今月9日、河北省滄州市青県の「春晩」のライブ配信中、当局者にとっては全く想定外のことが発生した。
そのライブ配信のコメント欄が「張新偉」「正義」「不正」「殺人者に報いを」といった、不審死を遂げた青年・張新偉さんのために声を上げるユーザーからのコメントで埋め尽くされたのである。
「春晩」のコメント欄に並ぶ「張新偉」
張新偉さん(18歳)は江蘇省連雲港市で昨年12月9日に失踪。今年1月14日に、川のなかから謎だらけの水死体となって見つかった。地元の公安当局は、これを「自殺」と決めつけただけで、事件の真相を一切明らかにしていない。
「春晩(春節連歓晩会)」とは、旧暦の大晦日(2024年は2月9日)の夜から元旦にかけて行われる中国中央電視台(CCTV)の番組である。中国版の「NHK紅白歌合戦」と呼ばれるものだが、その内容や演出は、多分に中国共産党を美化し、宣伝する意図があからさまである。
(共産党賛美の「春晩」のライブ配信中、コメント欄は張新偉さん失踪致死事件の真相を求めるユーザーの声で埋めつくされた)
「なぜCCTVの春晩ではなく、河北省滄州市青県の春晩だったのか」という点に関しては、「CCTVの春晩ライブ配信ではコメントができなかったため、ここにした。みんなで世論を形成して、中共当局に張新偉事件について追究させたいんだ」と、一部のネットユーザーは明かしている。
実はこの時、河北省滄州市青県の「春晩」ライブ配信に限らず、配信画面でのコメント表示が制限されていない他の「春晩」のライブ配信でも同様に、張新偉さんの事件に関する真相究明を求める声が上がっていた。
しかし現在、中国版tiktok「抖音」では、張新偉の関連動画に対して制限し始めている模様。そのため、同事件について言及する際には、ネット検閲を回避するために、張新偉さんが生前に残した「春和景明」という言葉を使うネットユーザーも多い。
張新偉は「第二の胡鑫宇」か?
張新偉さんは江蘇省連雲港市で昨年12月9日に失踪し、今年1月14日に川のなかから謎だらけの水死体となって見つかった。
その際に家族は、遺体のそばへ近寄ることさえ許されなかったため、臓器などが抜き取られていたか否かは、確認できていない。
事件の後、張新偉さんの父親は連日のようにネットを通じて、真相究明と関係者の責任追及を求めていた。ところが父親の携帯電話は、自宅から「公安当局の結論に異議を唱える内容」のライブ配信を行っている最中に、家の中に押し入ってきた大勢の正体不明の男たち奪われている。
「地元当局が、何かを隠蔽するため、裏で動いているのではないか」。こうした現地当局への不信感とともに、張新偉さんの家族に連帯し、支援する輪が広がった。
先月24日、周辺地域から数千人の支援者が張新偉さんの家のある村の入口(警察によって封鎖中)に集結して、張新偉さんの父親への連帯を示した。張新偉さんの家のある村は、それから1か月近く経った今もなお封鎖状態にある。
一部の現地市民によると、中共当局は町のすべての村の村民全員に対して「張新偉は自ら川に飛び込んだ」とする、当局が主張する「事実」について認める署名をするよう強要していたという。
「口封じの金」を拒否した遺族
中国メディアの取材に応じた張新偉の祖父は、「誰かが150万元(約3100万円)の口止め料で、我われ遺族の口を塞ごうとしていた」と明かしている。家族は、この口止め料の受け取りを拒否したという。
多くの不可解な点が存在する張新偉事件に関して、民衆の間では「これは第二の胡鑫宇ではないか」といった「臓器狩り」を疑う声が広がっている。
胡鑫宇(こきんう)事件は、2022年10月14日に江西省鉛山県の胡鑫宇さん(当時15歳)が学校から理由もなく失踪し、翌年1月28日に学校近くの林のなかで変死体となって発見されたもの。
遺体の臓器が抜き取られていた可能性があるが、地元警察は「本人の意思による首吊り自殺」と断定している。
さらに警察当局は、強引に幕引きを図るため異例の記者会見まで開いたが、そうした隠蔽体質からして、かえって組織的な「臓器狩り」の可能性をふくむ殺人が疑われている。そうであれば、胡鑫宇さんは始めから狙われて拉致され、殺害されたことになる。
以来、中国では、失踪した若者が変死体で発見されるたびに「第二の胡鑫宇ではないか」との疑いがもたれるようになった。
ただし、この場合の「第二の胡鑫宇」とは、ひとつの「第二」ばかりでない。
今や中国全土に、その「第二の胡鑫宇」を疑われる事例が無数にある。しかし、多くの場合「本人の意思による自殺」で片づけられている。
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