核兵器不拡散条約NPTで米英豪「オーカス」を批判する中国 不透明な核開発の隠れ蓑

2022/08/03
更新: 2022/08/03

米ニューヨークでは1日から、核兵器不拡散条約(NPT)運用再検討会議が開かれれている。この時期に合わせて、中国は米英豪による3カ国戦略枠組み「AUKUS(オーカス)」の原子力潜水艦提供を「核兵器の拡大」だと訴え、国際社会を巻き込み、原潜計画にネガティブな印象をもたらすことを狙う。いっぽう、中国は不透明な核兵器開発と保有を続けている。

核兵器ではなく原子力

2日、中国代表団はNPT会議の演説で、オーカスや、インド太平洋地域における北大西洋条約機構(NATO)の核共有モデルの議論について批判した。NATO式核共有モデルは、7月に凶弾に倒れた安倍晋三元首相が、ロシアによるウクライナ侵攻を受けて発信していたアイデアでもある。

「米英豪間の原子力潜水艦協力は、NPTの趣旨及び目的に反して、深刻な核拡散リスクをもたらす」「国際社会は、不拡散分野における二重基準を拒否すべきだ」と中国代表団は訴えた。このほか、「NATOの核共有モデルをアジア太平洋地域で再現しようとする試みは、地域の戦略的安定を損ない、域内諸国によって断固として反対され、必要な場合には厳しい対抗措置に直面することになる」と米欧を牽制した。

米国は中国がNPT会議でオーカスに対する批判が上がることを事前に認知し、オーカスがNPT違反でないことを強調している。1日に登壇したブリンケン米国務長官は、オーストラリアが取得する潜水艦は「核兵器ではなく原子力である」と述べた。「他の国もこのタイプの潜水艦を保有している。NPTの下で最も高い安全基準と不拡散基準を順守している」と語った。

旧式のディーゼルエンジン型の潜水艦を所有するオーストラリアに対して、米英は20年以内に原子力潜水艦を同国に提供する予定。昨年9月の発足以来、中国はオーカスに激しく反発している。

中国外務省の趙立堅報道官は7月29日の定例記者会見で、「どんなに自分自身を正当化しようとしても、3カ国は彼らの協力が深刻な核拡散リスクを伴うという基本的な事実を変えることはできない」と述べた。

中国は原子力攻撃型潜水艦6隻を含む少なくとも60隻の潜水艦を保有しており、オーストラリアは老朽化したディーゼル潜水艦6隻を保有している。

国際世論向けストーリーを提供する中国シンクタンク

中国の2つのシンクタンク、中国軍備管理軍縮協会と中国原子力産業戦略研究所は7月20日、北京で記者会見を行い、「危険な陰謀:オーカス関連の原子力潜水艦協力の核拡散リスク」と題する報告書を発表した。会見で研究者らはオーカスに対して「二重基準をやめるよう、国際社会に呼びかける」とした。

「オーカスの原子力潜水艦は、NPTの重大な違反であり、核兵器国家から非核兵器国家への武器グレードの核材料の違法な移転の危険な先例となる。核拡散の露骨な行為だ」と報告書は批判する。

しかし、専門家は、この報告書とNPT会議を利用して、中国の都合に傾くよう国際世論に働きかける狙いがあると指摘する。

ローウィ研究所のリチャード・マクレガー氏は、前出の中国の2つのシンクタンクは独立組織ではなく「中国共産党体制下における一組織」に過ぎず、報告書も同党のオーカスに対する組織的な反対運動のひとつだと述べた。

豪メディアABCの取材に答えたマクレガー氏は、こうしたシンクタンクは中国共産党の国際的な政治運動にさらなる影響力をもたらすため「党の主張したい内容を世界中の国々に配布できる文書」を作成していると指摘。同氏は、同党によるオーカスに対する「妨害」は向こう10年は続くと予想した。

「目覚ましい」核兵器開発を公言

オーカスの原潜を批判する中国だが、その不透明な核兵器開発と保有については指摘されている。1日のNPT会議ではデンマークのイエッペ・コフォ外相は北欧諸国を代表して、「中国は軍拡を進めている」と指摘。「責任ある核保有国として、軍備管理のプロセスに積極的に関与するよう求める」と述べた。

岸田首相も1日の同会議で演説し、核弾頭保有数を公表しない中国を念頭に、核保有国に核戦力の透明化を促すなど日本の行動計画を表明した。

中国は6月、「目覚ましい」核兵器開発を公言している。魏鳳和国防相は12日、出席したアジア安全保障会議(シャングリラ対話)で、「中国は50年以上にわたり(核)開発を続けてきた。目覚ましい進歩があったと言ってよい」と強調した。あわせて自衛目的の使用と先制不使用も口にした。

そのいっぽうで、中国政府は公式に核兵器の保有数を公表していない。米国防総省は2021年の年次中国軍事力報告書で、中国は核弾頭を急拡大させ2027年には最大で700発、2030年までには少なくとも1000発の核弾頭を持つと推計した。

米シンクタンクの全米科学者連盟(FAS)の2021年の報告によれば、中国西部にはミサイルサイロが計300基確認でき、核兵器搭載可能な長距離ミサイルの配備が疑われている。FASは中国の核弾頭保有数を350発と推定している。

確かな歩み オーカス

原潜提供まで米英豪は確かなステップを踏んでいる。各国政府は31日、オーカスが7月25日から28日まで会議を開き、原子力潜水艦提供までの進捗を含め、議論したと発表した。

声明によれば「核物質、技術、施設の責任ある計画、運用、適用及び管理を含む最高水準の核管理を確保しつつ、通常兵器を搭載した原子力潜水艦を可能な限り早期にオーストラリアに提供するための最適な道筋をつける策定」に向け、議論を進展させるとした。

オーカスはこのほか、ハイパーソニックやサイバー分野における能力開発と軍事能力の強化を加速させることで一致した。

モリソン元首相は7月末に東京で開かれた国際フォーラムで、オーカスや日米豪印の戦略枠組み「QUAD(クワッド)」が、インド太平洋地域の安全保障を維持するための「鍵」として不可欠だと述べた。同氏は首相在任中も一貫して主張してきた中国共産党の脅威をあらためて警告し、地域同盟が「ルールに基づく秩序が勝る」ことを保証する唯一の方法であると語った。

日本の安全保障、外交、中国の浸透工作について執筆しています。共著書に『中国臓器移植の真実』(集広舎)。