港湾の二重用途によって重要航路の掌握を狙う中国

2023/10/13
更新: 2023/10/13

商業目的や軍事用途で使用することを目的として、中国は世界各地で港湾の建設や港湾運営権の取得を推進している。 こうした港湾を民生と軍事の両目的を兼ね備えた二重用途で使用することで、重要な航路や海路における同国の影響力を高めることが可能となる。

カーネギー国際平和基金中国研究のアイザック・カードン上級研究員が2021年に、海軍大学校と米国海軍省が発行する学術誌「ネイヴァル・ウォー・カレッジ・レビュー」で発表した論文によると、主要シーレーン(SLOC)や海上輸送における重要なチョークポイントに程近いインド洋西部および南アジアと東南アジアの沿岸にこうした外国港が最も集中している。 カードン上級研究員は台湾海峡から南シナ海マラッカ海峡、インド洋、そしてアラビア海へと伸びる海路を対象とする中国の「海上交通路戦略」を考察した中国の軍事学者の見解を引用している。

同上級研究員とインディアナ大学のウェンディ・ロイテルト助教授の研究によると、中国の事業、政治、軍事体制は世界各地で戦略的に立地する約100港の商業港に容易に融資を提供できるように構築されている。 中国管理下の物流・海運会社による港湾投資は、世界の大部分を中国と繋ぐことを目的とした同国の一帯一路インフラ構想に基づいている。 

ニューズウィーク誌が2022年10月に報じたところでは、中国共産党中央委員会総書記を兼任する習近平主席の政権下で過去10年間に締結された港湾協定は全体の半分以上に上る。

外国の港湾を用いて影響力の向上を推進する中国の作戦は、海洋強国を目指す中国の願望とまさに一致している。 2015年中国国防白書には「海洋よりも陸地に重きを置くという従来的な考え方は放棄し、海と外洋を管理下に置いて海洋権益を確保することを重要視するべきである」と記されている。

世界各国の船舶の多くが通過するインド太平洋においては特に、商業と安保を確保する上で航路や海路を管理することが非常に重要となる。 米国とその同盟・提携諸国は、安心して航行できる安全な航路を維持することで経済的繁栄がもたらされると確信している。 

アナリスト等の見解によると、戦略的な港湾を利用する中国関連の船舶は商業目的だけでなく、軍事用途にも港湾を利用する可能性があることから、中国が戦略的な港湾に多額の投資を行いながら勢力を強化する状況は他国にとって脅威となる。 

2018年7月、当時戦略国際問題研究所を率いていたジョナサン・ヒルマン上級研究員はガーディアン紙の取材に対して、「物資を輸送できるのであれば、軍隊も輸送できる」と述べている。

広範にわたる投資は危険な権力投射であり、これにはスパイ行為から経済的威圧、そして軍事拡張に至るまでの多岐にわたる安保リスクが内在することから、一部の観測筋の間では懸念の声が高まっている。 

ニューズウィーク誌が伝えたところでは、中国人民解放軍海軍(PLAN)艦船はこれまでに約3分の1に上る外国港に寄港している。 ウォール・ストリート・ジャーナル紙が2022年11月に報じたところでは、こうした港湾に入出港できることで、中国人民解放軍海軍はより容易かつ効率的に遠洋航海船を補給することが可能となる。

また、貿易や港湾への投資という手段で、中国政府が他国の行政に影響を与える可能性もある。 ニューズウィーク誌の報道によると、中国はこれまでにオーストラリア、日本、リトアニア、ノルウェー、台湾に対して報復措置として非公式な貿易ボイコットを実施した過去がある。 バージニア州に所在するウィリアム・アンド・メアリー大学のエイドデータ(AidData)研究所が2023年7月に発表した報告書には、中国が行う外国港湾への投資の規模を考えると、事業実施国に中国の影響力が及ぶ可能性があると指摘されている。

エイドデータ研究所の報告書には、中国が今後5年以内に国外海軍基地を建設する可能性のある港湾として以下の8港が挙げられている。

  • 赤道ギニア、バタ:西アフリカの大西洋岸に位置し、中国から多大な融資を受けている都市
  • パキスタン、グワーダル:アラビア海に面した戦略的な立地の港湾都市
  • スリランカ、ハンバントタ:インド洋に面し、海外港として中国が最大の港湾投資を実施している都市
  • カメルーン、クリビ:中国から多額の融資を受けている西アフリカの港湾都市
  • モザンビーク、ナカラ:アフリカの東海岸に位置し、深水港を持つ港湾都市
  • モーリタニア、ヌアクショット:欧州に近いアフリカ北西部に位置し、要衝となる港湾のある都市
  • カンボジア、リアム海軍基地:カンボジアの官僚と中国共産党との間に蜜月関係があることで、中国による軍事利用の可能性が懸念されている基地
  • バヌアツ:中国軍事基地が建設される可能性のある太平洋島嶼国

エイドデータ研究所が考慮に入れた点として、中国による港湾インフラ融資の規模、港湾の戦略的価値と立地、事業実施国の首脳陣との関係、国連総会の投票において中国の意見に賛同する傾向、海軍艦隊への適性という観点からの港湾の特徴が挙げられる。 上記のうちの4つの港湾はインド太平洋に位置している。

最近、シアヌークビル近郊にあるカンボジアのリアム海軍基地内に中国人民解放軍(PLA)が専用の基地の建設を進めているとする「疑惑」に国際社会が神経を尖らせている。 過去何年にもわたり、中国の多大な関与を否定してきたカンボジア当局は、海軍基地の改修が完了間近であることは認めたものの、中国による軍事使用については否定を続けている。 

ロンドンを拠点とするシンクタンク「チャタムハウス」が7月下旬に発表したところでは、2023年6月に撮影された衛星画像に中国融資の建設作業の様子が写っている。 東アフリカのジブチには中国唯一の海外海軍基地が存在するが、リアム海軍基地の衛星画像ではジブチと似たような新しい桟橋の建設が確認できる。 

チャタムハウスの報告書には「リアム海軍基地に構築される兵站拠点がたとえ小規模でも、これにより中国人民解放軍海軍の軍艦が航行できる範囲が広がり、中国はタイランド湾や東南アジア海域に恒久的に軍艦を配備することが可能となる」と記されている。

インドと米国は2022年8月、一部の報道で「諜報船」と伝えられた中国調査船「遠望5号」がスリランカのハンバントタ港に停泊した際に強い懸念を示した。ハンバントタ港は中国からの借款により建設が行われた港湾で、スリランカ政府が過重な中国融資の返済に行き詰まったことから、向こう99年間の港湾運営権を中国企業に貸し出す契約が結ばれた。 

オーストラリア戦略政策研究所が発表した報告書によると、遠望5号がスリランカ領海内で情報収集活動を行わないことを条件に、同港当局がこの船舶の入港を認めたという経緯がある。

Indo-Pacific Defence Forum