これまで中国政府が新疆ウイグル自治区で実行してきた「刀狩り(刃物の回収)」が、今後は遼寧省でも実施されることがわかった。
遼寧省公安庁は19日、特定の刃物4種類の回収を通達する文書を出した。それに加えて、刃物を所持している人間がいたら「積極的に告発(密告)」するよう民衆を促している。
通達では「11月30日の期限までに、該当する刃物を自主的に提出すること」を求めている。提出すれば「厳罰に処さない。あるいは罰を軽くする」が、期限内に提出しなかった者は「厳罰に処す」と警告している。
台所の包丁も「登録制」に
今回の規制により、回収対象となった刃物は「専用刃物」「特殊な厨房用刃物」「武術や工芸品の刃物」「その他の規制刃物」の4種類となっている。
このほか、同通達では「規制刃物」を生産する企業は、所定の登記表への記入や公安当局への報告を義務付けている。
また「規制刃物」を販売する企業には、鍵付きケースでの保管や販売過程の監視を求めるほか、所定の売買登記表への記入、および購入者の氏名や身分証番号などの個人情報の登録や報告を義務付けている。
さらに、飲食店などの産業活動などで規制刃物の使用が必要な場合は、使用場所を限定したうえで、安全に保管するための有効な保護措置を講じる必要がある。さらに(規制対象の刃物を)恣意的に「他人に貸与・譲渡してはならない」という規定もある。
遼寧省の大連市公安局は、9月20日に一部の銃器や規制刃物の一斉廃棄を発表した。この動きは、公安部からの「安定維持のための指令」ではないかとみられている。
このたびの遼寧省当局の新通知をめぐり、「テレビでは、いつも『中国は世界一安全な国だ』と言っていたのにねえ」「四つの自信は、どこへ行ったの?」といった皮肉コメントが殺到している。
なお「四つの自信」とは、2016年7月1日に習近平氏が中国共産党創立95周年祝賀大会で行った講話のなかにある「道・制度・理論・文化への自信」のことを指す。
この「四つ」の筆頭である「道への自信」とは何か。中共メディア『人民中国』の日本語版によると「中国の特色ある社会主義の道の発展方向と将来の運命に対する自信」のことだそうだ。どの口がそう言うのか、よほどの自信過剰であるらしい。
同じく「世界一安全な国」というのは、何を根拠にそう言うかは不明だが、中国当局はいつもそのように自慢している。
刃物規制の背景にある「体制側の恐怖心」
中国政府による規制刃物への厳しい管理は、新疆ウイグル自治区から始まっている。新疆の市民は、家庭で料理包丁を使用するにも、実名での登録が必要となる。レストランや露店の食堂であっても、料理包丁には施錠が義務づけられる。
しかも近年、このような刃物の管理措置は、新疆以外の省でも相次いで導入されるようになった。一部の都市の商店の販売用刃物が「鍵つきケース」のなかに置かれている様子や、飲食店の料理人が「スチールワイヤーでつながれた包丁」で調理する様子を映した動画は、SNSに数多く出回っている。
いま中国では、崖から落ちるような経済の悪化に伴い、民衆の生活不安と現体制に対する不満は膨張する一方である。とくに下層の民衆がかかえる生活上の困難は、明日の食物も得られないほど切迫していると言っても過言ではない。
そのように、追い詰められた一般市民や露天商が、料理包丁を手に、公安や「城管(都市管理をする当局者)」に立ち向かうニュースは後を絶たない。
中国政府がこれほどまでに刃物に神経質になるのは、このような凶悪事件が年々増加傾向にある実態と関係していると考えられる。
それを言い換えれば「独裁体制がもつ宿命的な恐怖心」と言ってもよい。その証拠に、中国政府は、民衆から刃物を取り上げることはするが、中国の経済や社会、および政治体制を根本的に改革することはしないからだ。
つまり中国共産党が民衆の刃物を恐れるのは、歴代王朝の最末期のように、革命によって政権が倒されれば、今まで虐待してきた民衆が一斉に報復してくることを(一種の本能として)知っているからである。
1949年10月1日から数えても、中国共産党はこの74年間、民衆の報復に値する膨大な加害行為を絶え間なく行ってきた。
「料理包丁が怖い」という滑稽な風景は、彼らがもつ肥大化した恐怖心の反映でもある。
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