米、中国人のグーグル元従業員を起訴 盗んだ商業技術で中国起業

2024/03/08
更新: 2024/03/07

司法省は6日、グーグル元従業員の丁林葳(リンウェイ・ディン)被告(38)を、グーグルの人工知能(AI)に関する商業機密を盗み、中国企業に横流しした疑いで起訴したことを発表した。厳しいセキュリティ対策を講じている巨大IT企業から機密情報を盗み出す、その手口とは。 

金銭の誘惑

丁被告は2010年に大連理工大学を卒業し、2012年に南カリフォルニア大学で修士号を取得した後、米国でキャリアを積んだ。2019年にグーグルに入社し、スーパーコンピューターに関連するデータセンター部門で働き、機械学習やAIアプリケーションのソフトウェア開発を担当していた。

丁被告は職務上、機密情報にアクセスすることができた。2022年5月21日頃からグーグルの許可を得ることなく、機密情報を個人のクラウドに転送し始めた。この行為は2023年5月2日まで続き、500件を超えるファイルが不正に持ち出された。

ファイルの持ち出しが始まってからおよそ1カ月後の2022年6月13日、丁被告は中国北京にある企業から最高技術責任者(CTO)のオファーを受けた。報酬は毎月10万人民元(およそ200万円)。追加のボーナスやストックオプションも用意されていた。

丁被告は同年10月29日に中国本土に飛び、翌年3月25日まで滞在した。

中国で副業

中国滞在中には、スーパーコンピューティングを利用した大規模AIモデルのトレーニングを加速する技術を開発する企業を立ち上げ、CEOに就任した。

グーグルは競合他社への勤務禁止や商業機密の業務外利用など、従業員に厳しい規制を設けいた。丁被告も同意書にサインしていたが、中国での活動を一切報告しなかった。

丁被告が立ち上げた企業は、スーパーコンピューティングを活用した大規模なAIモデルのトレーニングなど、機械学習を高速化させる技術の開発を行うものだ。2023年11月24日に北京で開催されたベンチャーキャピタル投資家の会合で、丁被告は次のような売り文句で自社を紹介した。

「私たちはグーグルの巨大プラットフォームを経験してきた。それを複製してアップグレードし、中国の国情に適した計算プラットフォームを開発する」

つまり、自社の魅力は「グーグルの技術のコピー」だと、はばからずに宣伝していたのだ。

犯罪の隠蔽

グーグルは自社の知的財産と商業機密を守るため、一連のセキュリティ対策を施している。従業員に支給するパソコンには監視ソフトを入れ、ファイルの転送などを監視。さらに、中国や北朝鮮、イランなどの国に渡航した従業員に対し、社内サーバーへのアクセスに制限を設けている。敷地内には多数の監視カメラを設置し、ネームタグによって入館者を管理している。

にもかかわらず、丁被告はこの監視をかいくぐり、情報を外部に持ち出しだしていた。どんな手口なのか。

まず、グーグルのソースファイルを「ノート」アプリにコピーし、そこからPDFファイルに変換した。そして、グーグルのネットワークを使い、自身が保有するプライベートのアカウントにデータを移送していた。

さらに、丁被告は中国に渡航している事実を隠すため、他の社員に自身の入館証を渡し、出社しているかのように偽った。

検挙

2023年12月8日、グーグルの社内監視システムは丁被告が内部資料を不正に持ち出しているのを検知し、異常を知らせた。当時、丁被告は中国から社内サーバーにアクセスしていた。

社内調査員の質問に対し、丁被告は、自身がグーグルで勤務していたことを証明できる資料を保存していたと説明。グーグルを離れるつもりはないとし、「データ消去宣誓書」にサインした。すでに持ち出した500件以上の機密情報については供述しなかった。

丁被告は12月14日、北京行き航空券を購入した。片道切符だった。12月26日、グーグルに退職願を提出した。翌年1月7日には米国を離れ中国に渡るはずだった。

事態は12月29日に大きく動いた。丁被告が中国企業でCEOを務めていることを知ったグーグルは、社内サーバーへのアクセス権を剥奪し、支給したパソコンも遠隔操作でロックした。丁被告のログを調べ、2022年5月から続いていた機密情報の不正な持ち出しを突き止めた。

監視カメラの映像解析によって、同僚が丁被告の入管証を持ってセキュリティゲートを通過していたこともわかった。

FBIは1月6日と13日に丁被告の住居を家宅捜索し、のちに身柄を拘束した。

パターン化する手口

最先端技術の開発において西側諸国に遅れをとる中国は、国外に滞在する研究者らに高い報酬と地位を与え帰国を促す「千人計画」を政府主導で進めてきた。昨年には日本の国立研究所に勤める中国人研究者が知的財産の漏えいにより逮捕されるなど、類似する事例は後を絶たない。

スパイ行為に詳しい元警視庁捜査官の坂東忠信氏は以前、大紀元の取材に対し、中国共産党がスパイを活用する理由の一つに「コストカット」があると指摘した。

「10年くらい前に見た資料によると、1から研究開発する場合と、既製品を入手して開発する場合とを比べた場合、後者のほうが8割ほどコストカットできるという。研究費用の上乗せがない分、安く製品化できため、真面目に開発してきた側との価格競争で勝てる」

窃取された先端技術が中国の軍需産業にわたり、軍備増強に使われるリスクも大きい。

ガーランド司法長官は、外国の敵対勢力が人工知能技術を用いて米国の国家安全保障を脅かす可能性について警戒するよう呼びかけてきた。FBIのレイ長官も、中国企業は全力を尽くして米国の最新技術を盗もうとしていると指摘した。

米国のエマニュエル大使は7日、日本と米国における技術窃盗や、EUなどにおける中国国家安全部職員による感染症治療法の窃取といった事例を挙げ、「手法がパターン化している」と指摘。「革新と競争で指導者への道を歩む者がいる一方で、近道を選ぶ者もいる。それも盗みによって!」と非難した。

有罪判決が下された場合、丁被告には最高で10年の懲役刑と罰金刑が科せられる可能性がある。

エポックタイムズはグーグルにコメントを求めている。

政治・安全保障担当記者。金融機関勤務を経て、エポックタイムズに入社。社会問題や国際報道も取り扱う。閣僚経験者や国会議員、学者、軍人、インフルエンサー、民主活動家などに対する取材経験を持つ。