「習ノミクス」が陥った罠 中国経済の低迷は「20年かけて築いた不動産バブルの失速」と見るべき=専門家

2023/08/17
更新: 2023/08/18

日本の金融専門家らによると、中国は経済的課題に直面する中、中国指導者習近平の抑圧的な政策により「中所得国」の罠に陥っているという。

世界銀行によると、世界第2位の経済大国である中国は、今や上位中所得国になった。

中所得国の罠とは、経済が一定の水準に達した後、1人当たりの国内総生産(GDP)が1万ドル~1万2千ドル程度に達すると、先進国への移行を果たすのが難しくなるとされる。

このトラップに陥る国は、上昇する賃金のために輸出の競争力を失い、高付加価値の市場や先進経済を作り出すことができない。

失速しつつある経済

日本の経済専門家である土谷英夫氏は、中国の4~6月期のGDP成長率は0.8%で、1~3月期の2.2%増からの伸びの鈍りは、「コロナ禍からの回復の遅れ」ではなく、「20年かけて築いた不動産バブルの失速」と見るべきだと指摘した。

不動産セクターは中国のGDPの約30%を占めている。最新の公式データによると、中国の大手デベロッパー100社による7月の新築住宅販売は、北京の各種の不動産優遇策にもかかわらず、前年同月比で33%減少した。

中国の不動産大手・恒大集団は、過去2年間で810億ドル(約11兆3400億円)の損失を出した。碧桂園も国内最大の民間不動産ディベロッパーと言われたが、8月7日満期のドル建て債券2250万ドル(約31億5千万円)の金利を支払えず、債務不履行の危機に瀕している。

土谷英夫氏は、国際通貨基金(IMF)の世界各国の経済データによれば、中国のGDPにおける官民合わせた「総投資」の割合が、2004年以降、一貫して40%を超えており(06年は39.8%)、民間消費支出を上回り続けてきたと述べた。

また同氏は不動産価格の下落、消費の低迷、輸出の減少などかなり厳しい経済状況の中、グローバル企業は中国から製造工場を移転していると指摘した。

一方で土地販売を収入源とする中国の地方政府は、販売が激減し、財政危機に陥っている。

米調査会社ロジウム・グループ(Rhodium Group)によると、昨年、2892の地方政府のインフラ投資会社である地方融資平台(LGFV)の債務は、59兆元(約1150兆円)以上にのぼり、これは中国の GDPの約50%に相当する。

更に、中国統計局によると、6月に16~24歳の若者失業率は21.3%で、史上最高記録であり、今年は1100万人を超える新卒者がこの問題に拍車をかけている。

いっぽう、北京大学の張丹丹研究員によると、1600万人以上の無職で親と同居している人を失業者に含めると、実際の若者の失業率は3月で46.5%にもなるという。

これらの要因はすべて、中国経済が下降スパイラルに陥っていることを示唆している。中国経済が「日本と同じ道 」をたどっていると主張する人もいるが、日本のバブルが崩壊したのは先進国になってからである。「中所得国である中国の成長が長期にわたって停滞すれば、先進国への道は断たれるだろう」と土谷氏が指摘した。

中所得国の罠

東京財団政策研究所(東京)の主任研究員である柯隆(か・りゅう)氏は、中国が先進国になるためには多くの構造的な課題を克服する必要があると指摘する。

中国にとって安価な労働力は「過去のもの」になりつつある。 言い換えれば、中国は工業生産のハイエンドに移行しなければ、先進国にはなれないという。加えて、労働力人口の減少に伴い、中国は労働集約型の製造モデルから資本集約型の工業モデルへと移行する必要がある。

ここ数か月、中国の輸出は減少を続けている。税関の公式データによると、輸出は6月の12.4%減に続き、7月も前年同月比14.5%減となった。 柯氏は、市場経済が解決の中心になるべきだと述べた。しかし、国有企業を拡大し、権限を与えようとする共産党の試みは、市場経済とは逆行している。

中国共産党、世銀の助言を無視

2012年2月、世界銀行と中国国務院発展研究センターは「中国2030」を発表し、中国が中所得国の罠に陥ることを回避する方法を探った。

世界銀行の報告書は、中国が市場経済への移行を完了させ、国有企業が独占している分野に民間企業が自由に参入できるようにすることを優先すべきだと強調し、汚職の撲滅と法の支配による透明なシステムの維持に取り組むよう北京に助言した。

中国共産党中央党校で元政治思想教授である蔡霞氏は、『フォーリン・アフェアーズ』誌に「習近平は政権を握ると、民間セクターを自分の支配に対する脅威とみなすようになり、毛沢東時代の計画経済を復活させた」と書いている。

中国共産党を声高に批判していた蔡霞氏は同校を追放され、習氏を批判したことで党籍を剥奪され、2020年から米国に在住している。

土谷英夫氏は「習ノミクス」を、改革開放の流れを逆行させ、政府による経済支配を強化する政策と呼んだ。「残念ながら、北京は世界銀行の忠告を無視した」と指摘した。

権威主義体制が極端であればあるほど、問題爆発の結果はより深刻になる。高齢化と不動産バブル崩壊の結果、日本の80年代と同じく、中国も経済が長期に停滞していく。経済問題が中国社会に混乱を起こし、中共を危険にさらすことになる。

Jon Sun