バフムト陥落と今後の予測

2023/05/22
更新: 2023/05/22

バフムト陥落

ロシアがバフムト攻略を開始すると7万人のロシア軍将兵が損害を出したとされる。バフムト攻略は民間軍事会社ワグネルが担当し人命軽視の攻撃が問題視された。ワグネルが囚人を使ったことで攻略を進めたが戦闘が長期化した。

ロシア軍の攻勢は全体として遅々として進まずバフムト付近だけが優勢に進んでいる。これにより民間軍事会社ワグネルとロシア軍との関係が悪化したとも伝えられ、戦闘の長期化に合わせて政治的な象徴へ変わっていく。

ウクライナ軍は欧米からの軍事支援を受けて反転攻勢を行なうこと推測されている。そんな時にウクライナ軍はバフムトの北部と南部で攻撃を行い2kmほど前進した。ロシア軍はバフムトを攻略したがウクライナ軍に包囲される可能性が高くなっている。さらにウクライナ軍の反転攻勢が開始されるとバフムトに戦力を拘束される可能性が高くなった。

 

ロシアから見れば

ロシア軍から見ればウクライナ東部で攻勢を成功させてウクライナ軍を撃破したかった。実際の戦線は膠着し第一次世界大戦の塹壕戦が再現された。本来はウクライナ軍の戦線を突破してウクライナ軍を各個撃破するはずがウクライナ軍の防御を破れない。これはロシア軍が戦闘機を用いて制空権を獲得しないこととウクライナ軍の防空システムを撃破できないことが原因の一つ。

こうなると、欧米からの支援を受けた対戦車ミサイルを保有するウクライナ軍の防御が有利になった。ロシア軍の戦車は戦闘教義である2点突破理論に従い軽量・小型化が求められた。2点突破理論では質よりも数が重要だから、結果的に砲弾を車体に配置することで戦車の軽量・小型化を採用した。

欧米の戦車は基本的に砲弾を砲塔の後部に配置する。戦車は大きくなるが敵の砲弾を受けた被弾時の生存性は向上することは知られている。このことは明確になったのは湾岸戦争(1990-1991)で、ロシア系戦車の砲塔が吹き飛ぶことが知られるようになった。当時は輸出型のモンキーモデルだから防御が弱いとされたが、ロシア軍によるウクライナ侵攻で本家の戦車もモンキーモデルであることが判明する。

以前はロシア系戦車は複合装甲と爆発反応装甲で守られているから防御力は高いとされた。さらに敵の対戦車ミサイル・対戦車ロケット弾・APFSDSなどを擲弾で粉砕するAPSが有ると喧伝された。実際には本家ロシアの戦車はウクライナ軍が使う対戦車兵器には無力で有ることが判明した。

 

無力化されたら突破できない

これではロシア軍は戦車を用いた戦線突破を行なうことが難しい。第二次世界大戦ではドイツ軍の戦線を突破する機動戦を行ったが、この時はドイツ軍を圧倒する砲撃と航空支援が有り、さらにドイツ軍の砲弾に耐える装甲を持っていた。今のロシア軍をデユピュイ戦略研究所の戦闘統計から見ると攻撃手段を無力化されたことは明らか。

戦闘部隊が攻撃または防御を中止した理由(第二次世界大戦からの師団から大隊規模の戦例50)

敵の戦術的な機動攻撃を受けた→60%
 包囲・突破・退路遮断→33%
 緊要地形の喪失   → 6%
 敵からの奇襲    → 8%
 隣接する部隊の退却 →13%

相対的戦闘力の格差が増大→18%
 敵に増援が来着   → 4%
 自軍の予備戦力の枯渇→12%
 兵站補給の枯渇   → 2%

戦闘を継続できない損害→12%
 接近戦が原因    →10%
 砲爆撃が原因    → 2%

戦闘の外部条件→10%
 天候・気象の変化→2%
 退却命令    →2%
 戦争の停止   →6%   

International TNDM Newsletter,Dec 1997

指揮官の判断で決戦を中止する理由
1:攻撃手段が無力化される
2:敵戦力が増援を受けて戦力格差が出た
3:予備戦力・兵站の枯渇で戦闘力が低下した(戦意喪失)
4:戦闘継続が出来ない損害を受けた
5:隣接部隊の退却

