封殺された真実「月2000円で生きる高齢者」 貧困に沈む大国(1)

2023/03/21
更新: 2023/05/26

中国の庶民のなかでも、とくに弱い立場におかれた貧困老人の姿を撮影し、SNSに投稿するインフルエンサー・戸晨風氏。その戸氏の複数のSNSアカウントが突然、中国当局によって封鎖された。米政府系放送局のラジオ・フリー・アジア(RFA)17日付が報じた。

出会ったお婆さんは「毎月2000円で生活」

戸氏は、現代中国の社会現象を映像作品にすることで人気上昇中の動画投稿者。これまでにも「100元の購買力チャレンジ」や「時給9元/15元の購買力チャレンジ」など、戸氏が手掛けたショートムービーが広く注目されている。

今月14日、戸氏は四川省成都の市内で、出会った高齢者の買い物に密着取材するため、機材を準備して待機していた。撮影に協力してくれた高齢者には、その買い物の代金を「1日分の年金」としてプレゼントするという企画である。

はじめに出会った何人かのお年寄りには、撮影協力を断られた。しばらくしてから、戸氏は1人のお婆さんに出会う。

聞くと、このお婆さんは四川省南充の農村の出身で、今年78歳。夫に先立たれ、2005年に息子のいる成都へ出稼ぎに来た。その頃は、月300元(約5800円)の報酬で、子守りや家事など家政婦の仕事をしたこともあるという。

しかし現在は仕事がない。もともと年金もないため、毎月わずか107元(約2000円)ほどの農民保険だけが唯一の収入であり、生活のよりどころになっている。

107元は、大都会の成都で暮らすのには、あまりにも少ない金額だ。戸氏は「お金が足りなくなったら、どうするのですか?」と聞いてみた。

するとお婆さんは「そうなったら息子にお願いするしかないよ」。そう答えたとたん、お婆さんの目に涙があふれた。しかし、その息子というのも、もとはエンジニアだが現在は無職で収入がない。息子には、まだ学費のかかる子供が2人いるという。

「今日は、お米を買いに街に出てきたんだよ」。そういうお婆さんは、普段肉は食べられず、ほとんど麺類だけという苦しい生活をしている。

戸氏を「息子」と呼び、合掌して礼を言う

これを聞いた戸氏は「お米とお肉を買いましょう。もちろん私が支払いますから」と持ち掛けた。ところが、はじめは遠慮するお婆さんに「いやいや、買わなくていいよ」と断わられてしまう。再三説得して、ようやくお婆さんと一緒に大型食料品店へ向かうことになった。

お婆さんの唯一の収入源があまりに少額であったため、戸氏は、当初の番組企画であった「1日の年金」を急遽「1か月の農民保険」へ変更することになった。

なにしろ、お婆さんの1カ月の収入は107元である。たとえ食料だけであったとしても、107元では十分な量は買えない。結局2人が選んだのは、お米が10キロ(約36元)。それから小麦粉2キロ(約8元)、豚肉2キロ(約47元)、卵30個(34元)など。合計128元(2431円)ほどの買い物になった。

ところで、お婆さんの家に冷蔵庫はない。肉の保存はどうするのかと聞くと、隣の家の冷蔵庫に入れさせてもらうという。

レジでの会計前に「やっぱり、お米のお金だけでも払わせておくれ」と再度申し出るお婆さん。

この時、戸氏への呼びかけが、いつの間にか「児子(アルズ)」に変わっていた。お婆さんは、戸氏を「息子」と呼んでいるのだ。もちろん戸氏は、お金を出すというお婆さんをなだめて、この「母」に替わって自分が支払いを済ませた。

二人のやりとりを遠くから見て、不審に思った店員が「どうしましたか?」と声を掛けてきた。戸氏が「何でもないですよ。二人一緒に来ましたから」と答え、店を出た。(続く)

李凌
エポックタイムズ記者。主に中国関連報道を担当。大学では経済学を専攻。カウンセラー育成学校で心理カウンセリングも学んだ。中国の真実の姿を伝えます!
鳥飼聡
二松学舎大院博士課程修了(文学修士)。高校教師などを経て、エポックタイムズ入社。中国の文化、歴史、社会関係の記事を中心に執筆・編集しています。