<森永康平氏が語る>日中デカップリングは現実的か 日本企業が無視するチャイナリスク

2023/09/06
更新: 2023/09/05

今回の処理水をめぐる騒動のように、中国当局が理不尽な対応をすれば、日本の経営者もチャイナリスクに気づくことができ、「この国ではビジネスできないぞ」と考えるようになるだろう。

処理水をめぐる中国当局の不当な行為は、中国でビジネスを行うリスクを世界に知らしめることとなった。しかし共産党の怖さを知らない「ピュア」な経営者は未だ幻想を抱いている。中国とは今後どのように付き合うべきか。気鋭のエコノミスト・森永康平氏が語る。<第一弾>

ーー中国では景気後退が深刻な問題となっている。日本はどのような影響を受けるか。

デフレや経済的な理由で撤退するという判断をする会社も出てくると思うが、今後はそれ以上にチャイナリスクをどう考えるかという話が具体化していくと思う。

例えば日本の会社が中国国内で稼いだときは、基本的にお金を持ち出してできない。そして、いつどのタイミングで法律の解釈を変えるかわからない。私の視点では、中国当局は法の解釈を急に変えたり、今までは法律に順守していたのに「こういうふうに考えたらお前ら違法だ」みたいなことを言ったりする。

結局、中国はうまい仕組みを考えていて、中国国内で稼いだら中国に投資しなければならない。このようなリスクをどう考えるか。

さらに、輸出に関する中国の規制を見ていくと、いわゆる「みなし輸出」という考え方がある。極端な例を挙げれば、中国で働いている日本人の社員は中国での人脈を作り、ノウハウを貯めているが、このような社員を日本に帰国させようとしたときは、いわゆる「みなし輸出」として扱われる可能性がある。これも全て法律の捉え方次第だ。

情けないのが、日本の経営者は中国のそのような部分をあまり知らないことが多い。中国は人口が多いから、マーケットが大きいから、だから中国でビジネスをやれば儲かる、というように非常にシンプルというかピュアな考え方をしてしまう。共産党の怖さやリスクをあまり考えていない。「従業員をリスクに晒しながらでも進出したいのですか」と問いたい。

中国のカントリーリスクへの認識が広がれば、その景気如何にかかわらず、撤退する企業は出るかもしれない。今回の処理水をめぐる騒動のように、中国当局が理不尽な対応をすれば、日本の経営者もチャイナリスクに気づくことができ、「この国ではビジネスできないぞ」と考えるようになるだろう。

ーートランプ政権以降、米中間のデカップリングが進展した。日中間ではどうか。

徐々に、という感じではないだろうか。そこまでドラスティックにはいかないと思う。中国には大きな市場があると思っている人たちは圧倒的に多いので、ちょっとした補助金や為替変動程度では戻ってこないだろう。

昔から言われていることが、日本は外圧がないと動けない。補助金を出しても帰ってこない企業を見ると、やはり外圧が大事なのだろうと考えさせられる。

ーーどのような外圧が予想されるか。

中国国内で反スパイ法による締め付けが強まるか、米国から圧力が掛かるかのどちらかのパターンしかないだろう。

しかし話はそこまで単純ではない。他国は日本よりもはるかに強かだ。外国は平気で二枚舌外交、三枚舌外交を行う。日本人の多くは米中が熾烈な争いを繰り広げていると思っているが、本当にそうなのかと疑う目を持たなければいけない。

本当に関係が冷え込んでいればブリンケン氏が訪中することもない。ましては今はバイデン氏率いる民主党政権だ。そのため、あまり米中対立というシンプルな構図だけで考えすぎるのは良くないのではないか。ただ、日本においてこのレベルの話ができる専門家も多くはないだろう。

ーー処理水の放出をめぐる中国当局の対応も貿易に影響を与えるだろう。

そうだと思う。ただ私が前々から言っている通り、処理水に関して中国当局はやはり「外交カード」として利用している印象を持つ。専門的なことは学者の方も発信しているが、それにしても中国の騒ぎ方は明らかに外交カードとして利用しているやり方だと思う。

少し前、中国の秦剛外相が突然姿を消し、王毅氏が外相に復帰した。王毅氏は元々知日派で日本語も話せるが、復帰してから日本に強行的なアクションを取っている。そして変なタイミングで処理水の問題が出てきて、即日水産物輸入禁止のような話も出た。やはり外交カードとして使っているなという印象は拭えない。

ーー中国共産党は処理水の問題を掻き立てているが、結局は中国国内の水産物業者が被害を被っている。

同様のことは何度も起きている。少し前には、コロナの発生源は中国ではないかと発表したオーストラリアに対し、鉄鉱石の輸入規制を行なったが、結局は需要に駆られて鉄鉱石の輸入を再開した。今回の日本に対する措置もほとぼりが冷めたら撤廃される可能性がある。

ーー中国は8月10日に訪日団体客を解禁したばかり。その直後に処理水の問題を掲げてきたのはなぜか。

冒頭の話に繋がるのだが、結局のところ何でも管理するためには、まともな判断ができる管理者が必要だ。しかしご指摘の通り、「汚染水」は危ないと言いながら団体旅行客は許可しているわけで、自家撞着も甚だしい。

ーー今後の中国との付き合い方とは。

日中の国交が今すぐ断絶することはないだろう。しかし今後の付き合い方としては、米国式の外交が理想的だと思う。米国は半導体などの戦略物資に関しては、高い関税をかけたり輸出規制をしたり制限を加えているが、米中間の貿易自体は全く萎縮していない。戦略物資以外は普通に貿易している。このような付き合い方を日本もしていくのではないか。

この記事で述べられている見解は著者の意見であり、必ずしも大紀元の見解を反映するものではありません。
政治・安全保障担当記者。金融機関勤務を経て、エポックタイムズに入社。社会問題や国際報道も取り扱う。閣僚経験者や国会議員、学者、軍人、インフルエンサー、民主活動家などに対する取材経験を持つ。