厳戒の北京に「自由と民主」求める女性勇士が出現 中共の暴政に立ち向かう無名の市民たち

2023/06/07
更新: 2023/06/06

天安門事件34周年の前日である3日夜、北京市内でコンサートが開催されていた国家体育場近くの塔に女性が一人で登り、米国国旗のような垂れ幕を広げた。

女性はすぐに、タラップを駆け上ってきた複数の男性によって乱暴に取り押さえられた。その様子を捉えた動画がSNSで拡散され注目を集めている。

 

厳戒の北京で、若い女性が「自由・民主」を叫ぶ

SNS投稿によると、女性は『アメリカ独立宣言』の一部を盛り込んだ、自由と民主を求める主張が書かれた赤色のビラを撒こうとしていたという。

ビラにはほかにも「人が国を創った」「我われは、どこかの党に忠実であるより、正しい価値観に忠実であるべきだ」「中国は、真に自由で民主的な国になるべきだ」などの言葉が書かれていた。

この女性については、大学生であるという情報もあるが、氏名や詳しい背景などはまだ不明。

多くのネットユーザーがこの女性に感服し、彼女を「勇者」「勇士」と呼んだ。中共の暴政に対して堂々と反抗する姿勢を見せた女性は、ネット上では「もう1人の彭載舟」「女性版の彭載舟」などとも称されている。

 

中国政府に立ち向かう勇士、その名は「彭載舟」

この「彭載舟(ほうさいしゅう)」という人名は、いまや「中国政府に立ち向かう勇士」という象徴的な意味を帯びて、ネット上で広がっている。

昨年10月13日、北京の陸橋である「四通橋」の上に、習近平政権を真っ向から批判した横断幕を掲げたのがこの人物・彭載舟氏であった。なお「彭載舟」はハンドルネームであるという(本名は彭立發)。

彭氏は、ネット上で「四通橋の勇士」と呼ばれている。それは、まことに悲壮感あふれるワンマンショーだったが、ネットで拡散され、人々の記憶に確実に残った。

彭氏の掲げたスローガンには「独裁の国賊 習近平を罷免せよ」のほかに「PCR検査は要らぬ、食べ物が欲しい。封鎖は要らぬ、自由が欲しい。嘘は要らぬ、尊厳が欲しい。文革は要らぬ、革命が欲しい。独裁者は要らぬ、選挙が欲しい。奴隷になるのは嫌だ 、公民でありたい」と書かれていた。

その言葉の全てが、市民の誰もが心に思っていながら口に出せない「禁じられた本音」であった。それは同時に、中国共産党が最も恐れる民衆の覚醒でもある。

彭氏はその場で取り押さえられ、当局に連行されて以来、外界との接触を断たれた。彭氏がその後どうなったかは、全く分からない。複数の国際組織や人権団体は、彭載舟氏の釈放を中国政府に呼び掛けている。

こうして「四通橋の勇士」は消息不明になったが、その不屈の精神に多くの人が共感し、世界中の人々はあらゆる場所にこのスローガンと同様の文句を書くなどして連帯を示している。

米誌「タイム」が4月に発表した、今年の「世界で最も影響力のある100人」のリストのなかに、彭載舟氏の名前があった。日本からは、岸田文雄首相とゲーム開発者の宮崎英高氏が選ばれている。

「彭載舟」と聞けば、中国人であれば誰しも思い浮かべる四字熟語「載舟覆舟(さいしゅうふくしゅう)」がある。

これは君主を「船(舟)」に喩えた言葉で、舟を浮かばせるのも、舟を転覆させるのも、水(人民)の力による。だからこそ、君主は人民を愛し、良い政治を行うことによって人民を安らげることが肝要である、と説く。

現在、「彭載舟」の名前とともに、彼が反抗開始の狼煙(のろし)を上げた北京市海淀区にある「四通橋」の名称まで、中国当局が検閲する言葉の「ブラックリスト」入りしているらしい。そのため今では、地名の「四通橋」をネット検索しても、エラー表示になってしまうのだ。

しかも最近では、現地にあった通常の道路標識である「四通橋」のプレートまで撤去された。当局の、ほとんど病的な恐怖感が伺われる。

彭載舟氏が掲げた横断幕には「独裁の国賊 習近平」の文字が見える。写真は背景との合成(新紀元周刊 NewEpochWeeklyより)

