孫子の兵法を悪用する中共 台湾侵攻は米国情勢次第か

2022/08/20
更新: 2022/08/20

中国外交部(外務省に相当)の華春瑩報道官は7日夜、台湾に中国料理店が多数存在することを根拠に、台湾に対する領有権を主張するツイートを行った。「味覚は嘘をつかない。台湾はずっと中国の一部だ。離れ離れになった子供はいずれ家に戻る」との言い分は失笑を買い、これを揶揄する投稿も見受けられた。

無論、このような主張に論理性や合理性はなく、真に受ける必要はない。しかし、論理性や合理性に欠ける考え方が、無数の命を奪うおぞましい結果をもたらす恐れがあることは心に留めておくべきだろう。

後に引けなくなった中共指導部

中国共産党の最高指導部はすでに後戻りができない状態に陥っている。2017年に開かれた中国共産党第19回全国代表大会(19大)では、国家主席の任期制限(2期10年)が撤廃された。習近平氏の圧力に屈したとの見方もあるが、これはあくまで一部分だろう。国家の中枢を担う数百人の高官たちを説得するには大きな野望を掲げる必要があり、習近平氏は次の10年で台湾問題にけりをつけることを約束したと思われる。

米軍や情報機関は、2027年に台湾海峡の緊張度がピークにさしかかると分析している。この年はちょうど、第19回党大会の10年目に当たる。

しかし中国の政権中枢は大きな問題を抱えている。習近平氏が2012年から始めた汚職撲滅運動(トラ・ハエ叩き)によって、党内の既得権益集団や特権階級が敵に回ったのだ。中国共産党中央規律検査委員会(中規委)の発表によると、共産党員全体のおよそ5%に相当する480万人超が処分されたほか、数々の高級官僚が失脚した。なかには、中央軍事委員会の幹部だった張陽氏のように、自殺する者もいた。張氏ほど高位の軍人の自殺は1949年以降類を見ないものだ。

中国の既得権益層は共産党や軍、政府機関などと強いコネクションを持ち、複雑に絡み合う利益関係を形成している。汚職撲滅運動で叩かれたトラたちは反習近平派として巨大な勢力を形成し、反撃する隙を狙っている。仮に習近平氏が任期を終えて権力の座から退けば、その家族や友人、部下などはたちどころに粛清の憂き目に遭うだろう。

習近平派の高官たちも、そのような結末は御免だ。そこで否応なしに習近平氏を続投させる必要が出てくる。三期目続投の言い分が台湾問題の解決であるなら、台湾問題において妥協は許されない。

「ペンは剣よりも強し」

人類の歴史上、国内政治が国外へと延長した結果、大きな戦争に繋がった例はいくつもある。

古代ギリシアの歴史学者トゥキディデスは、紀元前5世紀に起きたペロポネソス戦争は、陸の覇権を握っていたスパルタが海洋国家アテネの台頭を警戒したからだと分析している。既存の覇権国家が新しく台頭する国と摩擦を起こし、最終的に戦争へと発展するのは歴史の典型的なパターンであり、これは「トゥキディデスの罠」と呼ばれている。

現在の米中関係は似たような様相を呈している。中国共産党は、米国が中国の台頭を脅威とみなすがゆえに中国を押さえつけようとするのだと主張している。いっぽう、米国側からすれば、中国は第二次世界大戦後のアメリカの覇権の下で成長を遂げたにもかかわらず、今や既存の国際秩序を破壊しようとしているため、看過できない存在となっている。

一部の学者の間では、核兵器の出現とグローバル化によって覇権国家間の全面戦争が勃発する可能性がなくなったため、「トゥキディデスの罠」は現代の国際政治では成り立たないとする説が唱えられている。しかし、軍事的な争いがなくなっても、政治、経済、文化面での競争や摩擦は避けられない。

デービッド・スティルウェル元米国務次官補(東アジア・太平洋担当)はラジオ・フリー・アジアのインタビューを受けた際にこう語っている。「戦争について考える時、私の職業柄、爆弾や銃弾による殺し合いや破壊行動が浮かんでくる。しかし、我々はこのような考え方から脱却しなければならない。なぜなら、中国は戦争をこのように考えていないから」

「私たち一人ひとりがこのような考え方から脱却できなければ、中国の罠にハマるだけだ。彼らは私たちを絶え間なく攻撃しており、我々は敗北し続けている。破壊力が大きい攻撃手段は軍事以外にもある。そして私たちの社会、経済、平和と安定は日々破壊され続けている」。

