習氏3期目で中国経済は下り坂確定 発言から読み解く5つのポイント

2022/11/06
更新: 2023/11/14

中国の習近平国家主席が第20回党大会で行った活動報告は、中国経済の先行きに不安感を匂わせるものだった。経済発展に重点が置かれず、前向きな部分が感じられなかったと大手経済紙が報じた。ここでは、活動報告から見えてくる習近平指導部の今後の経済への取り組みについて、5つのポイントに分けて読み解いていく。

1. 「ゼロコロナ」政策継続で望み薄まる

中国共産党が推進する「ゼロコロナ」政策により、中国経済は大きな打撃を被ってきた。そのため、党大会後に緩和することを期待する声も出ていた。

米投資銀行大手のゴールドマン・サックスが先月13日に発表したレポートで党大会後も「ゼロコロナ」政策は継続するとの見通しを示しことにより、期待感は薄れたものの、習近平氏の口から出た「ダイナミックなゼロコロナ政策を堅持し、感染症に対する全面的な人民戦争を展開する」との文言は並大抵ならぬインパクトを持っていた。

住民全員を対象とするPCR検査および厳格なロックダウン(都市封鎖)の常態化は経済を押し下げ、中国経済の不安要素となっている。

2. 「共同富裕」の旗印

鄧小平が唱えた「一部の地区、一部の人から先に豊かにする」という「先富論」は、経済格差や既得権益層の形成など多くの弊害を残した。では、習近平氏が活動報告で繰り返し強調した「新時代」の「新」の要素はどこにあるのだろうか。

キーワードは「共同富裕」の4文字であり、習氏はこれまでの弊害を一掃すると意気込んでいた。「共同富裕」とは毛沢東が提唱したスローガンで、格差の是正を意味する。実現できるかどうかは別として、旗幟を鮮明にすることで、中国経済の方向策定における自身の指導力を高める狙いがあるだろう。

そのため、第20回党大会の活動報告では、独自の発展モデルを意味する「中国式現代化」という新しい概念を打ち立てた。さらに、今後5年間を「社会主義現代化国家の全面的な建設が始まる重要な時期」とみなした。

しかし問題となるのは、「共同富裕」をいかに実現するかということだ。習近平氏は「富が蓄積するメカニズムを規範化する」という表現を今回初めて使用したが、これは党内外の既得権益層にメスを入れることを意味する。利益関係が複雑に絡み合う現代中国において、この一手は今後の政治と経済における変革の火種を燻らせていることに等しい。

3. 市場経済がさらに社会主義に偏重

中国では鄧小平時代から市場経済が導入され、国有企業を中心とする「公有制経済」と、私企業などからなる「非公有制経済」が並走してきた。近年では、「国進民退(国有部門の拡大と民間部門の縮小)」の傾向が指摘されるようになり、米経済誌『フォーチュン』発表の世界企業ランキング「フォーチュン・グローバル500」でも、中国企業でランクインしたのは国有企業がほとんどだ。

中国共産党の二つのセクターに対する対応の違いは習近平氏の言葉からもわかる。「公有制経済」については、「いささかも揺らぐことなく維持・発展する」と述べた。国有企業改革に関する3カ年計画にも、社会主義的特徴が色濃く反映されている。しかし、中国共産党が生み出した巨大な国有企業は業界を独占するが、競争力に乏しく、収益性も国際水準と比較すれば低い水準にとどまっている。

いっぽう、私企業に対しては「いささかも揺らぐことなく激励・支持・誘導しなければならない」とした。ここでいう「誘導」とは中共の経済政策におけるレトリックだ。アリババといった大手IT企業に対する締め付けは記憶に新しいだろう。「反トラスト」や「無秩序な資本の拡張防止」を掲げる中共の「誘導」は、決して生やさしいものではない。

習近平氏はまた、「作為のある政府」を主張した。報告の中では「資源配分において市場の決定的役割を存分に発揮させながら、政府にもより良い役割を果たさせなければならない」としているが、前半は建前であり、後半こそが本音である。

