2024年1月6日、中国福建省のある町の広場に、失踪した我が子を探す親たちのグループがいた。首から下げたプラカードには、ある日、全く理由も分からずに失踪した子供の写真がある。
親たちは、広場をゆく市民に向かって、失踪児童に関する情報提供と捜索への協力を求めている。
「藁にもすがる思い」だが、藁さえない中国
これと全く同じ光景が、この福建省だけでなく、中国の各地で普遍的にみられている。
そのような場面で、ある母親は地面にひざまずき、大声で泣きながら市民に捜索への協力を求めていた。「どなたか、私の子を知りませんか」「どうか、この子を探してください」。母の涙声は、いつしか叫びに変わっている。
愛する我が子が突然いなくなり、親たちは連日、気も狂うほど泣いたに違いない。巨大な悲しみのあまり、まだ高齢ではないはずの母も、父も、まるで老人のような顔になってしまった。
しかし写真のなかの我が子は、その母が両腕に抱きしめた頃の幼い顔のまま、何年も時間が止まっているのだ。
失踪児童の親たちは、まさに「藁にもすがる思い」で、この広場に集まり、市民に呼びかけている。しかし今の中国には、悲しむ庶民がすがる「藁」さえない。
それは本来、失踪児童をまっ先に捜索し、誘拐犯を逮捕するべき警察が、なぜか全く動かないからだ。交通違反の「罰金稼ぎ」にはフル活用される監視カメラが、失踪者の捜索には全く使用されていない。
市民との接触を遮断する「マスク姿の男たち」
その時、制服ではない私服で、マスク姿の男たち10数人が広場に現れ、失踪した我が子を探す親たちの前に、ずらりと並んで立ちはだかった。
その異様な光景は、失踪児童の親たちが市民と接触することを、あからさまに遮断する「人の壁」を作っているに等しい。
中国国内の情報を発信する、著名なツイッターアカウント「李老师不是你老师(李先生はあなたの先生ではない)」によると、その概要は以下の通りである。
「今月6日、福建省のある町の広場で、マスク姿の男たちが失踪した我が子を探す親たちの前に立ちはだかった。失踪した子の写真を首から下げたり、または写真パネルを高く上げて道行く市民に見せている。親たちはこの広場で、道行く市民に失踪した我が子の捜索への協力を呼び掛けていた。しかし、マスク姿の男らに遮られ、市民に接触できない」
マスク姿の男たちは「無言のまま、腕組みをして立つ」だけである。しかし、彼らがそこに立つこと自体が威圧であり、失踪児童の親たちと市民が接触するのを意図的に遮断しているのは明らかだ。もちろん、この男たちは「上からの命令」によって、そうしている。
男たちの正体について、関連動画に寄せられたコメントでは「私服警官だろう」「当局が差し向けた要員だ」とする指摘が多い。
(「マスク姿の男たち」が、失踪児童の親たちと市民が接触するのを意図的に遮断している)
監視大国の中国で、なぜ見つからないのか
ある日突然、理由もなく「人が消える」。それが今の中国の現実である。
近年、中国のSNS上には、失踪した人に関する情報の提供を呼びかける通知があふれている。各地の街中には、「尋ね人」の写真つき看板を手に持ち、泣きながら地面に跪いて通行人に情報提供を求める失踪者家族の姿が、どこに行っても目に入るのだ。
失踪者は、子供に限らず、中高生や大学生。さらには働き盛りの青年から壮年期の世代までと、非常に幅がある。
「中国は、防犯カメラで埋め尽くされた監視大国ではないか。それなのに、なぜ我が子は見つからないのか?」と、いぶかしがる声が、家族の悲痛な叫びとともに広がっている。
中国の公式データによると「国内における毎年の失踪者は百万人を超える」という。もちろん、これは中共政府による公式データの数字である。「百万人を超える」というが、一体どこまで「超える」のかは想像もつかない。
通常の場合、反体制派の人物や民主活動家、あるいは地方政府の不正を中央に訴える陳情者であれば、どこにいようと中国の警察は即時に察知し、居場所を特定できる。
つまり、捜査当局が本気であれば、監視カメラが無数に設置され、市民の通信を完全に傍受している監視大国の中国で、1人の失踪者を探し出すのは決して難しいことではない。しかし、失踪者が(遺体になってからではなく)無事に発見されるケースは極めて少ないのが現状だ。
監視大国の中国で、なぜこの子供たちが見つからないのか。
米国の中国問題専門家ゴードン・チャン(Gordon Chang)氏は「それは中国共産党の暗黙の了解を得ているからだ」と指摘する。
つまり、子供をふくむ失踪者が大量に生じる現状について、中国共産党当局が関与、あるいは知りながら黙認していることになる。
中共の下にある全ての組織や機関が、警察もふくめて、そもそも共犯者もしくは不作為というかたちの協力者であるのだ。
「臓器狩り」「臓器移植」との関連性はあるか
米政府系放送局のラジオ・フリー・アジア(RFA)は2022年11月22日付の報道のなかで、在米の人権弁護士・呉紹平氏の話を引用して「中国の失踪者と臓器移植との関連」について報じている。
呉氏は「中国では、失踪者が毎年百万人を超えている。そのなかで、臓器狩り(強制臓器収奪)に関連するケースは少なくないだろう。しかし、当局がそれを公にすることはない。なぜならば、その背後には巨大な利益が絡んでいるからだ」と指摘した。
我が子を探し求める親たちを市民から遮った「マスク姿の男たち」は、もちろん「上からの命令」によってこの場所に来ている。この場合「上」とは、現地の公安部門であることは、ほぼ間違いないだろう。
つまり「マスク姿の男たち」が街中でみせた異様な光景は、中国の警察が、子供を奪われた被害者家族とは正反対の立場、あえて明言するならば「犯人の側」に所属する権力組織であることを明確に示している。
中国共産党は、すべてが悪魔思想で動く組織である。この悪魔思想の原理を、極めて分かりやすい言葉で代替するならば、例えば「金が儲かる」ということであろう。
「臓器狩り」による臓器移植は、莫大な金が「儲かる」。子供の人身売買も「儲かる」。交通違反の「罰金稼ぎ」も、少額ではあるが「儲かる」のだ。
中共高官による汚職や不正蓄財も、すべて「儲かる」という原理に合致している。
だとすれば、この場所に来ていた「マスク姿の男たち」は、そうするように「上からの命令」があったことに加えて、わずかばかりの補貼(お手当て)がつくのかもしれない。
まことに小さな「儲かる」ではあるが、これもまた中共の行動原理にかなっている。もちろんその際、人間としての道徳や倫理観は、完全に捨てられている。
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