スティルウェル氏のこの発言は非常に興味深い。ここ数年、ますます多くのアメリカ人エリートは、中国共産党の米国に対する戦争はすでに始まっていることに気付き始めている。現在の政策的な対応は、受動的な抵抗に過ぎないとの見方は、対中強硬派を中心に根強い。

中国共産党内にも原理主義的な左派とリアリズム的な現実主義者がいる。近年、中国国営メディアのプロバガンダは文化大革命の雰囲気を醸し出しているが、権力を掌握しているのは共産党内でも特に左寄りのグループであることを考えれば、あながち不思議なことではない。彼らの一部は文化大革命で痛い目に遭ったが、中国共産党の洗脳教育を受けているため、中国共産党のやり方に徹底的に染まっている。

敵対国の自壊を狙う中国共産党

毛沢東主義者たちの反米理論の核心は一つ。台頭した中国が米国帝国主義に勝利することである。かなり前に中国共産党が打ち出した「超限戦」も、米国を標的とするものだった。

孫子の兵法」では、「上兵は謀(ぼう)を伐(う)ち、其の次は交(こう)を伐ち、其の次は兵を伐ち、其の下は城を攻む」とある。中国にとって、戦争は謀略や同盟関係の破壊が先手であり、軍事行動はいわば最終手段だ。実際、中国は「上兵」を長らく使ってきたが、アメリカ人はここ2年でやっとこの事実に気づき始めたところだ。

米国も謀略と同盟関係構築を起点とする対応策に出ている。貿易戦争、ハイテク技術における中国とのデカップリング、日豪印韓との安全保障における連携、米上院が推し進める台湾関連法案などが該当する。これらの政策はトランプ政権からバイデン政権に受け継がれている。

台湾情勢をめぐっては、2027年の2~3年前には「兵を伐ち」、「城を攻む」段階に入る可能性がある。ただし実際には、政治・経済面の謀略や合従連衡の結果を見なければならない。中国共産党は過去20年間、一定の成果を獲得したものの、ここ数年で状況は変わりつつある。華春瑩氏の「中華料理店」論理は、まさに中国の絶望感を反映している。

このような状況下で、中国共産党が向こう見ずに台湾侵攻に走ることはないと見ている。中国共産党は確かに狂気的だが、軍事においては常に「現実的」だった。いわゆる毛沢東主義は「勝算のない戦いはしない」を原則としている。軍事シミュレーションで勝算を見込めない限り、中国軍は軽はずみな行動には出ないだろう。

1949年以降に中国共産党が参加した最大規模の戦争は朝鮮戦争だった。当時、毛沢東は内戦の勝利で有頂天になり、スターリン率いる旧ソ連の全面協力も相まって勝ちを確信していた。しかしそれは大きな誤算だった。その後の中印国境紛争や中越戦争では、中国軍は深入りせず、戦争の規模と激しさを一定程度に保っていた。中国軍は数ヶ月におよぶ作戦準備を行って電撃的な攻撃を仕掛けたものの、完全な勝利を掴めないことを悟るやいなや即座に撤退し、停戦協定を結んだ。

台湾侵攻でも同じ手口は使えるのだろうか。インドやベトナムに対しては、国内では「懲罰」を口実に戦争を仕掛けたが、台湾の場合は事情が異なる。中国共産党は台湾統一を中国の台頭及び民族存亡の危機と重ねているため、開戦すれば後戻りはできず、失敗は許されない。仮に失敗すれば国民からの非難、ひいては党内部での責任追求は避けられない。譲れない一線を重視する習近平思想のもとでは、そのような結末を迎えないためにも中国は慎重に慎重を期すに違いない。

中国共産党の軍事的挑発に対し米国が厳しい制裁を科した場合、中共指導部はコストを抑えるべく軍を撤退させるだろう。そして軍備を万全に整え、米国や西側諸国の内部で大きな情勢の変化が起こるのを見計らって行動を起こすと考えられる。

孫子の兵法には、「先ず勝つべからざるを為して、以て敵の勝つべきを待つ(意:まずは自軍が負けない状況をつくり出し、勝算が見込める機会をうかがう)」という言葉がある。長年台湾侵攻を狙ってきた中国共産党にとって、西側諸国の足並みが乱れること以上に絶好の機会はないだろう。したがって、台湾海峡の命運は、中国でも台湾でもなく、左右に分断された米国にかかっている。

(翻訳編集・王天雨、Wenliang Wang)

この記事で述べられている見解は著者の意見であり、必ずしも大紀元の見解を反映するものではありません。
石山
時事評論家。香港紙、経済専門誌のコラムニスト、米ラジオ・フリー・アジアの番組ホストを歴任。