オピニオン 上岡龍次コラム

中国はヨーロッパから見ても世界の厄介者

2023/07/15
更新: 2024/06/13

NATOと日本の接近を嫌う中国

北大西洋条約機構(NATO)は第二次世界大戦後にソ連に対抗するために作られた軍事同盟。冷戦期はソ連軍の侵攻に対してNATO加盟国が団結して戦うことが前提だったがソ連の崩壊で役割を終えたかに見えた。だがNATOは仮想敵国が攻撃した時に発動されるので基本的に国防に都合が良い同盟なので継続する。

NATOも時代に合わせて変化したが今の平和を維持する現状維持派としての同盟に変化。2000年代になると中国の覇権拡大はヨーロッパから見ても脅威になり、中国の覇権拡大がヨーロッパまで脅威になったのでNATOは日本との連携を進めていく。同時にNATOは日本の東京に連絡事務所を新設する案を進めていたがフランスの反対で合意には至らなかった。中国はNATOと日本の接近に反発し「中国こそ世界平和の建設者だ」と主張した。

NATOは現状維持派

中国は人民解放軍の軍事強化と露骨な核戦力の拡大を世界に見せているがヨーロッパから遠く離れたアジアの出来事。それでもNATOは中国の軍備増強と核戦力の拡大を懸念していると述べたことには理由が有る。

帆船を用いた貿易は14世紀から拡大し15世紀になると海外貿易を行なう世界市場に変化した。14世紀までの戦争は当事国と隣接する国に限定されていたが帆船貿易は遠く離れた国の国益を巻き込む様になる。経済圏が地域型から世界市場に拡大したことで遠方の戦争だとしても自国の国益に直結する。そうなれば遠方の戦争は他人事ではないので外交で干渉と関与を行なう様になった。

NATOが軍事同盟だが本日は帆船貿易と変わらない。中国の覇権拡大はアジアの不安定を引き起こし戦争の可能性が高くなった。仮にアジアで戦争になると世界市場に打撃を与えるのは間違いない。何故なら台湾・日本には海上交通路が存在するから遮断されたら世界市場に打撃を与える。これは遠方だとしてもヨーロッパ経済まで打撃を与えるので中国を警戒したのだ。

NATO:現状維持派
中国 :現状打破派

それに対して日本は覇権拡大を行わないし今の平和を維持する方針を堅持している。これはヨーロッパ経済から見れば有益なのでNATOは中国よりも日本を選んだ。だからNATO東京事務所を置いて中国の覇権拡大に対応したい。これは今の平和は都合が良い現状維持派ヨーロッパと現状を変えたい現状打破派である中国との対立なのだ。

中国はNATOと日本の接近に反発し「中国こそ世界平和の建設者だ」と主張したが平和とは強国に都合が良いルール。現状打破派の中国が主張すると「今の平和を否定して中国に都合が良いルールを作る」ことを意味する。現状維持派であれば平和の維持を主張するが、平和の建設はルールの書き換えを意味する。つまり中国は本音を口にしたからNATOに対して間接的な宣戦布告をしたに等しい。

NATOは集団的自衛権

集団的自衛権は白人世界の概念だが、これは戦争の経験則から生まれている。白人世界では他国の戦争を悪用して火事場泥棒を行なう国が存在した。戦後火事場泥棒をした国は報復を受けるが、これが報復の連鎖になるとヨーロッパ全体が疲弊した。白人世界も馬鹿ではなく経験則から強国と弱国の現実で見る様になった。

時の強国が地域紛争に対応する目的で軍隊の派兵を求めると弱国は要請に応じて軍隊を派遣した。これは「自国は火事場泥棒ではない」ことを示す行為になった。戦争は当事国が主役であり要請に応じた国は積極的に戦闘に参加するわけではない。見ているだけが多い様だが、それでも火事場泥棒をされるよりはマシだったと思われる。だが、これが現代で使われる集団的自衛権のルーツ。

NATOも集団的自衛権でありソ連軍の侵攻に対応する軍事同盟。NATO加盟国がソ連軍から攻撃を受けたら加盟国が団結してソ連軍に挑む。NATO加盟国は他国の戦争に巻き込まれる印象が有るが実際は複数の国を同時に戦争することは難しい。自然界では単独になると狩られる立場になるから群れになって襲われ難くしているのと同じ。それに敵国に侵攻するとしても単独だと戦争は容易だが複数の国と同時に戦争はできない。何方かといえばNATOに加盟することで戦争回避を選んでいる。

実際にNATOに加盟していないウクライナは単独だからロシアから侵攻を受けた。これが世界の現実であり集団的自衛権は戦争回避の経験則なのだ。この現実を見たからフィンランドとスウェーデンはNATO加盟を急いだ。さらに単独だと核保有国から核攻撃を受けるが、NATOに加盟すれば核保有国から核攻撃を受けないのだ。

何故ならNATO加盟国には核保有国が存在するので、自国が核兵器を持っていなくても核保有国が核兵器で報復する。これはNATOに加盟するだけで核兵器シェアリングができる旨味が有る。そうなるとロシアは自国も核兵器で報復されるので核攻撃ができなくなる。仮に核攻撃をするなら自殺覚悟でなければできない。だからNATO加盟は魅力が有るのだ。

中国が日本のNATO加盟を嫌う理由

中国は今の平和が気に入らない国。中国こそが世界の中心として君臨したいが現実は甘くない。それでも中国は覇権拡大をするのでNATOから警戒された。中国から見ると日本がNATO加盟国になると覇権拡大ができないし、仮に加盟した日本を攻撃すればNATOが中国を攻撃する。この場合の中国はNATOから平和を否定する悪の国として断罪されるので中国は日本のNATO加盟を嫌う。

さらに日本がNATOに加盟すると日本にはボーナスが得られる。日本は核保有国ではないがNATOには核保有国が存在する。だから仮に中国が日本に核攻撃を行なうとNATOの核保有国が中国に核攻撃で報復するのだ。日本はNATOに加盟するだけで核兵器シェアリングをしたことになるから旨味が有る。このことを日本人が気付いたら?

日本はNATO加盟に肯定的になり最短で加盟を選ぶだろう。そうなると中国は今の平和を維持したい現状維持派に包囲されてしまう。さらに核兵器で日本を脅してもNATOの核保有国の存在が中国の外交を萎縮させる。

NATO加盟は日本の国防に有益。NATOから外国に侵攻する組織ではないから日本は悪の戦争に巻き込まれない。NATOは侵攻を受けたら集団的自衛権で仲間を守る相互扶助。しかも今の平和を維持する組織だから日本の方針に合っている。日本はNATOに加盟するだけで核保有国から守れるし戦争回避になるのだ。だから日本はNATO加盟を急ぐべきだ。

この記事で述べられている見解は著者の意見であり、必ずしも大紀元の見解を反映するものではありません。
戦争学研究家、1971年3月19日生まれ。愛媛県出身。九州東海大学大学院卒(情報工学専攻修士)。軍事評論家である元陸将補の松村劭(つとむ)氏に師事。これ以後、日本では珍しい戦争学の研究家となる。