焦点:続投目指すプーチン氏に経済は追い風、制裁すり抜けインフレも制御可能か

2023/12/11
更新: 2023/12/11

[モスクワ 8日 ロイター] – ロシアは西側諸国の経済制裁を巧みにすり抜けつつあり、人手不足やインフレなどの課題を抱えながらも回復に向かいつつある。来年3月の次期大統領選への出馬を表明し、通算5期目を目指すプーチン大統領にとっては追い風が吹いている状況だ。

昨年2月のロシアによるウクライナ侵攻に対して西側は、経済の締め付けやロシアの孤立を狙って制裁を発動。ところが西側の思惑、あるいはロシア側の想定よりも、同国経済は底堅さを発揮している。

重要なのは、西側がロシアの石油収入を効果的に抑え込めていない点にある。ロシアは石油の輸出先を中国やインドなどに切り替え、いわゆる「影の船団(シャドーフリート)」を駆使して西側の設定した石油輸出価格の上限制度の網の目をくぐり抜けてきた。

11月のロシアのエネルギー収入は9617億ルーブル(104億1000万ドル)で、1月の4255億ルーブルよりもずっと多い。

こうした石油収入の持ち直しとともに、プーチン氏が直面する重要な経済上の課題は深刻な人手不足になるだろう。昨年の大規模な動員や、ウクライナ侵攻後に数十万人がロシア国外に出国したことなどで、働き手が足りない状況に拍車がかかった。

<人手不足>

ロシアの失業率は過去最低の2.9%に下がっているだけでなく、政府が予算を投じて軍需拡大を図っている中で、ITなど非国防セクターは労働力が不足し、生産性の足かせになっている。

プーチン氏の経済顧問を務めるマキシム・オレシュキン氏は11月、ロシアは国内製造業の「技術的主権」を望ましい水準まで引き上げるために、より多くの技能労働者や管理職、能力の高いエンジニアを必要としていると説明。「人材にもっと積極的にやってきてもらうには、魅力的な給与が欠かせない」と付け加えた。

オレシュキン氏は、短期的な制裁のショックは乗り切ったが、西側からの圧力は今後も強まるばかりだろうし、ロシア独自の技術基盤へと経済全体が移行していかなければならないとの見方を示した。

一方、製造業と軍事産業の大幅な賃上げや、戦争と動員の影響を受けた家庭への財政支援が相まって、ロシア国民の給与所得は押し上げられている。

昨年目減りした実質所得は今年、急回復する見通し。ただセクターや地域によってばらつきは大きく、多くの家庭は特に輸入品の支出を切り詰めざるを得ない。

キャピタル・エコノミクスのシニア新興国市場エコノミスト、リーアム・ピーチ氏は「家計は大きな所得増加を経験した。しかしそれは長続きしないと思う」と語り、選挙を前に物価が上振れて、家計所得の圧迫度は強まるとの見方を示した。

<インフレの行方>

インフレを良くするのは中央銀行の仕事で、ロシア中銀は7月以降、既に計750ベーシスポイント(bp)の利上げに踏み切った。来週15日の会合でも追加利上げして政策金利を16%にするとの予想が大勢。こうした中で昨年2桁を記録した物価上昇率は今年、7.5%前後まで鈍化しそうだが、中銀が目標とする4%はまだ大きく上回る。

「物価上昇率が来年10%まで高まってもおかしくない。なぜなら経済が急速に成長を続けているからだ」と話すピーチ氏は、賃金上昇圧力と家計の予想物価が不安定化していることを指摘した。

ただ現段階では、最終的にインフレは制御可能とみられている。特にロシア国民は、痛みを感じつつも恒常的な物価高には慣れている面もある。

ピーターソン国際経済研究所とキーウ経済大学の上席研究員、エリナ・リバコワ氏は、物価が相乗的に加速していく重大な事態に陥るのは、財政への圧力がもっと大きくなり、ルーブル安にブレーキがかからず、中銀の対応が後手に回ることが条件だが、今のところそうした展開には程遠いと説明した。

<石油価格も安心の水準>

ロシア経済の生命線と言える石油価格は足元で、同国の財政安定に必要な水準よりもずっと高い。

石油輸出国機構(OPEC)とロシアなど非加盟産油国でつくるOPECプラスによる一連の減産と、ロシアが西側の輸出価格上限(1バレル当たり60ドル)を随所で回避できていることが組み合わさり、ロシアのエネルギー収入を押し上げている。

キーウ経済大学は11月、ロシアからの10月の海上ルートでの石油輸出の99%以上が、60ドルを超える価格で販売されていると分析し、価格上限の枠組みがますます危うくなっていると警鐘を鳴らした。

今年初め時点では、ロシアは財政が確かに大きな重圧を受けたが、今は財政赤字の対国内総生産(GDP)比を1%程度と見積もっている。

リバコワ氏は「石油価格が現状にとどまる限り、ロシアにとって極めて安心できる状態だ」と述べた。

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