ロシア軍はウクライナ軍が使う対戦車ミサイル・ロケット弾で戦車が無力化された。これは戦車を突破作戦で使う攻撃手段だから致命的だ。実際にロシア軍は骨董品とも言われるT-62やT-55などの戦車を投入しているので、最新モデルの戦車が撃破されていることになる。

これまでのロシア軍は損害が増加し、今ではロシア軍は20万人の死傷者を出していると推測されている。そんな時にウクライナ軍は欧米からの軍事支援で戦力を回復した。それだけではなくウクライナ軍は反転攻勢を行なうことが予期されており、反転攻勢が成功すればウクライナ軍とロシア軍に戦力格差が生まれることになる。

 

予期されるウクライナ軍の反転攻勢

ウクライナ軍は欧米から戦車を約300両獲得したことで1個師団を運用できる様になった。戦車師団は国により異なるが300から400両で1個師団となる。師団は戦術の最大単位であり戦略の最小単位。戦局を変えるには戦略単位が必要なので、ウクライナのゼレンスキー大統領は欧米に300両の戦車を求めたのだ。

ソ連軍時代から当時の西側の戦車1両に対してソ連軍の戦車は4両の戦車で対抗することを前提としていた。これは今のロシア軍でも変わらないので、今のロシア軍は1200両の戦車で対抗することを迫られている。このことから今のロシア軍は骨董品とも言われるT-62やT-55などの戦車を投入する原因になった。

ウクライナ軍が反転攻勢を行なうとすれば、ザポリージャから南下してメリトポリを攻略するルートが堅実案。何故ならウクライナ軍がメリトポリを奪還すれば、ウクライナ南部のロシア軍の兵站を断つことができる。仮にロシア軍がクリミア半島へ逃れても兵站が乏しいクリミア半島では持久戦は難しい。成功すればロシア軍はウクライナ南部とクリミア半島を失い政治的なダメージになる。さらにロシア軍の損害が多ければ敗北が確定する。

ハイリスク・ハイリターンであれば、ウクライナ東部のバフムト付近で反転攻勢を行なうことになるだろう。何故ならウクライナ東部にロシア軍が集まっており、反転攻勢を行なうとロシア軍主力を撃破できる。これはロシア軍も知っているから実行するとウクライナ軍の反転攻勢が失敗するリスクも有る。

 

天下分け目の関ケ原

これから発生すると予期されるウクライナ軍が行なう反転攻勢を日本で言えば天下分け目の関が原になる。ロシア軍の損害が多く戦争の長期化は望めない。ロシア軍は攻勢を行なうだけの戦力を失い防御に回っている。ウクライナ軍も損害を出しており辛い立場だが、欧米から軍事支援を受けたウクライナ軍が有利な立場。

ウクライナ軍の反転攻勢が成功すればウクライナ情勢は一変する。ウクライナに侵攻したロシア軍が撃破されると戦争継続は困難。そうなるとプーチン大統領の立場が危険になり和平交渉どころかクーデターの可能性も有る。

ロシア軍の弱体化はアジアのパワーバランスを変えているので、ロシアの敗北が確定すると世界規模のパワーバランスが変化する。これは新たな地域紛争の種になるから無視できない。何故ならロシアの敗北で中国は有利な立場になるので、中国が隣接するロシア領を奪う可能性も有る。さらにロシア連邦に属する国が離脱する可能性も有り、新たな地域紛争が連鎖しかねない。それだけ変化を与えることになるだろう。

この記事で述べられている見解は著者の意見であり、必ずしも大紀元の見解を反映するものではありません。
戦争学研究家、1971年3月19日生まれ。愛媛県出身。九州東海大学大学院卒(情報工学専攻修士)。軍事評論家である元陸将補の松村劭(つとむ)氏に師事。これ以後、日本では珍しい戦争学の研究家となる。
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