【プレミアム報道】国土蝕む太陽光パネル 「地元住民に無益」と批判の声

2024/03/16
更新: 2024/03/15

山林を飲み込み、田畑を覆い尽くす太陽光パネル。「気候変動を防ぐ」という名目のもと、自然環境や人々の生活、そして安全保障環境に大きな影を落としている。同様の状況は米国でも進展している。記者が現地住民の生の声を取材した。

太陽光発電は広大な土地を必要とする産業だ。米国ではバイデン政権の主導のもと、大規模な公有地を囲い込み、発電施設の候補としている。その大きさ実に22.3万平方キロメートル。アイダホ州やミネソタ州とほぼ同じ面積だ。

米内務省の部局である土地管理局(BLM)は、米国西部の11の州に跨る「ウェスタン・ソーラー・プラン」と呼ばれる計画を掲げている。内務省副長官代理のローラ・ダニエル・デイビス氏は1月17日の声明で「我が省の取り組みは、2035年までに炭素汚染のない電力生産を実現するというバイデン・ハリス政権の目標を達成するために極めて重要だ」と強調した。

バイデン政権は2025年までに公有地で風力と太陽光発電を使い、25ギガワットの電力を発電し、2035年までに電力を100%「再生可能」なもので置き換えるアジェンダを掲げている。土地管理局は具体的な土地利用を担当する部署だ。

米エネルギー省のデータによれば、1ギガワットの電力を生み出すために必要となる太陽光パネルは300万枚を数える。1ギガワットの電力は、およそ50万から75万世代の使用電力に相当する。

土地管理局によると、太陽光パネルが設置されるのは「多用途」として登録された土地だ。人々はそれらの土地で、耕作や放牧、狩猟、掘削、レジャーなどを行うことができる。

現地の情勢に詳しい関係者は、バイデン政権の「国土改造計画」は地域社会にとって危険信号であると考えている。

ユタ州公有地政策調整局の担当官であるディラン・ホイト氏は、一連の政策について「(世論の)心証はよくない」とエポックタイムズに語った。

「心証がよくないのはなぜか。ユタ州ではすでに69平方キロメートルの土地が太陽光発電用に確保されている。その数字が一気に100倍以上になるわけだ」とホイト氏。「全くひどい話だ」。

いっぽう、環境保護団体や風力・太陽光エネルギーの擁護者らはバイデン政権の計画を称賛した。「ウィルダネス・ソサエティ」は、「我々は気候変動の圧力と今日の化石燃料ベースのエネルギーシステムの不正義に直面している。迅速に再生可能エネルギー経済へと移行すべきである」との声明を発表した。

ロサンゼルス・タイムズ紙は、「バイデン政権の米国西部に対する太陽光発電計画は怖く聞こえるが、気候変動よりはましだ」と肯定的な論説を掲載した。

記事では、20世紀半ばにニューヨーク市の都市計画や巨大都市インフラの設計を担当したロバート・モーゼス氏にも言及した。モーゼス氏の悪名高い巨大プロジェクトの中には、都市コミュニティを貫き、かつては活気に満ちていた地区をスラム街に変えたクロスブロンクス高速道路などがある。

環境保護がかえって環境破壊

環境保護団体の支持があるにもかかわらず、一部の学者は政府の開発プロジェクトの規模と使用する土地の多さに懸念を抱いている。

政策分析家で、「District of Conservation」のホストでもあるガブリエラ・ホフマン氏は、「環境を守るべきだと彼らは言っているが、そのためなら環境を破壊することを容認している。自然保護主義者なら、それは理にかなっていないのではないか」と語った。

自然保護団体「The Nature Conservancy」が2023年5月に公開した報告書によると、2050年までに風力・太陽光発電を利用してCO2排出量を実質ゼロにする目標を達成するためには、65万平方キロメートル以上の土地が必要だ。これはテキサス州全域に相当する面積だ。

一部の地域コミュニティは、農村地帯で風力・太陽光発電所を設置するのに反対している。エネルギーアナリストのロバート・ブライス氏は、これまでに全米で風力・太陽光発電所の設置に反対した600以上の地域コミュニティのデータベースを作成した。

ブライス氏は取材に対し「(気候変動活動家たちは、)田園風景を太陽光パネルの海と風力発電所の森で敷き詰めれば環境を救うことができると考えている。この矛盾した論理を彼らは果たしてどのように正当化するのだろうか」と語った。

地域コミュニティの抵抗を抑えるため、ミシガン州などでは、地元住民が風力発電や太陽光発電のプロジェクトを拒否することを防ぐ新しい法律が制定されている。しかし、米国西部の諸州では依然としてBLM計画への大幅な反発が予想されると述べている。

ユタ州公有地政策調整局のディラン・ホイト氏は「(建設プロジェクトは)間違いなく野生動物に影響を与えるだろう」と述べた。太陽光発電設備が設置されたエリア内に生活する生き物だけではなく、そのエリアを通りかかる生き物にも影響が及ぶと考えられている。

さらに、「牧場経営者との間には確実に対立が生じるだろう。建設地によっては、公共の土地へのアクセスについて対立が起こる可能性があるし、鉱業界と対立する可能性もある」と語った。

太陽光発電による民業圧迫

日照のいいネバダ州は、カリフォルニア州やラスベガスの増大する電力需要のなか、太陽光発電施設の開発に最適な州の一つとされている。

連邦政府はネバダ州の土地の85%を所有しており、そのほとんどは砂漠地帯だ。これに対し住民は、ネバダ州には野生生物がいないという考えに異を唱え、土地管理局の太陽光発電計画の規模の大きさを懸念している。

