2017年11月に中国北京で行われた米中会談で、中国共産党が世界経済覇権への野心をむき出しにした言動が、両国関係の決定的な決裂につながった、とトランプ政権の元高官は著書で明らかにした。
訪問後の2018年3月、トランプ政権は通商法301条に基づく対中制裁措置の発動を決定し、米中貿易戦争が勃発した。
トランプ氏の訪中に同行した元国家安全保障問題担当大統領補佐官のH・R・マクマスター氏は、著書『Battlegrounds: The Fight to Defend the Free World』(邦訳『戦場としての世界:自由世界を守るための闘い』日経BP 2021年8月)で、中国が思い描いている「中米友好協力」の構図では、米国が中国の引き立て役を務めることになっているようだ、と述べている。
北京で行われた最後の会談で、中国の李克強首相が長丁場のスピーチを行った。このスピーチは米国代表団が中国の意図を十分に理解することに役立った、と同書は書いている。
李首相はスピーチで、産業と技術の基盤がすでに出来上がった中国は、もはや米国を必要としなくなったと自国の実力を強調し、中国の不公正な貿易・経済慣行に対する米国の懸念は根拠のないものだと一蹴した。今後、米国の役割は中国に原材料や農産物、エネルギーを提供し、中国のハイテク産業や消費財生産を支えることだとまくし立てた。
トランプ氏はスピーチをずっと静かに聞いていたが、最後に李氏の言葉を遮り、礼を述べ会場を後にした。
李首相のスピーチは、中国共産党が「韜光養晦(実力を隠し好機を待つ)」という鄧小平時代以来の外交方針から完全に逸脱していることを示した、と同書は指摘した。
2008年の金融危機で欧米経済が大打撃を受けた後、中国共産党の指導者は自国の経済・金融モデルに自信を持つようになり、インド太平洋地域を含む世界各地で国力を誇示し始め、自国の計画経済モデルを積極的に推進するようになった。
マクマスター氏は、中国は今回の米中会談の結果に失望しているだろうと指摘した。 米国とその同盟国は、中国共産党の攻撃的な外交・経済政策に対抗するため、対中政策の抜本的な見直しに着手した。
米国とその同盟国は、中国と良好な関係を築くことで、中国が国際社会の責任ある一員になることを期待していた。だが、脅迫、誘惑、隠蔽などの中国共産党の振る舞いは、世界に目を覚まさせたのだという。
米国家安全保障会議が2017年8月、通商法301条に基づき、中国の技術移転策や知的財産権の侵害などについて調査を開始した。同書によると、この時点で米政権はすでに中国共産党が社会統制に執着し、米国の利益を損ない、経済覇権を得るためなら手段を選ばないことを認識していた。 北京の旅でこの認識は確信に変わったという。
北京を離れる前、トランプ氏は記者会見で中国共産党の不公正な貿易・経済慣行について再び言及した後、習氏に向かって「我々は中国を責めているのではなく、我々自身を責めているのだ」と述べたという。トランプ氏が言いたかったのは、米国とその同盟国はもはや中国共産党の悪行を傍観することはない、ということだ。
近年、中国当局は、いわゆる「東昇西降(東洋の中国が隆盛し、欧米が衰退する)」という言葉に繰り返し言及している。
昨年7月1日、米ワシントンのシンクタンク、戦略国際問題研究所(CSIS)は、「北京の米国衰退論はいかに戦略的過信につながるか」と題する報告書でこう指摘した。
「2008年の金融危機以降、『米国の世界的なパワーと影響力は低下し、西側は衰退している』という北京の評価は、中国共産党に錯覚を与え、戦略的誤算を招いた」
(翻訳編集・王君宜)
ご利用上の不明点は ヘルプセンター にお問い合わせください。