物怖じせず、主張すべきをしっかりと主張し、日本の国益を守った「非常に骨がある」人物であると評した。さらに、「タフネゴシエーター」こそ、中国側から信頼されるのだと指摘した。
「中国では、言いたいことを言えることが大切だ。中国側が私を信頼してくれたのはなぜか。やっぱり、ガンガンやり合うことだ」
いっぽう、己に非がなくても謝罪する日本の美徳が、国際ビジネスの場ではかえって不利に働くと指摘した。
その上で、A氏は日本の対中外交はもっと強硬である必要があると語った。
「安倍元首相は(中国共産党の本質を)本当に見抜いていた。しかし、現在では何をやられても、何を言われても、黙っている。これでは、はっきり言って無能だ」「親中派と呼ばれる人々が日本にいっぱいいる。しかし、中国人は彼らをほとんど信用していない。何かあれば彼らが真っ先に足元を掬われるだろう」
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