中国政治に異変…軍事と外交のトップ2人ら“失踪” 「そして誰もいなくなった」

2023/09/15
更新: 2023/09/15

中国では国防相や外相など、上級高官が公の場に姿を見せなくなる事態が続いている。連続する”失踪”に、エマニュエル駐日米国大使は、英国の名作ミステリー小説「そして誰もいなくなった」を引用して揶揄するほど。外交トップの王毅・共産党政治局員兼外相も8月のBRICSサミット以降、露出がなくなっている。外交と軍事の政治トップが二人とも同時期に姿がみえないのは異例だ。体制内で一体何が起きているのか。

姿を現さない高官たち

中国国防部長の李尚福氏が2週間近く、動静が伝えられていない。この不透明感は、台湾海峡の緊張が続く中で強い関心を集めている。

李氏が最後に公の場に出たのは、8月29日に北京で開催された第3回中アフリカ和平安全フォーラム全体会議だ。国営新華社によると、李氏はこの会議でスピーチを行い、セネガル、コモロ、カメルーンなど複数の国の国防部門のリーダーと会談を行った。

その後の李氏の動向について、中国国内では報じられていない。海外SNSでは、取り調べを受けているとの情報が出回っている。

中国独立ジャーナリストの趙蘭健氏によれば、海外にいる息子に関する贈収賄容疑で李氏が逮捕、起訴されたという。同時に複数人の軍幹部が逮捕されたとも。「軍におけるここまで大規模な軍の粛清はこの数十年で前例のないものだ」と趙氏は指摘する。

英フィナンシャルタイムズ15日付は米高官の話として、李氏は北京の中央規律委員会によって取り調べ中と確信していると報じた。

カナダの中国研究家であるオタワ大学上級顧問のマーガレット・マクウェイグ・ジョンストン氏は、消える中国人事について「普通ではない。習近平体制の中国共産党は、閣僚らが正常に動いてしていないようだ。高位の役職を持つ信頼できる役人もいないかもしれない」と分析した。

このほか、魏鳳和・前国防相、秦剛前外相、核兵器を取り扱う中国軍ロケット部隊の李玉超司令官、徐忠波政治委員など、習近平政権内の要職の突然の解任や行方不明が相次いでいる。

中国外交部報道官たちは定例記者会見で、ロイターやブルームバーグなど海外通信社特派員から質問を受けても、回答拒否やはぐらかしに終始し、詳細はわからないままだ。

エマニュエル氏はこうした粛清と失踪の連続から、若者の就業率の低さを引き合いに出し「誰がこの失業レースを制するのだろうか? 中国の若者か、それとも習とその閣僚たちか?」と皮肉をこめて言及した。

「戦狼」王毅氏はどこへ BRICSでのトラブル要因か

“失踪”の最新例は、外交トップの「戦狼」王毅氏だ。行方がわからなくなった秦剛前外相の後任となったが、8月にヨハネスブルグで開かれたBRICS首脳会議以降、2週間以上公の場に姿を見せていない。

独立ジャーナリストの曾錚氏が伝える観測筋の話によれば、王毅氏はBRICSにおけるトラブルの責任を問われているという。首脳に帯同するはずの通訳官が現地の保安員に行手を阻まれたことで、「通訳なし」状態となり、習近平氏の動きにあらゆる支障が生じたといった話だ。これらの情報について大紀元は確認できていないが、実際、習氏はいくつかの会談や登壇を取りやめた。

今回のG20ニューデリー・サミットにも李強首相だけが出席し、王毅氏は同行しなかった。また、年に一度のニューヨークの国連総会にも参加しないことが明らかになっている。

いっぽう、王毅氏の訪露予定がロシア側から発表されている。ロシア政府は13日、王毅氏とラブロフ外相がモスクワで18日に会談すると発表した。なお、中国側は14日時点でこの会談予定を発表していない。

突然の台湾「融合」計画 軍事圧力も

こうしたなか、中国は突然、福建省と台湾の「融合」計画を発表。台湾企業の同省へのアクセスを増加させる取り組みを実施するという。

同時に、海軍と空軍による軍事演習も行い、台湾に軍事圧力をかけた。台湾海峡のウォッチャーは、国防相や外相不在の近日、不穏な中国軍の動きに警戒すべきだと警鐘を鳴らす。

太平洋地域の市場分析会社IEJメディアの創業者、イアン・エリス氏は、衛星写真や船舶航行の分析から、「中国の軍艦と空母が大規模な海軍演習のため台湾の東に集結している」とした。エリス氏はこのほか、2つの水上行動部隊、沿岸の軍事基地への兵力集中、戦闘機のこれまでにない飛行経路などを記録したと伝えている。

台湾国防部は、13日に中国軍の軍用機22機と艦艇20隻を、14日には軍用機68機と艦艇10隻をそれぞれ台湾周辺で確認されたと発表。監視部隊が状況を監視し、航空機、艦艇や地上配備型のミサイルシステムでこれらの活動に対応するよう指示したという。

日本の自衛隊統合幕僚監部も中国軍の動向を確認している。14日、海軍空母「山東」など計6隻が沖縄県宮古島から南に約650キロを航行していると発表した。

エリス氏のさらなる情報によれば、近日にも十数隻以上の艦艇を擁する前例のない規模の空母打撃群と編隊を形成する可能性がある。これらは南部および東部戦区の部隊が参加していると考えられている。

中国高官の失踪に加え、まますます高まっていく台湾への政治的、軍事的な圧力。来年1月に控える台湾総統選と立法委員選挙に向け、威嚇行動は続くとの見方もある。

日本の安全保障、外交、中国の浸透工作について執筆しています。共著書に『中国臓器移植の真実』(集広舎)。