 

南京に現れた「もう1人の彭載舟」

江蘇省南京市に「南京大虐殺記念館(侵華日軍南京大屠殺遇難同胞紀念館)」という施設がある。同記念館は、中国共産党により「第1次愛国主義教育模範基地」に指定されている

この施設の前に立つ、ある中年男性の動画が最近、華人圏の間で拡散され注目を集めている。

この男性は自身が着る白いシャツの前面に、赤字で「勿忘六四,六四我心痛」と書いているのだ。「六四(天安門事件)を忘れてはならない。六四に我が心は痛む」の意である。

シャツの背中にも、同じく赤い字で「198964を忘れない。六四を記念する」と書かれている。男性の左胸には、犠牲者を追悼する白い花の飾りもある。

しかし、道行く人たちは、この「勇者」に対して無関心のようだ。動画投稿者は、こうコメントをつけている。「通行人は、まるで愚者を見るような眼差しで彼を見ている。だから中国人は(中国共産党に)圧迫されるんだよ!」。

それでもこの男性は諦めることなく、通行人に何度も呼びかけた。

「みんな聞いてくれ。今日は六四(6月4日)だ。中国人であれば、この悲惨な日を忘れてはいけない。そして、私の姿をカメラに収め、画像をネットに拡散してほしい」

男性はさらに「中国はまもなく民主の日を迎える」とし、背後にそびえ立つ「南京大虐殺記念館」を指して、こう明言した。

「今後、この記念館は(日本軍の侵略を展示する場所ではなく)天安門で犠牲になった学生を記念する施設になる。中国人民が流した血を記念する『殺人記念館』になるのだ」

さらに男性は「今日という日、この苦痛な日を忘れないでほしい。今日は、無数の母親が泣いている。だから、決してこの日を忘れてはいけない」と、通行人に向かって呼びかけ続けた。

投稿動画は2分40秒ほどである。動画の終わりに男性は、自分が南京市民であり、名前をシー・ティンフ(史庭福?)と名乗った。

名前の漢字は分からないが、堂々と顔を出し、極めて明確に、現体制である中国共産党が行った「六四天安門事件」を非難した。

「勇気ある人」を見殺しにするか?

日本の読者各位に、どうかご想像いただきたい。

この南京市民は、もはや命も捨てる覚悟で、このような体制批判を行った。厳戒態勢の北京で自由と民主を求める赤いビラを配った若い女性も、横断幕を「四通橋」に掲げた彭載舟氏も、同様である。

彼らは皆、命さえ捨てる覚悟で、勇気と信念をもって行動を起こした。このような中国人も、実際いるのである。

彼らはおそらく、自分の「小さな革命」で中国の体制が代わるなどとは思っていないだろう。ただ、こうした風車に突進するドン・キホーテのような戦いがネットで拡散され、国際社会にも伝わり、やがて大きな変革力になることを期待したのではないか。そのためならば、自身の命を犠牲にしても悔いはない、と信じて。

南京の勇気ある男性がその後どうなったのか、全くわからない。彼がこの後で直面する「境遇」を想像しただけで、身震いがする。おそらく警察に逮捕されるのは確実だろう。さらには、中共お得意の「国家政権転覆罪」を適用されて、そのまま消される可能性も否定できないのだ。

彼の身を案じる声は、ネット上でも広がっている。

「これは死ぬ覚悟をしていないと出来ないことだ。その死をも恐れぬ精神には敬服する。実に立派だが、ただ犠牲が大きすぎる。割に合わない」

「心の底から敬服すると同時に(中共政権に立ち向かえない)自分を恥ずかしく思う。どうか無事でいてほしい」

そのほか「今後、このようなことをする人はもっと増えるだろう」「国際社会が、この英雄を救ってくれることを期待する」といったコメントが殺到した。

こうした「勇気ある人びと」を見殺しにするか、否か。

我われ日本人にも、それが問いかけられている。
 

李凌
エポックタイムズ記者。主に中国関連報道を担当。大学では経済学を専攻。カウンセラー育成学校で心理カウンセリングも学んだ。中国の真実の姿を伝えます!
鳥飼聡
二松学舎大院博士課程修了(文学修士)。高校教師などを経て、エポックタイムズ入社。中国の文化、歴史、社会関係の記事を中心に執筆・編集しています。