ロシアのウクライナ侵攻により、中国政府の展望にひびが入った。ウクライナに侵攻したウラジーミル・プーチン露政権への非難表明を躊躇し、国内批判に関してロシアを擁護した中国は、野心的な「一帯一路」インフラ政策の下でこれまでに貿易・投資・技術関係を構築してきた多くの東欧諸国との不和要因を自ら醸造していると言わねばならない。
ウクライナはロシアと欧州他諸国を結ぶ鉄道、道路、発電事業全体において戦略的に重要な国と位置付けられる。中国共産党中央委員会総書記などを兼務する習近平(Xi Jinping)中国主席が推進する一帯一路戦略への参加を2017年に表明したウクライナでは、中国企業による港湾や鉄道の改良・整備工事が進められていた。
また、ウクライナ政府は2020年に安保上の懸念から米国が世界のネットワークからの締め出しを図っている中国の大手通信会社「ファーウェイ(Huawei Technologies Co. Ltd.)」との覚書に署名している。人口4,400万人を擁するウクライナは、スマートフォンメーカーのシャオミ(Xiaomi)などの企業にとって魅力的な市場であり、農産物の重要な供給国でもある。中国は2021年には自国のトウモロコシ輸入量全体の30%を占める容量をウクライナから輸入している。
ロシア連邦軍の護衛隊が首都キエフに迫る中、かつて中国の提案を受容した国がミサイルにより破壊されるのを中国政府は傍観するしかない。今回のウクライナ侵攻でロシアの行動を「侵攻」と呼ぶことを避けた中国の姿勢は、明らかに汎欧州の感情を刺激することになる。
2021年には「鉄のシルクロード」構想の下で建設された鉄道を走る貨物列車により、約7兆5,000億円(750億米ドル)相当の中国製品が欧州に輸送されたが、西側諸国とロシア政府の政策により民間企業の取引が困難になっていることでこの流れが停滞する可能性がある。
今回の侵攻により発生した別の弊害としては、米中間で独自の中立的立場を維持してきたポーランドと中国の関係が挙げられる。ポーランドは一帯一路政策における鉄道事業の中核地点であり、ファーウェイのポーランド法人も所在している。ロシア占領下では苦渋を舐め、今回の侵攻では大量のウクライナ避難民がポーランドに雪崩れ込む事態が発生したことで、プーチン政権を擁護する中国にはどうしても敵対心が芽生える。
かつてはソ連衛星国であったポーランドは現在、北大西洋条約機構(NATO)や欧州連合との連携が深化している。これにより同地域における中国政府の戦略がさらに弱体化する。
欧州連合(EU)に対する中国投資はすでに冷え込んでおり、10年連続で減少が続いていた欧州連合での合併・買収額は、2020年には8,100億円相当(65億ユーロ)にまで落ち込んだ。公にプーチン政権擁護とも取れる表明を行った中国政府は、現在その誤算により発生した弊害を克服して立場を保とうと躍起になっているが、中国が停戦仲介役としての任務を見事に果たさない限り、修復できないほどの外交的かつ商業的な損害を被ることになる。
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