習近平氏の「琉球」発言…沖縄めぐる世論戦の号砲か

2023/06/21
更新: 2023/11/14

中国共産党の習近平が最近、福建省と琉球の歴史的な交流に関する発言が注目を集めている。一見無害な史実への言及に見えるが、7月の玉城デニー沖縄県知事の訪中を見越して、沖縄との関係醸成を図っているとも指摘されている。また発言以降、官製紙からインフルエンサーまで、琉球独立論を広げる傾向にある。

中国の人民日報4日付は、習近平の中国国家博物館への訪問記録を一面で報じた。尖閣諸島(中国名:魚釣島)について明記された明代の抄本「使琉球録」の説明を受けた際、習近平氏は福建省福州市の党書記を勤めた当時を懐古して「福州と琉球の交流が深いことを知っている」と語ったという。

この記事発表ののち、官製メディアからインフルエンサーに至るまで、さざなみを引き起こした。数年来くすぶっていた中国共産党の沖縄独立論が、新たに複数の媒体で確認できるようになった。

「琉球は中国の属国だった。琉球処分や沖縄返還に国際法の法的根拠はない」「ポツダム宣言では日本の主権を四島(北海道、本州、四国、九州)と定めており沖縄は明記されていない(沖縄帰属不明論)」「沖縄は独立して中国と友好を深めるべきだ」ーー。こうした発信が中国国内外で行われている。

深圳のテレビ局が13日琉球特集を報じたり、中国共産党に近い台湾メディア「中時新聞」もまた言論人の寄稿で上述したような論を展開した。

沖縄をめぐる中国SNSの動画や投稿には、日本の左翼活動家の言動が多用されている。米軍基地前や那覇市内で「沖縄独立」と書かれたのぼりを掲げデモ行進する模様や、活動家と県警が対峙した際に警察官が発した失言、米軍の不祥事事件などの映像が使用されている。

「台湾有事は日本有事」との故・安倍晋三元首相の言葉を引用したチャンネルも少なくない。「日本が台湾(独立派)を支持するなら、中国が琉球でも相応の対応をするのは当然だろう」。ある女性インフルエンサーは論じた。台湾問題について日本が発言することは、中国が沖縄問題に介入する理由付けになり得るというスタンスだ。

初めてではない 中国世論「琉球ブーム」

習近平政権下の「琉球ブーム」はこれが初めてではない。前回は2013年で、主席就任後間もなくして人民日報は琉球王国が明清時代に中国の属国であったとし、沖縄問題は「未解決」であると断じた。

しかし前回のブームと今回では国際情勢は異なる。米中競争は熾烈を極め、侵略戦争を開始したロシアを支える中国に対する西側先進国の信頼は低い(ピュー世論調査2022年9月)。中国は沖縄との友好ムード醸成によって、東アジアの安全保障や台湾海峡問題で結束を固める日米にゆさぶりをかけている可能性がある。

布石は沖縄の地域外交だ。3月末、新任の駐日中国大使呉江浩氏は東京で照屋義実沖縄副知事と面談。琉球新報によれば、照屋氏は沖縄と福建省の歴史的な友好関係に基づく留学生の相互派遣等の取り組みを紹介した。

そして、玉城デニー知事の7月訪中が発表された。河野洋平元衆議院議長が代表を務める「日本国際貿易促進協会」の訪問団に参加するもので、中国政府の要人とも面会するという。 同協会は中国との関係構築を掲げる在日組織「日中友好7団体」のひとつ。

「知事の中国訪中はシナリオ通り」と、沖縄史に詳しい一般社団法人日本沖縄政策研究フォーラム理事長の仲村覚氏はエポックタイムズの取材に答えた。台湾海峡の緊張に対し、左派の玉城県政が目指すのは抑止ではなく「話し合い」だという。

「(人民日報の報道による)習近平氏の発信もおそらく玉城知事のウェルカムの準備だと思う。(中略)中国での話し合いは尖閣など議題に上がらない。中国と琉球は古来より仲良くしている、引き続き仲良くしましょうね、という話しかしないだろう」

フランス国防相傘下のシンクタンク「軍事学校戦略研究所(IRSEM)」が2021年に発表した報告書は、中国共産党は沖縄と日米に対して離間計を施すと記している。

引き離す狙いは何か。仲村氏によれば、現行の中琉交流が目指す「平和」は米軍基地および自衛隊の排除だという。「19世紀以来、植民地支配を受ける日本から解放され、東シナ海を平和の海にして、島に一兵たりとも置かない。これが落とし所だろう」

相手を思い通りにーー。中国共産党による影響工作は三戦(世論戦、認知戦、心理戦)と呼ばれる。防衛研究所の飯田将史氏は中国の認知領域における戦いに関するコメンタリーで、「敵の行動や決定を自身の望むように誘導したり、情報の改ざんによって混乱を招き、投降や同時打ちを引き起こし、最小コストの勝利を目指す」と中国国内の論文を引用して解説している。

「中国は琉球独立など本気ではない」との声もあるが、「今回は前回(2013年)よりも発信量が多い」(前出の仲村氏)。台湾統一を悲願とする中国共産党は「戦わずして勝つ」戦略をとる考えられている。日本のみならず台湾、東アジアの安全保障に影響をもたらす米軍を置く沖縄は、彼らの目線の延長線上にある。

先のG7広島サミットでは首脳たちは共同声明で「台湾海峡の平和及び安定の重要性を強調し、両岸問題の平和的な解決を促す」と一致した態度を中国共産党に示した。同志国と連携した、中国共産党の三戦対応が日本政府に求められている。

日本の安全保障、外交、中国の浸透工作について執筆しています。共著書に『中国臓器移植の真実』(集広舎)。