オピニオン 上岡龍次コラム

アメリカの国防線に翻弄される中国・朝鮮半島・日本そして台湾

2023/09/02
更新: 2024/06/13

古代から続く国防線と国力

古代から国は敵軍との戦争に備えていた。だから自国を守るために国土を内外に示す国境線を定め、さらに国境線の外に敵軍を警戒する国防線を置くのが基本だった。なぜなら国防線に敵軍が集まると警戒して戦争に備える。そして敵軍を国防線と国境線の間に有る緩衝地帯で迎撃することで対応していた。

この典型が古代ローマとイギリスであり一定期間は国防線が固定するが国力が衰退すると国防線は段階的に縮小し消滅した。このため自国を守る国防線は国力に影響されて拡大と縮小を繰り返す。この歴史は今も続いているがアメリカの国防線は他の国とは異なり政治と景気に影響されてTPP(環太平洋パートナーシップ協定)の様に常に変化する特異な点が有る。

日米韓3か国の首脳会談が8月18日にアメリカ・ワシントン近郊のキャンプデービッドで行われた。これはアメリカ主導の日米韓3か国の安全保障協力であり、中国と北朝鮮を意識したものだった。それに対して中国はアメリカによるアジア版NATOで中国を包囲する行為だと批判した。

第二次世界大戦後のアメリカは世界の警察として世界各地に軍隊を派遣して対応していた。だが次第にアメリカ単独から現地の友好国との連携に移行し、アジアでは韓国と日本を連携させた安全保障に変わろうとしている。

アメリカの国防線

アメリカは1776年にイギリスの植民地から独立するが国力が不足しているので1917年まで外国への関与を回避し孤立主義を採用した。当時のアメリカの現実に合わせた孤立主義だったが20世紀になると国力の変化に合わせた覇権拡大を採用している。

アメリカの主義

A:孤立主義

B:覇権主義

C:市場主義

アメリカの主義は孤立主義・覇権主義・市場主義に区分され、アメリカ国内の政治勢力と国際情勢に影響されて主義が対立しながら政策を変えている。簡単に言えば「アメリカのアジアに対する政策は一貫性が無い」

なぜならアメリカが不景気になると孤立主義が台頭して覇権主義を抑えこむ。だがアメリカが好景気になると覇権主義は市場主義と連合して拡大化政策を選ぶ。これが原因でアメリカのアジアにおける国防線の位置が変わることになる。 

アメリカの国防線は覇権主義と市場主義の連合だから国防線が置かれた場所が市場であり敵軍と戦う戦場に想定されている。このため基本的にアメリカの国防線は中国大陸の海岸線と朝鮮半島の38度線に置かれていた。

経済連携協定であるTPPにアメリカは参加したのでアメリカの国防線が朝鮮半島の38度線から台湾・日本に移動した。だがアメリカはTPPを離脱したかと思うと、その後TPPに戻ろうとしている。この事はアメリカの景気の都合でアメリカの国防線が変化していることを示唆している。

アメリカの国防線が台湾と日本に移動

20世紀からアメリカは中国を有望な市場だと思い込み中国を優遇していたが21世紀になると中国は有望な市場にはならなかった。それどころか中国経済は不安要素が拡大し大企業の経営危機が予想されるまで悪化した。さらにロシアはウクライナに侵攻するとウクライナとの戦争が長期化しアジアに覇権を置くことが難しくなった。

こうなるとアメリカは中国大陸・朝鮮半島の38度線に国防線を置く意味が無い。アメリカは世界の警察として世界に覇権を置いたが不景気で維持が難しくなった。

そうなると直接管理よりも現地の友好国を使い間接管理をする道を選んだと推測する。

8月18日にアメリカ・ワシントン近郊のキャンプデービッドで行われたアメリカ主導の日米韓3か国の安全保障協力は、アメリカの国防線を守るアジアのバランサーとして韓国と日本を使い、間接管理する目的だと推測する。

