【寄稿】戦略兵器の開発急ぐ北朝鮮 中朝露三国同盟が後押しか 鍛冶俊樹氏

2023/09/08
更新: 2023/09/08

北朝鮮は出稼ぎ労働者の帰国を拒否していたが、本当の理由は、彼らの中に中露の工作員が多数含まれているのを懸念していたという。ならば、今回の帰国の承認は中露の工作を承認したも同然である。つまり中露と共同作戦を展開するわけだ。

失敗しても懲りない北朝鮮

8月24日、北朝鮮は人工衛星の打ち上げにまたも失敗した。5月31日に打ち上げに失敗して、「次は必ず成功する」と豪語して臨んだ打ち上げに失敗したのだから、北朝鮮独裁政権の面目丸つぶれだが、動揺する気配もなく、「次は10月に打ち上げる」と失敗の当日、平然と予告した。

失敗の原因が究明されていない段階で、次の発射時期を明示するのは奇妙としか言いようがない。通常、失敗の原因を徹底的に究明し、その対策に万全を期してから発射準備に取り掛かるから、失敗の当日に次回の時期を明示できるはずがない。

つまり北朝鮮は、打ち上げの成功にこだわらない態度を表明していることになろう。しかし、成功を豪語しておきながら、失敗を繰り返せば、独裁政権の権威は失われるし、打ち上げには莫大な経費が掛かるから経済的な損失も重大な問題になるはずである。

それにも関わらず打ち上げを強行しようとする北朝鮮の背後に何があるのか?

中国と北朝鮮の奇怪な連携

24日の北朝鮮の衛星打ち上げを巡って翌25日に国連安全保障理事会で緊急会合が開かれた。北朝鮮は5月31日の打ち上げ失敗の翌日、金正恩の妹、金与正が談話を発表している。「北朝鮮の衛星発射が糾弾されるなら、米国を始め数千個の衛星を打ち上げた国々も糾弾されるべきだ」という内容だ。

北朝鮮は国連安保理決議により、弾道ミサイルの発射も衛星打ち上げも禁止されている。過去に国際法を無視して発射を繰り返した結果である。ちなみに中国、ロシアもこの時、禁止に賛同している。つまり金与正の主張は、安保理決議を無視しており正当性は全くない。

ところが、8月25日の安保理では、まれに見る奇怪な光景が出現した。北朝鮮が突然、福島第一原発の処理水放出を非難し、中国がそれに賛同したのだ。この緊急会合は北朝鮮の衛星打ち上げを巡って開かれたものであり、処理水は全く関係ないから、明らかに北朝鮮の論点ずらしだが、問題は、こんな幼稚な論点ずらしに中国が同調した点だ。

しかも、この2日後の27日、北朝鮮は国外にいた北朝鮮人民の帰国を承認したのである。これは、コロナ騒動により、国外で足止めされていた人々で、その大半は中国とロシアで働いていた出稼ぎ労働者である。

北朝鮮はコロナを理由に彼らの帰国を拒否していたが、本当の理由は別にあったという。すなわち彼らの中には中露の工作員が多数含まれているのを懸念していたという。ならば、今回の帰国の承認は中露の工作を承認したも同然である。つまり中露と共同作戦を展開するわけだ。

疑われるロシアの関与

北朝鮮の衛星発射により深く関与していると見られるのがロシアである。北朝鮮は2012年4月にも衛星打ち上げに失敗しているが、次の打ち上げには、約8か月を要しているのに対して、今年は5月の失敗から3か月足らずで、打ち上げを試みており、準備期間が大幅に短縮されている。

しかも、その打ち上げにまたも失敗している。原因探求や欠陥の克服が十分になされたとは考えられない。しかも次の発射は更に期間を短縮して10月と予告している。ここで急浮上したのがロシアの関与疑惑である。

7月下旬、ロシアのショイグ国防相は電撃訪朝し北朝鮮の独裁者である金正恩総書記と会談した。ここでウクライナ侵略を続けるロシアに北朝鮮が軍事支援をし、対するロシアは北朝鮮に技術支援を行うとの合意がなされた。

8月8日にロシアの輸送機が北朝鮮からロシアに軍事物資を輸送した。14日後の22日に北朝鮮は「24日から30日までに衛星を打ち上げる」と発表した。そして24日に打ち上げに失敗したわけだが、以上の経緯を見れば、24日の衛星は8日に北朝鮮が供与した軍事物資の見返りに、ロシアから供与されたと見て間違いあるまい。

おそらく打ち上げにはロシアの技術者が立ち会っていただろうから、失敗直後に「次は完成品を届ける」と北朝鮮側に約束したと考えられよう。さすれば北朝鮮が次の打ち上げを即日予告できた理由も説明が付く。

ロシアの深謀遠慮

もとより北朝鮮は旧ソ連の衛星国であり、兵器はすべて旧ソ連製だった。ソ連崩壊後は、一時期ロシアと疎遠になったが、近年、再接近が指摘されており、弾道ミサイルもロシアの強い影響があると見られている。

昨今、北朝鮮はかつてない頻度でミサイル発射を繰り返しているが、発射にもそれなりの経費が掛かるはずであり、経済状況の良くない北朝鮮は、背後にどこからかの支援がなければ、出来る事ではない。

昨年2月にロシアはウクライナに侵攻したが、対する米国はウクライナに直接派兵することはしなかったが、欧州に米軍を増派した。一昨年8月に米軍はアフガニスタンから完全に撤退したが、これは台湾防衛の戦力を温存するためだった。

ところがウクライナ戦争のために、この戦力を欧州に回さざるを得なくなったのである。ロシアとしては、米軍が欧州に増派される状況は好ましくない。そこで昨年10月にロシア国防省高官がハバロフスクで北朝鮮人民軍高官に会い、朝鮮半島周辺で軍事的緊張を高めるように要請したという。つまり米軍が東アジアに釘付けになるように図ったのだ。

その後、北朝鮮はかつてない頻度で弾道ミサイルの発射を繰り返すようになったのである。

中朝露三国同盟か?

ショイグ露国防相は7月の金正恩総書記との会談で、ロシア、北朝鮮、中国の3国による共同演習を提案したと伝えられている。4日にショイグ国防相は露朝の合同軍事演習を北朝鮮と協議している事を認めた。

同日のニューヨークタイムズは金総書記とプーチン大統領の会談が計画されていると報じた。同日、中国の習近平主席はG20サミット欠席と通告した。米国はバイデン・習会談を模索していたが、習主席がこれを拒否したことになろう。つまり中国は対米関係の改善を望まず、露朝との関係を重視していることになろう。

ウクライナ戦争に米国は日韓を絡ませ、ロシアは中朝を絡ませた。中台紛争に米国は韓国を絡ませ、対する中国は北朝鮮を絡ませた。国際情勢は第3次世界大戦の様相を示しつつある。

(了)

この記事で述べられている見解は著者の意見であり、必ずしも大紀元の見解を反映するものではありません。
軍事ジャーナリスト。大学卒業後、航空自衛隊に幹部候補生として入隊、11年にわたり情報通信関係の将校として勤務。著作に「領土の常識」(角川新書)、「2023年 台湾封鎖」(宝島社、共著)など。 「鍛冶俊樹の公式ブログ(https://ameblo.jp/karasu0429/)」で情報発信も行う。