【寄稿】米大学のデモで逮捕者、内戦の予兆か 見え隠れする中国共産党の影響力

2024/05/06
更新: 2024/06/13

「いちご白書」をもう一度

米国の名門コロンビア大学のキャンパスに4月17日、イスラエルのガザ進攻に抗議する学生ら数百人がテントを設営しデモの野営地を作った。これに対し大学当局は警官隊を導入し、翌18日、テントは撤去され学生ら108人が逮捕された。

こうした抗議デモは、イスラエルのガザ進攻以降、米国の各大学で展開されてきたが、これほど大量の逮捕者が出たのは初めてである。

コロンビア大学といえば、1968年にベトナム反戦運動で全学封鎖がされ、それを大学当局が警官隊を導入して強制排除するという事件が起きた。当時はベトナム戦争に米国が介入して泥沼に陥り、米国のみならず日本を含む世界各国の大学で反戦運動が繰り広げられていた。

コロンビア大学の1968年の事件は、その一コマだが、1970年に米国で「いちご白書」という題名で映画化され、世界的に注目された。松任谷由実作詞・作曲の名曲「いちご白書をもう一度」は、この映画がモチーフになっている。

現代によみがえる学園紛争

ところが2024年の現在、往年の学園紛争を彷彿とさせる光景が現出した。コロンビア大学での4月18日の取り締まりに対する反発から全米の大学で抗議活動が過激化し、22日にはエール大学やニューヨーク大学でも多数の逮捕者が出た。これを皮切りに、30日までに全米の20の大学で800人以上が逮捕されるに至った。

「過ぎ去った昔が鮮やかによみがえる」という松任谷由実の歌詞をそのまま体現するかのように事態は進行した。4月29日にコロンビア大学のハミルトン・ホールが占拠されたのだ。1968年当時、全学封鎖をしていた学生たちは次第に追い詰められ、最後にこのハミルトン・ホールに立てこもった。

日本で例えると、1968年に立てこもった東大安田講堂に今再び立てこもったようなものである。翌30日、大学当局は警察を突入させ、ハミルトン・ホールを解放した。まるで映画「いちご白書」を見ているかのような事態の進行ぶりである。

左翼活動家の影

しかし、ここまで来ると話が出来過ぎのように感じられないだろうか。1968年の事件では、全学封鎖が徐々に解除され、最後に残ったのがハミルトン・ホールだった。ここに1週間学生が立てこもった末、警官隊が突入し強制排除された。当時、学生は非暴力的な抵抗を繰り返していたため、体制側の強権的な姿勢がクローズアップされた。

ところが今回は、4月29日にハミルトン・ホールの入り口をこじ開けて侵入した。率いていたのは学生ではなかった。不法侵入であるから、強制排除されるのは最初から分かり切っている。明らかに1968年の事件を意識したパフォーマンスであり、それが学生以外の人物によって指導されていたということであれば、政治的な意図を持ったプロパガンダとも言えよう。

コロンビア大学に限らず今回の騒動では、学生以外の人物が紛れ込んでいることが度々指摘されている。4月27日にワシントン大学で逮捕された中には、大統領選に緑の党から出馬しているジル・スタインが含まれていた。

なぜ大統領選の年に起きるのか?

1968年と2024年の共通点は、ともに大統領選の年であることだ。そして時の大統領が民主党であることも共通している。1968年当時の大統領リンドン・ジョンソンは、米軍をベトナムに大量に派兵した張本人だった。そのため、反戦運動が高まるにつれ支持率が下がり、1968年前半に大統領選不出馬を宣言した。

代わって民主党候補となったのは副大統領のハンフリーだったが、候補が確定した民主党大会は反戦活動家に取り囲まれ、警官隊との衝突が繰り返され、流血の惨事となった。結局ハンフリーは11月の本選挙で共和党のニクソンに敗れたが、反戦運動の激化が民主党政権に不利に働いたのは間違いあるまい。

2024年においても、同様の事態が懸念される。

4月22日、バイデン大統領は「反ユダヤの抗議行動を非難する。またパレスチナ人に起きていることを理解しない人たちも非難する」とどっちつかずの立場を表明した。

これに対しトランプ前大統領は「各大学で起きていることは、バイデンが間違ったシグナルを送ったからだ」とバイデンの対応を非難した。

米国の大学生は、もともと民主党支持者が多い。バイデンは奨学金返済免除を打ち出していることもあって、大学生の支持を獲得してきた。今回の騒動で、その支持は失われそうになっており、大統領選への影響が懸念されている。

中国共産党の情報工作

だが本当の問題は、学生たちの行動の背後にある。今回の運動に学生以外の人が多数関わっていることは確認されている。プロの左翼活動家との指摘もある。ブリンケン国務長官は「中国が影響力を行使し、ほぼ間違いなく大統領選への介入を試みている証拠を発見した」と4月26日、CNNのインタビューで述べている。

ロシアが米大統領選に介入しようとしたのは既成事実である。米国と対立する大国が米国政治に情報工作を仕掛けようとするのは当然であり、中露の情報機関は間違いなくそうした工作活動を行っているはずだ。

1970年前後の米国の学園紛争についても、背後に中国共産党がいたことは明らかだ。なにしろ当時の学生たちは毛沢東の肖像を掲げ、毛沢東主義を鼓吹していたのだ。当時の米国で中国語を理解する大学生は極めて少数である。中国共産党が背後で影響力を行使していなければ考えられない事態である。

TikTokは中国共産党の手先?

中国共産党は、何の目的で米国の学園紛争に介入したのだろうか。実は具体的な目的があったのではない。混乱を引き起こすこと自体が目的なのだ。これは中国共産党の革命工作であり、現在もタイ、ネパール、ミャンマーなどで用いられている手法だ。そして現代の米国でも用いられているのだ。

今回の騒動でTikTokが大きな役割を果たしていることが指摘されている。TikTokは中国の企業が運営するSNSだが、米国の若者の間で圧倒的な人気を誇っている。ところが、それが配信する動画は反イスラエル、親パレスチナを煽るものばかりなのだ。

これは明らかに偏向した報道だが、実は現在の中国共産党の中東政策とは完全に一致する。中国の企業は中国共産党の意向に従うことが義務付けられており、従ってこの偏向は中国共産党の意向に沿ったものだと断言できよう。

(了)

この記事で述べられている見解は著者の意見であり、必ずしも大紀元の見解を反映するものではありません。
軍事ジャーナリスト。大学卒業後、航空自衛隊に幹部候補生として入隊、11年にわたり情報通信関係の将校として勤務。著作に「領土の常識」(角川新書)、「2023年 台湾封鎖」(宝島社、共著)など。 「鍛冶俊樹の公式ブログ(https://ameblo.jp/karasu0429/)」で情報発信も行う。