深刻な洪水災害が続くなか、中国当局は真実の被災状況に関する報道を一切封鎖している。その一方で当局は、共産党機関紙「人民日報」およびその他の官製メディアを総動員して、民間ボランティアの活躍ではなく、政府の災害救助における「輝かしい功績」をことさら強調して宣伝している。
だが、これら報道のなかには「嘘っぱちだ」「フェイク映像だ」「ヤラセだろう」と指摘されるものも少なくない。人災を天災にすり替えるところから始まり、中国当局の偏向報道やフェイク映像は、とどまるところを知らない。
「根本的な原因は、その体制にある」
「中国で人災が繰り返される根本的な原因は、社会主義体制にある」。中国政法大学の国際法修士で、現在カナダに在住する反共人士である賴建平氏は、そう指摘する。
「どれほどひどい人災が起きても、中国政府はその背後にある本当の原因について追及しない。追及するどころか、災害が起きたことを喜び、これを利用して、自身(党)の『偉光正(偉大で栄光あり常に正しい)』を宣伝する。官製メディアは問題の本質を回避し、偏向報道することによって、成功と繁栄を捏造している。その一方で、他のメディアには実状を報道することを許さず『デマを広めている』といって弾圧を行うのだ」
賴氏はこのように述べて、中国政府が一貫して行う報道のやりかたについて、その欺瞞性を指摘した。
実際、中国の官製メディアは、賴氏が指摘する「偏向報道」のほか、人民を欺くための「ヤラセ」や「フェイクニュース」を製作するのは、まさにお家芸である。
「やらせ報道」が横行する官製メディア
例えば、今月2日に撮影したという映像がある。中国中央テレビ(CCTV)が公開した河北省涿州における、ヘリコプターによる被災者救助の場面であるが、これには「ヤラセ」の疑いがかけられている。
映像の内容は「洪水のため、建物の屋上に72時間も置き去りにされた涿州永楽村の村民6人を、救助隊がヘリコプターを使って上空から救出する」ものだった。
しかし、ビルの下の路上には、この「救援ショー」の様子を眺める野次馬2人の姿が、うっかりフレームインしてしまった。路上は確かに冠水しているようだが、そばにあった自動車のタイヤの半分くらいまでの水深である。おそらく、この場所の水深は30センチもないだろう。
「車輪すら水没していないところで、ヘリコプターによる救助が必要なのか?」とする指摘を受け、現在、この関連映像は削除されている。他の官製メディアが転載した動画のなかでも「問題のシーン」は差し替えられている。
「軍隊による被災地救援」で、ばれたウソ
同じく2日付で、複数の官製メディアによって報道された「軍隊による被災地救援」の報道も、濃厚な「捏造疑惑」がもたれている。
中央テレビ(CCTV)、人民網、新華網など官製メディアの「三巨頭」は2日、「上層部から命令を受けた陸軍第82集団軍の旅団が、夜を徹して河北省涿州市に入り、望海莊村や朱莊村などの村でダムの補強作業を行った」と報じた。
CCTVでは「6時間かけて(朱莊村の)200メートルに及ぶダムに補強のため大量の砂袋を積み上げた。欠けた箇所は塞がれた」と報じ、軍隊の英雄的な奮闘ぶりを称賛した上、現場の画像まで添えて伝えた。
だが、軍隊がやってきたと報じられた朱莊村の村民は、CCTVが報じた画像の砂袋(オレンジ色)とは全くの色が異なる村のダムにある砂袋(白色)を映した動画を投稿して、その「捏造報道」を完全に暴いた。
オレンジ色の砂袋は、確かに軍隊ががんばって積んだ(かもしれない)が、どうやらこの場所ではないらしい。一夜にして「白い砂袋」に変わることは、さすがに何が起きるか分からない中国でも、ありえないことだろう。
まるで映画撮影のような「トンネル防衛戦」
いまSNS上に拡散されているなかで、もう1つ、注目されている「抗洪救災(洪水災害と戦い、被災者を救助する)」に関連するヤラセ現場を映した動画がある。
どこかのトンネルの出入り口で、雨ガッパを身に着けた約10人ほどの「役者」が砂袋を積み上げている。そこへ「襲い掛かる洪水」に見せかけるため、大型バケツを使って交代で水をかける「要員」がいるのだ。
この暴露動画をめぐり「このシーンを撮るために、これほどの人員を動員できて、しかも一定の時間交通を規制できるのはタダ者ではない」と指摘する声がある。
確かに、共産党体制下の中国では、当局に無許可でできることは全くない。つまり、こうしたヤラセ撮影の背後には、それを公認し、推奨する当局や政府の影があると見て間違いないのである。
ただし、そうした「ヤラセ現場」を隠し撮りできてしまうスマホを誰もが持っている点が、昔日とは異なる。
ドラマや映画の撮影であれば「舞台セット」や「役者の演技」もあって当然だろう。しかし、今の中国の場合、それを「報道」にしてしまう。ニュースを視聴する側は、十分な注意を要すると言うしかない。
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