冷戦期のアメリカの国防方針を参考にすれば、アメリカは安全保障協定として韓国と日本を選んでいるが台湾を選んでいないので中国が台湾侵攻を行った時の対応を推測できる。

冷戦期のアメリカの国防方針

国土戦域の核戦争  =戦略核戦争(米ソ全面戦争)でありアメリカが戦う。

前方戦域の核戦争  =戦域核戦で核保有国(米英仏)が連合して対処。

前方戦域の通常戦争=通常戦で連合対処。

覇権戦域の局地戦争=同盟国が第一次責任、アメリカは軍事援助

北朝鮮と韓国への対応:同盟国が第一次責任、アメリカは軍事援助

仮にアメリカの国防線が台湾・日本に移動したとすれば、北朝鮮への対応は韓国に任せて在韓米軍は対応しない可能性が有る。仮に国防線が朝鮮半島38度線から台湾・日本のラインに変わったのであればアメリカは在韓米軍を撤退させる可能性が有る。

その準備としてアメリカは日米韓3か国の安全保障協力を選んだと思われる。仮に北朝鮮が韓国に侵攻しても戦略的な価値が低下したのでアフガニスタンの様に在韓米軍を撤退させて朝鮮半島を無視する選択肢が有る。

日本への対応:同盟国が第一次責任、アメリカは軍事援助

日本は生産・整備・補給・休養など全てができるアメリカの軍事作戦の要でありインド洋までカバーできる能力を持つ。さらに地政学から見ても海洋国家アメリカの大陸へのジャンプ台であり大陸国家が海に出ないための防御用陣地になっている。この様に日本は地政学から見ても重要であり戦略的にも無視できない位置に置かれている。

アメリカが世界の警察として直接管理するなら日本有事の際は日本とアメリカの連合対処を行い在日米軍が直接参戦する。だがアメリカは間接管理である日米韓3か国の安全保障協力を選んだので、日本有事になれば在日米軍は参戦しないで韓国と日本に対処させ韓国と日本への軍事援助に留めるだろう。

この例はアメリカによるウクライナへの軍事支援で示されている。アメリカにとっては韓国と日本を軍事支援することでアジアの覇権を守る方が有益だ。さらに戦後は軍事支援した兵器のメンテナンス費用や継続購入が見込める利点が有る。

日本は地政学的にも戦略的にもアメリカは絶対に手放せない緊要地形(戦術的要地)に位置する。仮に在日米軍が撤退すればアメリカは大陸国家の太平洋進出を止められない危険性を持つ。だから日本有事になっても在日米軍は撤退しない。

米国にはフィリピンから撤退したら中国の海洋進出を助けてしまった過去がある。その後、アメリカ軍はフィリピンに戻る事になった。この経験から在日米軍は日本から撤退しない。

中国と台湾への対応:同盟国が第一次責任、アメリカは軍事援助

アメリカは中国を有望な市場だと思ったが想定した利益が得られなかった様でありアメリカは中国の経済破綻を予想している。アメリカは不景気だから現地の友好国である韓国と日本に任せる方が有益になる。

アメリカが世界の警察として直接管理するなら在韓米軍・在日米軍を参戦させるが、間接管理である日米韓3か国の安全保障協力であれば韓国と日本に対応させ韓国と日本への軍事援助で対応する。

仮に中国が台湾に侵攻した場合、アメリカ軍は参戦しないで台湾への軍事援助で対応するだろう。台湾は海洋国家が使う海上交通路を管制する重要な位置に置かれている。だからアメリカは台湾を放棄しないがアメリカが不景気なので軍事援助で対応するだろう。なぜなら台湾への軍事援助もウクライナへの軍事援助と同じで戦後は軍事支援した兵器のメンテナンス費用や継続購入が見込める利点が有る。

アメリカの基本方針と今後

アメリカは世界の警察として直接管理から間接管理に変えたことは国際情勢における地殻変動と言えるだろう。日米韓3か国の安全保障協力は間接管理の典型で韓国と日本を使いアジアのバランサーをさせたいのだ。

アメリカが有望視した中国市場の現実は破綻寸前でありアメリカは不景気。そのためアメリカが国防線を台湾・日本に置いたことは、中国よりも台湾と日本が有望な市場だと再認識したと言える。

この記事で述べられている見解は著者の意見であり、必ずしも大紀元の見解を反映するものではありません。
戦争学研究家、1971年3月19日生まれ。愛媛県出身。九州東海大学大学院卒(情報工学専攻修士)。軍事評論家である元陸将補の松村劭(つとむ)氏に師事。これ以後、日本では珍しい戦争学の研究家となる。
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