記事は、「中国大使の暴言…核攻撃論の裏打ちか 問われる日米同盟の真価」のつづきです。
台湾封鎖の恐怖
ウクライナでは欧米が武器を供与し、ウクライナ軍が戦っている。だがウクライナと台湾には大きな違いがある。ウクライナは大陸にあるが、台湾は島国なのである。ウクライナには隣国ポーランドから陸路、物資を供給できる。しかし、台湾は海上封鎖されてしまえば、物資の補給は困難だ。
現に2022年8月、中国軍は台湾を取り囲む形で軍事演習を行った。また2023年1月に米国のシンクタンクCSISが、「2026年に中国が台湾を侵攻した場合」のシミュレーションを公表したが、中国は陸上兵力を台湾に上陸させる能力を備えつつある状況が明らかになった。つまり台湾軍は中国軍を水際で撃退するのは困難になりつつあり、台湾で陸上戦闘が繰り広げられる公算が高いのである。
最終的に台湾軍が中国軍を撃退できる公算が高いという結論が出た。ところが、4月に米軍の機密文書がSNSを通じて拡散する事件が発覚したが、その文書には、台湾の防衛体制の脆弱ぶりが指摘されていた。具体的には、台湾は中国のミサイル攻撃を正確に探知できず、台湾の航空機の稼働率は5割程度であり、台湾が航空機をシェルターに格納するのに1週間かかる、という。つまり台湾空軍は中国のミサイル攻撃により開戦初期に壊滅する公算が高い。
台湾軍が制空権を確保できなければ、陸上戦を有利に展開するのは困難であり、台湾軍が陸上戦で中国軍を撃退できるというシミュレーションの結果は絵に描いた餅になろう。
韓国の台頭
台湾有事には、中国は台湾を海上封鎖するとみて間違いない。米国は台湾に武器供与をする計画だが、ウクライナ同様、直接参戦はしないとみられる。従って、中国軍が台湾を包囲して輸送路を封鎖してしまった場合、包囲網を突破して武器を届けることが出来ない。もし、これをやれば米中戦争となり、核戦争に発展しかねないからだ。
米国としては、日本にやってもらいたいわけだが、憲法9条の制約で、日本もできない。そこで目を付けたのが韓国だ。韓国は集団的自衛権が認められ、憲法9条も非核三原則もない。
そこでバイデン政権は日米韓の安全保障協力を推進するに至った。表面的には対北朝鮮だが、これは中国を刺激しないための表向きの理由であって、真の理由は台湾防衛である。
韓国の前政権であった文在寅政権は、中国に配慮して消極的だったが、昨年就任した尹錫悦大統領は、日米韓の安全保障協力に積極的な姿勢を示し、バイデン氏を喜ばせた。今年の1月には米国との核シェアリングの可能性にも言及した。日本が拒否するなら、韓国に核兵器を置けとの意思表示である。
米韓首脳会談の失敗
だが意外な事件が起きた。先に触れた米軍機密漏洩事件である。漏洩した機密文書により、米国が韓国政府内を盗聴していた事実が明るみになった。
そもそもの事の起こりは、ウクライナである。米国はウクライナに武器の供与を続けているが、お陰で米国の武器の在庫が底をつきかけている。このままでは台湾に供与する武器にも支障が出そうな状況なのだ。
そこで、韓国に対してウクライナに弾薬を供与できるか、打診したのである。だが韓国とて北朝鮮に対抗して軍事演習をしているから、弾薬に余裕があるわけではない。断ろうか、どうしよう、断ったら米国の圧力が怖いという韓国政府高官の会話を米国は盗聴し、機密文書に記したのである。
これが明るみなって、韓国野党は、政府の対米弱腰姿勢を非難し韓国政府は窮地に立たされた。4月26日の米ホワイトハウスでの米韓首脳会談で、尹氏はウクライナへの弾薬補給を拒否し、バイデン氏は韓国との核シェアリングを拒否した。
米韓首脳会談は事実上決裂したのである。だが事は米韓だけに留まらない。米国はウクライナへの弾薬補給の目途も立たなければ、台湾防衛の戦略も成り立たなくなった。米国の安全保障戦略の崩壊と言ってもいいかも知れない。
(了)
ご利用上の不明点は ヘルプセンター にお問い合わせください。