原発全廃のドイツ、懸念される最悪のシナリオ 再エネ偏重で産業に打撃も

2023/05/23
更新: 2023/05/23

4月中旬に原子力発電所を全廃し、再生可能エネルギーへの転換を図るドイツでは、エネルギー安全保障をめぐる懸念が高まっている。ウクライナ戦争後、電力価格の高騰を経験したが、今度は電力の安定供給に頭を悩ませている。

安定な社会生活と産業の発展に欠かせないベース電源はどうあるべきか。原子力エネルギーとの正しい付き合い方は何か。ドイツのエポックタイムズ記者は、長年原発のシニアマネージャーを務め、原子力の安全運用とエネルギー問題に詳しいマンフレッド・ハーファーブルク氏に話を聞いた。

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--ハーファーブルクさん、最初に自己紹介をお願いします。

私は旧東ドイツのザクセン州ドレスデン工科大学で原子力工学を専攻した。当時、それは機械工学の下位分野だった。70年代初頭には原子力の黄金期が訪れ、大きな期待が寄せられていた。原子力を学ぶことはお洒落なことで。自分が素晴らしい物理学者であると言えば、女の子たちを魅了することができた。

その後、私は原子炉オペレーターになるためにラインスベルク原子力発電所で1年間実学を学び、1970年代半ばにグライフスヴァルトに配属となった。そこで私は1号機の試運転責任者となった。私たちは他の原子炉も次々と稼働させた。グライフスヴァルト原発は機械室のサイズで言えば、世界最大級の原子力発電所だった。5年後、私はすでに上級管理職に就いていた。私は原子炉の操作を行い、すべての計器を読み、適切なタイミングに適切な指示を出した。

しかしドイツ社会主義統一党(旧東ドイツの独裁政党)に所属しないと、そのような指導的立場に止まることはできなかった。私は党に加入する気など毛頭なく、結果として職場や生活で様々な衝突が起きてしまった。私は政治的な理由で解雇され、訓練センターのリーダーになった。しかし弾圧は続き、私はホーヘンシェーナウのシュタージ(秘密警察)刑務所に収監された。

冷戦終結後、統一されたドイツで私は大手のエネルギー会社で働いた。そして16年間、パリの原子力監督組織で原子力発電所の安全確保に関わった。その間、私はほとんどの人が想像もつかないくらい多くの原子力発電所を内部から見ることができた。実際、私はほとんどの職業生活を原子力発電所で過ごしたのだ。

--2023年4月中旬、ドイツは最後の3つの原発を停止した。現在のドイツのエネルギー安全保障をどのように評価しているか?

原発の段階的廃止により、エネルギー安全保障はさらに不安定な方向へ進んでいる。エネルギー供給の不確実性はすでに数年前から続いていた。私たちは数年間にわたって発電所の出力を落とし、風力といった不確実性の高いエネルギー源で補う試みをしてきた。しかし、風力発電は時々停止し、太陽光発電は日が暮れると発電できない。エネルギー供給の安定性に課題が生じたのだ。

電力網を安全に運用するには、供給予備力が必要だ。たとえば、フットボールの試合のハーフタイムに数百万人が一斉にコーヒーケトルのスイッチを入れたとする。その高い負荷に電力網は対応できなければならない。しかし、こうした電力の予備は「グリーン」のラダイト運動家(機械破壊主義者)たちによって徐々に破壊されている。

4.5ギガワットの出力を持つ原子力発電所を停止することにより、電力需給はすでに供給予備力の限界を突破している。例えば、夜10時の電力負荷曲線を見ると、3つの原子力発電所は合計して毎分30メガワット(MW)の出力があったものの、原発を止めたことにより、他の発電所がその分だけ供給量を増やさなければならないのだ。

しかしドイツでは他国からの電力輸入量が増加することとなった。つまり、自国内の石炭やガスを用いる火力発電所だけでは原発の代替となる十分な量の電気を供給できなくなったのだ。電力の最大消費量を考慮し、さらに供給予備力を加味すれば、電力供給が不足する事態に陥ってしまう。現在でも、常時70ギガワットの電力供給を維持するのは不可能だ。

ドイツは最後の3つの大規模な原子力発電所を停止したことで、電力の純輸入国となった。今後、ドイツが電力を輸出できるのは、風が十分に強く、太陽光がさんさんと照りつけている時だけだ。自然エネルギーが充足しているとき、ドイツはオーストリアやスイスに電力を輸出し、揚水式水力発電の水を下池から上池ダムへと引き揚げる。数時間後、太陽が沈み風がなくなると、今度はドイツが他国の揚水式水力発電の高額な電力を買い戻す。

--もし必要な電力を確保できない場合にはどのような影響を生じるか?

例としてアルミニウム産業を見てみよう。昨年、精錬施設は200回以上も一時停止することを余儀なくされた。時間単位での停止だ。つまり、需要側管理が消費にも影響を及ぼしているということです。これが「供給重視の電力供給」です。アルミニウム製造工場は数時間停止することができても、それ以上停電が続けば、溶解した金属が凝固してしまい、溶解炉を捨てなければならなくなる。再び加熱することはできず、解体するしかない。多くの産業部門が同様の問題を抱えており、総合化学メーカー大手のBASFも生産停止を余儀なくされた。

さらに、今後数年間で計画されている石炭火力発電所の廃止も考慮しなければならない。現時点で再稼働させた石炭火力発電所はわずか14基だ。もし現状のまま新たな手立てを打たなければ、「供給重視の電力供給」は消費者にも影響を与えるだろう。

まずは、電気自動車やヒートポンプへの電力供給が止まる。それでも電力不足が続けば、影響は都市にも波及し、最悪の場合、南アフリカのように毎日2回、2時間ずつ停電することを余儀なくされることもあるだろう。

(つづく)

Tim Sumpf
ドイツ語大紀元編集者。ドイツ現地報道などを担当。