パンデミック条約が公衆衛生をダメにする、元WHO職員が警鐘(上)

2024/05/21
更新: 2024/05/21

この先のパンデミック対策において、世界保健機関(WHO)を中心に据えようという例の提案書について、様々な意見が飛び交っている。巨額の資金が動いているだけに、客観的に状況を把握するのはなかなか難しい。

それでも、基本的なところは押さえておくことができる。本稿の内容は、公衆衛生の知識がある人なら誰でも認めるはずだし、そうではない人でも、時間をかければ受け入れるはずだ。政治家たちだって、切り取り報道を気にせず、党利党略を脇に置くことができれば、認めるはずだ。

ということで、今月末のWHO総会で採択されるパンデミック条約の問題点について、公衆衛生に対するオーソドックスな観点からいくつか見ていこう。

事実無根の緊急事態

パンデミック条約国際保健規則(IHR)の改正は、「パンデミックのリスクが急速に高まっている」という主張に基づいて推進されている。実際、2021年に「G20ハイレベル独立パネル」は、パンデミックが「人類の存続を脅かす脅威」をもたらすとしている。

WHOや世界銀行、G20などは、「自然なアウトブレイク(感染症の突発的発生)の報告が増加していること」を根拠にこういった主張をしている。しかし、それは事実無根だ。英国のリーズ大学が最近行った分析から分かる。

アウトブレイクに関するほとんどの分析はGIDEONデータベースに依拠している。このデータベースは、自然なアウトブレイクとその結果としての死亡率が過去10〜15年の間に減少していること、そして1960年から2000年の間における増加は、アウトブレイクの検出・記録に必要な技術(PCRや抗原検査、血清検査、DNA塩基配列決定など)の開発によるものであること示している。

WHOはこの分析に異議を唱えることなく、ただ無視している。

例えば、ニパウイルスが「出現」したのは、それを検出できるようになった1990年代後半だ。今では、コロナウイルスの新たな変異株を容易に見分け、医薬品を促進することもできるようになった。いずれも、検出できるようになり、気づけるようになっただけであって、リスクに変化はない。

また、ウイルスを改悪することもできるようになった。これは比較的新しい問題だ。

しかも、WHOは中国によって浸透されており、WHO総会の執行理事会メンバーには北朝鮮が選ばれている。彼らが将来的に生物兵器による緊急事態を管理することになって本当にいいのか?

新型コロナウイルス感染症が自然発生ではなかった証拠が増えているにもかかわらず、世界銀行は次の10年でアウトブレイクが3倍に増加するとしている。しかし、その主張の裏付けとして引用されているモデリングでは、新型コロナのようなイベントが再び発生するのは1世紀に1回未満と予測されている。

WHOは、過去20年間におけるアウトブレイクの増加を示唆するために、コレラ、ペスト、黄熱病、インフルエンザの亜型などを持ち出すが、これらの疾病は過去数世紀においてもっと桁違いに酷い状況だった。

以上のことを踏まえると、ますます混乱してくる。なぜWHOは、加盟国に提案書の中身をきちんと検討する時間も与えないまま、自らの法的要件を破ってまで採決を強行しようとしているのか。

そんなに切羽詰まっているのは、公衆衛生上の必要性以外に理由があるに違いない。その理由については、人それぞれ考えればいい。しかし、私たちは人間だ。法的拘束力のある国際協定の準備が進んでいる時だって、守るべき自我がある。

比較的小さい疾病負荷

急性疾患のアウトブレイクによる疾病負荷、つまり死亡率や損失生存年数(疾病により失う命の年数)は、全体的な疾病負荷の一部分に過ぎない。マラリア、HIV、結核といった多くのエピデミック(地域流行)規模の感染症や、増加している非感染性疾患に比べれば、その疾病負荷ははるかに小さい。

過去20年間の自然なアウトブレイクで千人以上の死者を出した例は少ない。ちなみに、結核は8時間で千人以上の命を奪っている。より疾病負荷の大きい疾患が公衆衛生の優先事項となるべきだ。その疾病が儲からなそうでもだ。

現代における抗生物質の開発により、過去に大きな災厄となったペストやチフスによる大規模なアウトブレイクは発生しなくなった。インフルエンザはウイルスによって引き起こされるが、死亡のほとんどは二次的な細菌感染によるものだ。そのため、スペイン風邪が繰り返し流行するような事態は1世紀以上見られていない。

医療技術は向上し、栄養状態や衛生環境も一般的には改善した。旅行が広く普及したことで、免疫が未熟なままの大規模集団が発生するリスクがなくなった。つまり人類の免疫は強靭化した。がんと心臓病は増加しているが、感染症は全体的に減少している。では、私たちは何に焦点を当てるべきだろう?

この記事で述べられている見解は著者の意見であり、必ずしも大紀元の見解を反映するものではありません。
公衆衛生医、ブラウンストーン研究所の上級研究員、グローバルヘルスにおけるバイオテクノロジー・コンサルタント。世界保健機関(WHO)の医務官および科学者、開発途上国に適した感染症の新たな診断技術の開発と普及を目的とした活動を行うスイスの非営利組織「FIND」のマラリアおよび発熱性疾患担当プログラム責任者、米ワシントン州ベルビューのIntellectual Ventures Global Good Fundのグローバルヘルス技術担当ディレクターを経て、現在に至る。