近い将来、米国人はCO2排出量データを政府に収集されるのだろうか? 米国証券取引委員会(SEC)が提案した新規制は、そのための下地だと消費者団体は考えている。
SECは3月21日、「投資家向け気候関連ディスクロージャーの強化と標準化」とする新規制を提案した。約500ページにわたる新規制は、SECの登録者(上場企業、投資顧問会社、ブローカー・ディーラーなど)に対し、温室効果ガス(GHG)排出量を含む気候関連情報の報告を求めている。
GHG排出量は、3つのスコープに分類される。スコープ1は登録者の直接的なGHG排出量、スコープ2は購入電力やその他のエネルギーによる間接的なGHG排出量。そしてスコープ3は、バリューチェーンの上流および下流の活動による間接的な排出量を指す。
米国で最も歴史のある消費者団体、コンシューマーズ・リサーチのウィル・ヒルド事務局長は7月12日、大紀元姉妹メディアの新唐人テレビ(NTD)の番組「Fresh Look America」のインタビューで次のように語った。
「スコープ3では、企業は消費者が製品を使用した際の炭素排出量を推定する必要がある。企業は消費者調査をしなければならない。個人の活動をスコアリングするための下地づくりが始まろうとしている」
環境保護庁のGHGインベントリー・ガイダンスによれば、スコープ3には「購入した商品とサービス」、「販売した商品の使用」、「上流と下流での輸送と流通」、「従業員の通勤」など15のカテゴリーがある。
ヒルド氏は、こう続ける。「本来は何の関係もないはずのSECからこうした下地づくりのような規制案が出てきた。こうして企業に追跡調査させようとするとは恐ろしい展開だ」
信じられないほどの負担
ヒルド氏によれば、この規制には莫大なコストがかかることから株主利益を圧迫し、個人投資家に損害を与える可能性があると言う。
株式公開を目指す企業の多くもコストに怖気づき、ベンチャーキャピタルやヘッジファンドに資金を求めに行くかもしれない。それは、個人投資家にとっては投資機会を失うという別の弊害ももたらすと言う。
「より重要なことは、消費者が製品やサービスを購入する際のコストが劇的に増加することだ。これは企業に規制対応のコスト負担を強いるもので、販売する製品から排出されると推定されるCO2にペナルティを課そうとしているのだ」
「SECが上場企業に課す規制への負担が驚くほど増えている。SECがこれまで上場企業に課してきたディスクロージャーに関する規制をすべて合わせると、他のすべての規制への負担よりも大きくなる。そしてこの新規制案は、SECがこれまでに行った中で最大級のものだ」とヒルド氏は語った。
この新規制案によると、上場企業のサプライヤーが非上場企業であっても、すべてのCO2排出量関連情報の提供が義務づけられることになる。「SECは、管轄外であるはずの非上場企業に影響力を行使している。つまり、市場や投資家に影響を及ぼすSECが、私たち日常生活にまで手を伸ばそうとしているのだ」とコメントした。
両極端な意見
またヒルド氏の認識では、「急進的な左派がこの規制を推し進めた。ESGの指標とその目標を見てみると、民主党の進歩的な人たちが望んでいるものと完全に一致する」という。
先月終了した新規制案へのパブリックコメントには、相当数のコメントが提出された。SECはこれを今後数ヶ月かけて検討すると見られる。
環境保護団体や一部の政府機関、民主党の上院・下院議員、一部の民主党知事らは、この規制案を強く支持している。エリザベス・ウォーレン上院議員は、6月17日にSECのゲリー・ゲンスラー議長に宛てた連名の書簡で、「提案通り」採択するようSECに要請した。
いっぽう、数十人の共和党上院議員、100人以上の共和党下院議員、数十人の共和党知事が、この規制案に対して「重大な懸念」を表明し、即時撤回を求めた。
パット・トゥーミー上院議員の率いる共和党上院議員12名は、6月15日にゲンスラー議長宛ての書簡で、「この500ページ近い膨大な規制案は不必要かつ不適切で、SECの使命と専門性を超えている。エネルギー価格が高騰している今、消費者や労働者、米国経済全体に損害を与えるとともに、米国の気候政策を決定する民主的手続きを乗っ取っている」と指摘した。
6月30日の最高裁で、環境保護庁との裁判に勝訴したウエストバージニア州のパトリック・モリシー司法長官は、7月13日に23州の司法長官とともに追加コメントを送った。「今日の主要問題を決定する権限を持つのは、連邦政府ではなく議会であると裁判で確認された」。
そしてその弁護団は、「もし委員会が、不適切な同じ道を歩むと言うのであれば、私たちはもう一度行動を起こす用意がある。私たちは、SECが新規制案を放棄し、関係者の長年の苦悩を救うことを強く求めている」と述べている。
SECの委員もこの規制案に反対している。トランプ氏が任命し、現在SECに所属する唯一の共和党委員であるヘスター・ペアース氏は、3月にこの新規制案に反対票を投じ、声明を発表した。
「この提案が本当にやろうとしていることを正直に話そう。これはディスクロージャー規制という体裁をとってはいるが、この目的は、他の気候変動ディスクロージャーと同様、資本を有利な企業に誘導し、有利な政治的・社会的目標を推進することだ」とペアース氏は声明で述べた。なお、民主党の3人の委員は全員賛成票を投じた。
SECにコメントを求めているが、返答は得られていない。
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