米国では中国拠点企業のアプリによる安全保障上のリスクを重視する傾向が進む。これまでに20州以上が、TikTokや微信(ウィーチャット)などを行政のデバイスで使用することを禁止した。こうしたなか、大阪観光局はウィーチャットを使用した情報発信を進めると発表。セキュリティリスクに対する温度差が表面化する。
大阪観光局は18日、中国人旅行客の受け入れを拡大するため、中国最大手SNSウィーチャットを通じて大阪観光に関する情報発信を始めると発表した。訪日観光拡大を図るという。中国の集客や販売促進で実績を持つSNS活用支援のLIAN株式会社と、8400の会員を抱える大阪市商店会総連盟との3者で包括連携協定を結んだ。
毎日放送によると、大阪観光局の溝畑宏理事長は「どこよりも早く仕掛けて、(訪日が)再開した時には、大阪が日本のモデルケースになるよう頑張りたい」と意気込みを語った。
中国共産党政府の道具「スーパーアプリ」
対話や電子決済、個人認証などあらゆる機能を備えるウィーチャットは「スーパーアプリ」と称され、中国人口の大半が所持している。アクティブユーザは10億人に達する。
ウィーチャットはTikTokとならび、セキュリティリスクが危惧されている中国のアプリだ。豪シンクタンク・戦略政策研究所(ASPI)は以前の報告書で「中国共産党政権のロングアーム(直訳は長い腕、対外影響工作)となって、権威主義を海外に広げ、在外華人らを監視し、コンテンツを検閲し、プロパガンダを発信している」と指摘した。
中国のIT複合企業のテンセント(騰訊)が運営するウィーチャットは政府向けコンテンツを開発してきた。パンデミック期には同アプリの「健康コード」機能によって膨大な個人情報を管理している。
異見者の検閲にも使用され、「ゼロコロナ」解除などをめぐる中国政府の新型コロナウイルス政策に批判的なアカウント1000件以上を凍結した。
いっぽう、米議会ではトランプ前政権以降、中国共産党の人権弾圧に協力しているとして、中国企業のアプリや電子機器メーカーに対する強硬姿勢が多数派を占める。セキュリティリスクの報道を受けて、20日時点で28州がTikTokの行政機関での利用を停止し、ウィーチャットも7州で禁じられている。
ウィーチャットやTikTokなどは北京に拠点を置く。中国企業は国家情報法やデータセキュリティ法などに則って、中国政府の要請に応じてデータ提供する義務を負っている。米国各州や議員の姿勢はこうした法律の域外適用を懸念しての対処だ。
「友好」「連携」かかげ接近する
中国評論家の唐靖遠氏は、戦略的な「連携」や「友好」を掲げて日本に接近する中国共産党の狙いは、日本の資本や技術を入手するためだと指摘する。
「日本に対するアプローチは米国のそれによく似ている。友好を装って接近するのは日米からの資金と先進技術といった支援を得るためだ」
日本企業の技術が人権侵害に使用されているとの報告がある。19日、日本ウイグル協会は都内で開いた会見で、少数民族らの監視ネットワークに協力する中国監視カメラ大手ハイクビジョンのカメラには、ロームやTDK、セイコーエプソンなど日本企業7社のメモリーやセンサーが使用されていたと明らかにした。
いっぽうで中国共産党は情報統制された官製メディアを使い、中国国内では反日や仇日(日本に対する怨恨、復讐)を煽り、立憲主義や民主主義の影響を拒んでいる。
怨讐の矛先は、前出のハイクビジョンのカメラにも部品供給しているソニーも例外ではない。日本電子機器大手ソニーのSNS微博公式アカウントは1月4日、突如として停止させられている。江蘇省共青団の主張によれば、朝鮮戦争時代の中国兵士を侮辱する内容があったという。ソニーの投稿は、紅葉したモミジに囲まれた黒い犬の写真と短い書き込みだった。
ソニーは2021年にも盧溝橋事件の日に新製品を発表し「尊厳を害した」として、100万人民元の罰金が課せられている。
唐靖遠氏は、中国共産党が微笑みと怨念といった二面性を持って外国政府や企業を翻弄していると語る。日本の行政機関や企業などに向けて、中国共産党に近い中国企業には警戒し、距離を置くよう呼びかけている。
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