【寄稿】八方塞がりの習近平…内乱、傀儡政権樹立の恐れも 「ポスト中共時代」の世界秩序とは

2023/09/24
更新: 2023/11/14

中国の習近平国家主席は今、自身が対処できないほどの危機に直面している。人口減少に高い失業率、国際的な制裁、外交の失敗など、まさに内憂外患そのものだ。長期政権を目指す習氏は、果たして現在の難局を切り抜けることができるだろうか。そして、「ポスト・中国共産党」時代のパワーバランスはどのようなものになるのだろうか。

中国は過去十数年もの間、「世界第2位の経済大国」と叫ばれてきたが、今や深刻な衰退に直面している。付随して起こる様々な問題を解決できなければ、習氏は数か月、または数年以内に辞任を余儀なくされるとの見方もある。

とはいえ、習氏が自ら権力を手放すとは考えにくい。食料やエネルギー、兵器などの蓄えは十分でないにせよ、中国共産党は依然として莫大な資源を手中に収めている。危機に直面する習近平氏は引退するどころか、それらの資源を最大限に活用して、政治的地位を維持しようとするだろう。

それに抵抗するのは、働き口と財産を失い、未来への希望を持てない中国国民だ。加えて、軍内部の反対派勢力も、習近平氏に反抗する力となりうる。このような圧力に直面して、習氏は彼らの注意を逸らす戦略に打って出る可能性がある。党内での粛清を見ても、習氏が自身の権威を保てなくなっていることが窺える。

いっぽう、習近平氏がこの未曾有の危機を耐え切ることができたらどうなるだろうか。中国共産党総書記として習氏が権力を握り続けることは、中国と近隣諸国、そして地球規模の戦略的なパワーバランスにとって何を意味するだろうか。

最終手段としての台湾侵攻

最大の注目ポイントは、中国共産党による台湾侵攻の可能性だ。しかし、習近平氏が台湾侵攻作戦で勝利を収めることができるのか、「国共内戦」を終結できるのか、そして、清朝の継承者としての中華民国の正当性を失わせることができるのかどうか、ということだ。

仮に習近平氏が中国軍を動員して台湾侵攻した場合でも、以下の懸念事項がある。

  • 軍事作戦として失敗する可能性
  • 日米をはじめとする同志国が台湾を支援する可能性
  • 習近平氏や中国共産党に対する反乱の引き金になる可能性
  • 台湾からの報復攻撃により、長江の三峡ダムを破壊され、北京や上海等の都市が地図から消される可能性

習近平氏が「最終手段」として考える台湾侵攻には不確定要素があまりにも多い。さらに、台湾侵攻に合わせてインドがチベット高原で軍事行動を起こす可能性もあり、その際には中国の重要な水資源が脅かされる。また、ロシアから援助を取り付けるために、同国の極東地域を奪うと脅すこともある。

習近平氏は台湾を打ち負かす新しい方法を模索している、と考えるのが妥当だろう。台湾をコントロールし、欧米の経済に打撃を与える方法として、台湾の半導体産業を壊滅させる可能性がある。

台湾積体電路製造(TSMC)は半導体の世界シェア55%を誇り、先端プロセッサーではシェアをほぼ独占している。TSMCは世界で最も重要な戦略的ターゲットとなっており、米国は、莫大な商業価値のあるTSMCのレジリエンスを高めようと、アリゾナ州での新製造工場の建設支援へ動きはじめた。なお、熟練工の不足により、生産開始は予定より大幅に遅れている。

習近平氏はこの機に乗じて、TSMCが半導体事業を移転する前にダメージを与え、西側諸国の産業全体を後退させることを考えているのではないだろうか。もしその計画が実行されれば、西側諸国との広範囲の軍事衝突は避けられないだろう。

もちろん、TSMCは難攻不落のターゲットであり、一般的な工場とは異なる。しかし、東南アジアやインドでは、中国共産党による工場破壊工作が確認されている。

欧米の経済を後退させるだけでは、目下の経済不安から国民の注意を逸らすことはできない。習近平氏が必要としているのは、劇的な意思表示、すなわち中国社会の反体制派や軍内部の反対勢力を抑圧できる力だ。

2022~23年にかけて中国本土を襲った自然的・人為的な巨大災害は、多発する抗議活動の引き金となり、それは中国共産党の従来の鎮圧能力を凌駕するものだった。飢餓も始まったばかりだ。それでも習近平氏はこれまでのところ耐え凌いでいる。例えて言うならば、パラシュートを装着せずに飛行機から飛び降りた人が、地面に激突するまでの間、「いまのところ問題ない」と言っているようなものだ。

