老人を助け起こした心優しい市民 医療費負担を求められる=中国 安徽

2023/12/21
更新: 2023/12/21

安徽省合肥市でこのほど、「中国社会のモラル崩壊」を引き起こした「彭宇(ほう う)事件」を完全に再現したような事件が起きた。

交差点で転倒した電動バイクの老人を、心優しい男性が助け起こした。ところがこの男性は、助けた老人の家族から手術費などの医療費負担を求められた。交通警察からも「責任を負うべきだ」と裁定されたという。

「親切」が、とんだ仇になる

中国メディアによると、今月10日午後1時ごろ(現地時間)合肥市内の交差点で、黒い乗用車が減速しながら右折しようとしたところ、右折先に電動バイクを乗った老人(70歳、男性)が接近、老人のバイクは乗用車の近くで転倒した。

この時、老人のバイクと乗用車との間に接触はなかった。

それでも、老人が倒れたのを見た乗用車の運転手である若い男性は、すぐに下車して老人のところへ駆け寄り、助け起こした。しかし、その「善行」が、後からとんでもない災難をもたらすことを、この心優しい男性は全く知らなかった。

老人の家族は、若者に老人の手術費用の一部を負担させようとした。本来ならば、感謝するべき相手である。しかしこの家族は、不慮の大出費に見舞われた不満もあってか、なんと若者を「補償するべき加害者」に仕立てようとしたのだ。

そして、事故を担当した現地の交通警察までもが「乗用車の運転手が、何らかの責任を負わなければならない」と裁定した。

この不条理な結果に、運転手の母親は「心優しい息子は、転んだ老人を助け起こした。それなのに責任を取らされるなんて、馬鹿げている」と怒り、この件をSNSに暴露した。

 

(投稿動画(左)は2023年12月10日に安徽省合肥市で起きた第二の「彭宇事件」。右側の動画2本は、倒れている人を見ても助けない中国の現状)

 

第二の「彭宇事件」が起きた

この事件を聞いた中国人の脳裏には、誰しも「彭宇事件(2006年、南京)」が思い出されたことだろう。ネット上では、若者が受けた不公正に憤慨するコメントが殺到している。

今から17年前の2006年11月20日、南京で「中国社会のモラル崩壊」を引き起こした特異な事件がおきた。

彭宇(ほう う)さんという20代の男性が、バス停で転倒した60代の女性を助け起こした。心優しい彭さんは、女性を病院に送り届け、その場の診療費まで立て替えた。

ところが、親切を受けたその女性が、なんと「この男(彭宇)に突き飛ばされて転んだ」と言い出し、家族ぐるみで彭さんを提訴したのだ。親切が仇となり、逆に賠償金を求められる、という前代未聞の「善行をめぐる事件」となった。

裁判の結果、被告となった男性(彭さん)に約4万元(約64万円)の支払い命令が下された。彭さんは懸命に釈明したが、裁判所は聞き入れなかった。この賠償金額は、当時の一般人の年収に相当するほどの「巨額」であった。

この時、裁判官の言った有名なセリフがある。「あなた(彭さん)がぶつかったのでないなら、なぜ助け起こしたのか?」。転倒した女性を助けたことが「加害の証拠」であるかのように、本来、公正を旨とすべき裁判官が決めつけて言うのである。

うかつに「人助け」できない国

この事件以来、「うかつな善行は賠償や裁判沙汰になりかねない」という恐るべき結論が中国人の心に焼き付いてしまった。

さらに2019年には、広東省で転倒した高齢者を病院まで連れていったうえ、診察費まで立て替えた親切な男性(40代)も、その高齢者の家族から入院費など巨額の請求をされてしまった。

彭宇さんの事件と類似する部分があるのは明白だが、こちらの男性は、なんと「身の潔白」を証明するため自殺してしまったのだ。そこまでして身の潔白を証明するからには、やはり「加害者扱い」されてしまったからだろう。

いまや「彭宇の二の舞にはなりたくない」という、人間の親切や善行とは真逆の概念が、中国社会のなかでガン細胞化していることは間違いない。

世界でも類を見ない「人助けができない大国」は、こうして出来上がった。

それでも助けるなら「証人を用意してから」

このような背景もあって、道端でお年寄りが転んでも「助け起こすかどうか躊躇する人々」が確実に増えた。

いざ助けようとすると、周りから「関わらないほうがいいよ。後であなたのせいにされかねないから」などと、わざわざ「優しさ」で止める声が上がることもある。

それでもなお「目の前の人を助ける」と心に決めた場合は、どうするか。

後から面倒なことにならないように「自分は潔白である」ことの証拠として、スマホで動画を撮る人が多いという。なかには、先に警察に連絡して「警察官という証人がいる前で、人助けする」という周到な手順を踏む人もいる。

証人がいなければ「人助け」ができないというのは、なんとも首をかしげたくなるが、それが今の中国の現実なのだ。

李凌
エポックタイムズ記者。主に中国関連報道を担当。大学では経済学を専攻。カウンセラー育成学校で心理カウンセリングも学んだ。中国の真実の姿を伝えます!
鳥飼聡
二松学舎大院博士課程修了(文学修士)。高校教師などを経て、エポックタイムズ入社。中国の文化、歴史、社会関係の記事を中心に執筆・編集しています。