経済学には「小さな政府」の概念が存在するが、中共の主張する「作為のある政府」は学術的な根拠を持たない。しかし全てを「指導」したい中国共産党は「小さな政府」を受け入れられるのだろうか。そのため、「社会主義市場経済の改革の方向を堅持する」ことは時代に逆行するに等しい。もっとも、毛沢東時代まで後退することは不可能だ。

4. 「質の高い発展」から見え隠れする中国経済の衰退

2012年の習近平指導部発足後、資源と環境問題の深刻化、金融リスクなど様々なひずみが顕在化し、中国の経済成長は減速した。粉飾しきれなくなった当局は、「経済の新常態」や「高速成長段階から質の高い発展への移行」といったレトリックで対応せざるを得なくなった。

現実を突きつけられた中国当局は、世界銀行元副総裁の林毅夫氏らが提唱した「中国経済の奇跡」論を放棄せざるを得なかった。「GDP成長率で判断するのではなく、抜本的な課題解決に着眼する」ことを口実に、中共の第14次五ヵ年計画と2035年までの長期目標要綱では、実質的に年成長率を4.5%〜5%としている。

しかし、実現にはほど遠い。林毅夫氏は2035年までの中国の経済成長率を年率6%〜8%と予想し、2036年以降は4%〜6%になるとしている。いっぽう2049年までの中国の経済成長率は年平均2〜3%前後になる可能性があるという研究結果もある。なお、上海財経大学の劉元春学長らは、今後15年間のGDP潜在成長率を4.7〜4.8%で推移すると試算している。

5. 行き詰まる経済戦略

一つ目に、中国共産党が長年掲げてきた内需拡大戦略があまり進展していないことがあげられる。なぜ内需が伸びないのか? 要因は、中共の経済体制および政策は略奪性があり、富裕層と貧困層の二極化が進んでいる。具体的には、中国の国民総所得に対する家計部門の第1次所得バランスの割合は、1996〜2010年67〜57%へと右肩下がりに推移した後、2018年には概ね61%前後で推移し、パンデミック発生以降は下降した。

二つ目は、「城郷融合」(城=都市、郷=農村)の実現が難題であること。国際比較では、2020 年の中国の都市部と農村部の所得の格差が2.6倍と高く、英国やカナダなどの先進国は約1倍前後、インドは1.9倍近く、ウガンダなどのアフリカの低所得国でも2.3倍前後にとどまる。 中共は長年、「三農(農業・農村・農民)」問題や「郷村振興」の必要性を訴えてきたが、格差是正の見込みは極めて薄い。三つ目は、「地域協調発展」が机上の空論と化した。中国経済発展において東西地域(東が沿海部、西が内陸部)の経済格差だけでなく、南北間の経済格差も著しい。 北部地域のGDPシェアが2010〜20年まで42.81〜35.22%と低下しているいっぽう、南部地域のGDPシェアは57.19〜64.78%に上昇。 また、中国の経済シンクタンク・華頓経済研究院(WEI)が発表した2020年中国トップ100都市ランキングによると、トップ10のうち北部の都市でランクインしたのは北京のみで、トップ20には北京、天津、鄭州、西安、済南、青島は北部5都市のみであった。 北部地域の経済は全体的に下振れしているが、復調することはできるのか。

結びに

第20回党大会の活動報告では、経済の質的改善と量的成長を推進することが掲げられた。しかし今日の中国共産党の経済政策から判断すると、おおかた幻想に終わるだろう。そもそも現時点で中国経済が安定するのかどうかすら危うい状況だ。

習近平氏が活動報告で掲げた「国内循環の内的な動力と信頼性を強化する」ことや「産業サプライチェーンの強靭性と安全性の向上」、「現代的な産業システムを構築し、経済発展の焦点を実体経済に置く」ことはいずれも現代中国の経済的難題だ。凝り固まった共産党の経済政策では、問題点を改善するどころかかえって悪化させるだけだろう。

王赫