ソロモン諸島、華為の電波塔161基を建設 米中の綱引き続く太平洋諸島

2022/08/24
更新: 2022/08/24

南太平洋の群島国家・ソロモン諸島政府は、中国輸出入銀行から4億4890万元(6615万米ドル)の融資を受け、通信機器大手・華為技術(ファーウェイ)の電波塔を161基建設する。同国ソガバレ政権は、中国の軍事利用が懸念される安全保障協定を結ぶなど中国傾斜が顕著で、米欧の懸念が強まっている。

ソロモンタイムズによれば、融資は中国輸出入銀行から金利1%の設定で20年契約となる。電波塔設備の建設と機器提供は、華為および中国国有企業100%出資の中国港湾工程(チャイナ・ハーバー・エンジニアリング)が請け負う。通信網はソロモン・テレコムが運営する。2023年初めまでに着工予定だ。

通信インフラの拡充について、ソガバレ政権は、2023年同国の首都ホラニアで開催予定の総合運動競技大会「パシフィック・ゲームズ」の観戦を、農村地方にいながらにして楽しめるようにするための契約だと説明している。

ソロモン諸島はソガバレ政権以降、巨額投資を続ける中国との距離を一気に縮めている。今回の契約で、ソロモン諸島当局は両国国交樹立以来の「歴史的な金融パートナーシップ」であり、「プロジェクト運営の成功に向けて緊密に協力する」と発表した。

ソロモン諸島は2019年9月、36年間国交を維持してきた台湾と断交して中国と国交を結んだ。ほぼ同時期に、インフラ大手の中国中鉄は同国ゴールドリッジ金鉱山採掘プロジェクトの落札を発表。落札額は8億2500万ドルとされる。当時、中国外交部は「中国との外交樹立は(ソロモン諸島にとって)これまでにない発展のチャンス」と述べていた。

通信塔の融資 返済できない恐れ

ソロモン諸島財務省長官によれば、電波塔設置で得られる収入は融資と利息の返済に充てるのに十分だと説明しているが、会計事務所の世界大手KPMGは「見通しの誇張」だと否定的にみている。

豪ABCが報じたKPMGの試算によれば、この契約によってソロモン諸島はさらに1億ドルの財政的損失を新たに生み出すと指摘している。

ソロモン諸島も参加する、中国共産党主導の広域経済圏構想「一帯一路」は、国家の財政規模を超えた融資とインフラ建設を契約することで、債務超過状態に陥らせる。一部の政府は、国の資産を中国政府に明け渡さざるをえなくなったことから「債務の罠」と呼ばれる。

世界銀行の推計によると、フィジー、サモア、ソロモン諸島、トンガなどの太平洋諸国は、対外債務の約38%をアジア開発銀行に、22%を中国に負っており、脆弱な財政状態にある。

ロイター通信が南太平洋島国11か国の財務書類を分析したところ、2018年までの10年で中国の融資プログラムによる債務残高がほぼゼロの状態から13億ドル超に膨れ上がっていることが明らかになった。

中国は一帯一路を通じて途上国等と多数の融資契約を結び、影響力の拡大を図っている。中国が2021年、世界銀行を通じて開示した低所得国に対する融資実績によれば、2019年時点で融資残高は1085億ドルと、世界銀行の1157億ドルと肩を並べる水準に迫っている。

米中の綱引き続く太平洋諸国

太平洋島嶼国は太平洋戦争時に最前線に位置したが、現在は米中がそれぞれの戦略に取り込もうと綱引きが続いている。

中国とソロモン諸島は4月、安全保障協定を締結した。両国は詳細を明かしていないが、ロイター通信の報道によれば、ソロモン諸島は中国に警察や軍人の派遣を要請できるほか、中国の船舶がソロモン諸島に寄港して補給可能になるという。

さらに最近のABCの調査報道では、中国の国有企業が買収交渉を行なっているソロモン諸島の広大な土地には、深海港と滑走路が含まれていることが明らかになった。ソガバレ政権はABCの調査報道に「激怒」し、オーストラリア外交官を呼び出して「両国の関係を損なう恐れがある」と申し立てを行ったという。

4月、安全保障協定の締結を受けて、米国はキャンベル・インド太平洋調整官を派遣し、ソガバレ政権と福祉支援策を含めた意見交換を行った。この時、もし中国との協力が「米国や同盟国の利益に脅威を与えるならば、米国はソロモン諸島に対して特定の行動を取る」と警告したとされる。

5月、バイデン政権が立ち上げたインド太平洋経済枠組み(IPEF)には、太平洋諸島のフィジーの参加が発表され、地域への継続的な関与を示した。

8月初旬にもシャーマン米副国務長官はソロモン諸島やトンガ、サモア、オーストラリア、ニュージーランドを歴訪。7日は太平洋戦争の激戦「ガダルカナルの戦い」の慰霊祭に出席し、バイデン政権のインド太平洋地域を重視する政策を強調、米国の新大使館設置も発表した。しかし、この式典にソガバレ首相は欠席した。中国との関係を考慮したものとみられている。

このほか、オーストラリアのメディア「news.com.au」は8月23日、パプアニューギニアでは富豪が所有する21の小島を、中国が購入する可能性があると報じ、地域の安全保障問題を浮かび上がらせた。

日本の安全保障、外交、中国の浸透工作について執筆しています。共著書に『中国臓器移植の真実』(集広舎)。