ネバダ在住の公共土地コンサルタント、アンディ・リーバー氏はエポックタイムズの取材に応じ、「ネバダ州は硬岩採掘で知られてるが、ネバダにおける採掘活動の影響が及ぶ土地の平均面積は4平方キロメートルに満たない」と述べた。

「ネバダ州太陽光発電開発計画のほとんどは16平方キロメートルから20平方キロメートルだ。中でも目立つのは7つの施設が連続する複合施設であり、およそ250万平方キロメートルという広大な土地を覆ってしまう」

多くの気候変動活動家は、現地の採掘業や掘削業、牧畜産業がなくなったとしても何も思わない。いっぽう、地域コミュニティに暮らす住民の食料やエネルギー、雇用、税収はそれらに依存している。

「石油やガス産業であれば、地中から掘り出されたものには全て付加価値が付く。その付加価値の一部が地域コミュニティに還元されるのだ。太陽光発電の場合、そのような仕組みはない」

ホイト氏は「開発業者は連邦政府所有の土地に施設を建て、土地管理局に許可料を支払うが、地域経済には何の恩恵ももたらされない」と指摘した。

土地管理局は「環境正義」を重要な原則と挙げている。しかし、貧しい農村地域に住む人々が太陽光発電施設の影響を受けるいっぽう、電力の供給を受けるのはカリフォルニア州などの裕福な都市部に住む人々だ。

「もちろん、環境への影響について考えなければならない」とホイト氏。「しかし同時に、広大な太陽光発電施設や送電網を抱える地域コミュニティのことも考えなければならない。彼らは発電施設と共存しなければならないのに、何も得ることができないのだ」

もうひとつの問題は、太陽光発電施設がその土地の他の用途を無くしてしまうことだ。リーバー氏は語る。

「放牧地の場合、その周辺ではレクリエーションから採掘に至るまで、様々な活動を行うことができる。いっぽう、大規模な太陽光発電施設の周辺では、他に何もできない。多目的だった土地が、単一の目的にしか使えなくなってしまう」

土地管理局が計画しているような実用規模の太陽光発電施設は、地域全体をソーラーパネルで覆い尽くし、地上と地下の両方でその地域の植生や野生生物を一掃してしまうことが多いため、農業、放牧、狩猟、レクリエーションの場を奪い、同時に掘削や採鉱を妨げることが多い。

1976年に制定された連邦土地政策管理法では、連邦の複合利用地がどのように管理されるべきかを定めた。

「連邦政府が管理する公用地に太陽光発電が導入されると、土地の多用途利用ができなくなる」とリーバー氏は指摘した。

「太陽光発電をエネルギーポートフォリオの一部にしたいが、対立を最小限に抑えつつ目標を実現できれば理想的だ」と述べた。

否定された代替案

土地管理局の太陽光発電計画に対して、複数の州は「Smart from the Start」という独自の提案を立ち上げた。すなわち、ゴミの埋立地や有毒物の廃棄場所、閉山された鉱山など、使用放棄された土地に太陽光発電施設を集中させるというものだ。

提案では、野生動物の生息地や渡り路、農地や住宅地の近く、また農業、牧畜、観光、レクリエーション、産業で利用されている土地の付近には発電施設を建造しないこととしている。

「Smart From the Start」案は、土地管理局のプランと「実質的に類似している」として却下された。

地元当局は、エネルギー開発計画には、風力や太陽光のような天候に左右されるエネルギー源とのバランスをとるために、原子力やガス、石炭などの「ベースロード電源」もかなりの割合で必要だと指摘する。そして、開発計画は公有地への影響を最小限に抑える必要があるという。

ホイト氏によると、ユタ州は素晴らしい地熱資源を持っている。

「2.5平方キロメートルもの土地を必要とする太陽光発電所と同じエネルギーを供給できる地熱発電所なら、たった0.16平方キロメートル程度の土地で済むので、環境への影響は格段に小さいのだ」

「石油の場合、水圧破砕法のような最新技術を使えば、昔のように多くの井戸を掘る必要がない。その結果、土地への影響を小さく抑えることができ、地表面への破壊を最小限に押させることができる」

太陽光発電所による環境破壊

最近、地球の気温上昇を抑えるために風力や太陽光発電を長年支持してきた人々も、これらの技術が環境に与える影響について懸念を強めている。

英紙「ガーディアン」の2023年5月付の報道によれば、カリフォルニア州の太陽光発電所は、かつて自然豊かなオアシスを「太陽光パネルの死の海」に変貌させてしまった。同記事は、モハベ砂漠にある600平方キロメートルの太陽光発電所を調査し、地元の野生生物への「壊滅的な影響」や、ソーラーパネルによる大量の水消費がもたらす地元の井戸の枯渇、近隣住民の健康への悪影響を伝えた。

環境活動家らは、モハベ砂漠のこの一帯には、大気中の炭素を取り込んで地中の根系に固定する1000年前の森林などの植生が生息していると述べた。地域住民からは、土を保持していた地元の植物が破壊された結果、呼吸器に問題をもたらす砂嵐が発生しているとの声が上がっている。

リーバー氏は、狩猟者や農家、環境保護団体など、政治的な立場が異なる様々な関係者が、太陽光発電の開発の影響について共通の関心を持っていると指摘した。

「開発を進める際には、地域社会の健康を害したり、貴重な野生生物の生息地を損なったり、種の多様性や水源保護区域に大きな影響を与えることがないよう、慎重に立地を選ぶべきだという共通認識が形成されつつある」

経済記者、映画プロデューサー。ウォール街出身の銀行家としての経歴を持つ。2008年に、米国の住宅ローン金融システムの崩壊を描いたドキュメンタリー『We All Fall Down: The American Mortgage Crisis』の脚本・製作を担当。ESG業界を調査した最新作『影の政府(The Shadow State)』では、メインパーソナリティーを務めた。