最後の足掻き

習近平氏が打ち出す新毛沢東主義によって、中国の対外貿易は大幅に減少し、水と食料は不足し、環境汚染も進んでいる。もし、習氏が目下の難局を切り抜けることができたなら、世界情勢はどのようになるだろうか。

習近平氏が戦争を始めるか否かに関わらず、中国経済は、世界経済に大きな影響を与えなくなるほど衰退する可能性は高い。西側諸国がどのような対策を講じても、その影響は全世界に波及するだろう。

習近平氏は、毛沢東時代のような内部闘争に満ちた社会を作り出すことで、国内の飢餓や貧困から目を逸らすようにさせている。さらに、暴力装置に集中的に資金を注ぎ込むことで、核による威嚇を行う力を今後も持ち続けることだろう。

そのような状況においては、人民元の国際的な兌換性がさらに低下し、中国の影響力も毛沢東時代に逆戻りする可能性がある。ロシアは中国のライバルとして再び登場し、極東における地位を固め、とりわけ北朝鮮に対する影響力を取り戻すと思われる。

困窮した中国は、国連安保理の常任理事国としての議席を私利私欲のために利用するだろう。そうなると、ロシアのウクライナ侵攻によって始まった新冷戦時代において、世界の分断はさらに深まり、国連はもはや有意義な役割を果たす組織としては終止符が打たれるだろう。

これは、第二次世界大戦後の「ルールに基づく国際秩序」の終わりを意味する。新しい国際秩序では、より多様な国家がより自由に活動し、再び米国が覇権を握ることとなるだろう。

習近平氏は、半導体や宇宙技術、人工知能(AI)といった重要分野における研究開発に力を注ぐことで、国力を高めようとした。しかし、彼が唯一頼れる国有企業は民間のような革新的な創造力を持ち合わせていない。それでも中国は技術的な先進国として、食糧不足と貧困が社会で蔓延しながらも、対外的な影響力を維持するだろう。

世界にとってこれが最善の結果かもしれないが、中国の人々にとっては最悪の結果の1つだろう。

変化するパワーバランス

中国共産党という脅威が消滅した後、世界は相当な経済的混乱を迎えることになる。そして、経済的・戦略的パワーの中心は他へと移るだろう。

まず、ロシアとインドだ。両国は各々の方法で、あるいは一緒になって、新たな手段を用いて戦略的な力を獲得するだろう。また、例えば東南アジアでも、繁栄する地域が出てくる。

ヨーロッパは今まで準国家として行動してきたが、まとまりをこれ以上強化する動きは見られない。今後、トルコやセルビア、イタリアといった国々を中心に、間違いなく小さな勢力圏が生まれてくるだろう。フランスを除いて、他の国々も息を吹き返すかもしれないが、世界的な影響力は限定的となる。イギリスは、深刻な課題を抱えたヨーロッパ連合(EU)から脱退し、世界政策を展開していくだろう。

そして、米国、英国、豪州の三か国からなる安全保障協力の枠組み「AUKUS」は、パクス・アメリカーナ(米国の覇権を中心に築かれた平和的秩序)に代わって、新たな「ルールに基づく国際秩序」の中心的存在となるだろう。

先行きは暗い

習近平氏が目下の苦境を切り抜けることができたとしても、結局は深刻な状況に直面し続けることに変わりはない。習氏がどれだけ持ち堪えられるかは議論の余地があるものの、中国の被る被害は、数千万人が殺害された毛沢東時代に並ぶほど悲惨なものになるだろう。

もう1つの疑問は、習近平氏が試練に耐えきれず、市民や軍の反対勢力に飲み込まれたらどうなるかということだ。

中国共産党が政権の存続のために、先手を打って習近平氏を切り捨てるだろうか。それとも中国軍が陰の支配者となり、習氏と中国共産党を傀儡として利用するだろうか。はたまた、各地で軍閥が割拠し、中国は分裂の危機を迎えるのだろうか。

習近平氏は領土に関する主張も強めている。南シナ海の領有権の拡大や、台湾への軍事侵攻計画、さらにはロシアの極東地域に対する領土の主張などを行ってきた。

それならば、他国が中国の国境線を改変しようとする動きを起こすのも無理はない。チベット高原や新疆ウイグル自治区といった地域がきな臭くなることもあるだろう。

この記事で述べられている見解は著者の意見であり、必ずしも大紀元の見解を反映するものではありません。
米NGO「国際戦略研究会(International Strategic Studies Association)」所長。政府戦略アドバイザー。外交・防衛関連著書を多数出版。新著『The New Total War of the 21st Century and the Trigger of the Fear Pandemic』。
関連特集: オピニオン