仏国防省傘下の軍事学校戦略研究所(IRSEM)が9月20日に発表した報告書は、中国共産党政権は資金提供、利益供与、浸透工作などの手段で海外の中国語メディアを支配下に収めた、と指摘した。
「中国(共産党)の影響力作戦」と題する同報告書は646ページに及ぶ。50人超の専門家が2年間にわたって調査研究を行った。
1980年代後半、海外の中国語メディアは多角的な視点から紙面づくりし、当局に批判的な記事を掲載することが可能だった。 当時、中国系移民は主に台湾と香港の出身で、1989年の天安門事件後、反中共の大陸出身者が増えた。
1990年代からの移民ブームは、各国の中国系移民の構造を変えた。中国共産党(以下、中共)は、華人が多く滞在する国で中国語メディアに統制をかけ始めた。利益供与、籠絡、現地の中国人コミュニティとの結託などの手段で、中国語メディア市場をほぼ支配するようになった。
豪州中国語メディアをWeChat などで手懐ける
2016年7月、シドニーのサンヘラルド紙、メルボルンの「ザ・エイジ」紙は、親中共の中国語メディアの元編集者の証言として、「オーストラリアの中国語新聞の95%近くが程度こそ違うが、中国共産党に買収されている」と報じた。
豪州の中国語メディアを手懐ける主なやり方は、直接投資ではない。調査対象となった24社のうち、環球凱歌國際傳媒有限公司(Global CAMG Media)のみ、中国官製メディア「中国国際放送(CRI)」がその60%の株式を保有している。ほかの2社、太平洋傳媒集團、南海文化傳媒は中共と間接的なビジネス関係にある。2社のオーナーはオーストラリア人で、中共中央統一戦線部傘下の国営企業と合弁事業を展開している。
海外の中国語メディアを支配する主要なツールの1つはソーシャルメディアWeChatだ。
オーストラリアでは、WeChatユーザーは70万~300万人とみられ、中国語ニュースを広める最も主要な媒体となっている。 WeChatには、「微信」と「WeChat」の2 つの「姉妹アプリ」がある。同社の説明では、微信は中国国内ユーザー向けで、国内法に基づいて厳しい検閲を行っており、WeChatは外国ユーザー向けで、検閲を行うが、国内ほど厳しくない。
WeChatのメディア公式アカウントは、毎月最大32本の記事しか公開できない。微信にはその制限がない。豪州の中国語メディアは多くの記事を発信するため、微信の公式アカウントを登録し、中共の検閲を進んで受け入れている。
中共による検閲のレッドラインがはっきりしないことから、中国語メディアは、アカウントの強制閉鎖を回避するため、自己検閲に走っている。 2020年、豪州で微信アカウントのアクセス数上位に入った中国語メディアの編集長は、「誤って」レッドラインを越えないように、(中共機関紙の)人民日報と(国営通信社の)新華社の方向に準じることにしたという「経験談」を述べた。
WeChatを使わない他の中国語メディアも、中共批判を避けるために自己検閲を行っている。新疆、チベット、法輪功、台湾、海外の民主化運動といった中共がタブー視するテーマを取り上げないようにしている。
前述の方法のほか、中共は◆経済的利益(中国での投資など)◆統戦(調査対象となった24社のメディアのうち、12社の幹部が中共の統戦組織に加入した)◆スポンサーへの圧力などの手段を駆使している。
「飴と鞭」で北米とヨーロッパを陥落させた
アメリカでは、中国語メディア市場は、中国報(China Press)、米国中文テレビ(Sino Vision)にほぼ独占されている。両社とも設立当初から、中共が秘密裏に支配しており、中国国営メディアのコンテンツをそのまま放送している。
カナダでは、大紀元時報、新唐人テレビ(NTDTV)以外の中国語メディアは、ほぼ完全に中共に統制されている。大紀元と新唐人は、中共からの妨害を受けるほか、カナダ当局も時々、中共とのトラブルを避けるため、2社の取材活動を制限している。例えば、2005年、当時の胡錦濤・中国国家主席がオタワを訪問した際、大紀元時報と新唐人は関連行事から締め出された。2010年、胡錦濤氏の2回目の訪問時も、同様の扱いだった。
中国語メディアを思い通りに従わせるために、中共は「アメとムチ」の手法を常用している。アメは、利益を与え自己検閲を奨励すること。ムチは、「反抗的」なジャーナリストを解雇したり、中国の親族を脅迫、嫌がらせしたり、中共にとって不都合な番組を放送中止に追い込むなど。
中共はまた、海外の中国語メディアの記者に現地または中国で集中トレーニングを受けさせている。 例えば、2014年、カナダのバンクーバーに本拠を置く中共の統戦組織「国際新媒体合作組織」は、北米の親中派中国語メディアの関係者を一堂に集めた。
ヨーロッパでは、中国系移民が少ない国に対しても中共は手を緩めなかった。ヨーロッパには、ドイツ、フランス、イギリス、イタリア、スペインを中心に約100社の中国語メディアがある。
ドイツの中国語メディアのほとんどはフランクフルトに本社を構えている。その多くは中共に従順的で、中共と親密関係にある。フランスのパリでは、1983年に駐仏中国大使館の支援を受けて設立された「欧州時報(Nouvelles d’Europe)」は、中国語、フランス語、英語、ドイツ語の4カ国語で発行され、ヨーロッパの中国語メディアの親分的存在で、多くの行事を仕切ってきた。
対中依存で、台湾メディアは自己検閲に走る
中共は欧米諸国で絶え間ない統戦を繰り広げているが、台湾メディアにも手を緩めていない。
2000年以降、台湾は中国に対する経済的依存が徐々に強まった。2005年、中国が米国と日本に代わって、台湾最大の貿易相手国になった。2010年に「海峡両岸経済協力枠組協定(ECFA)」が締結されてから、台湾の対中経済依存度はより深化した。
経済のほか、様々な分野での交流も広がっている。多くの台湾メディアは巨大な大陸市場に魅力を感じ、中共の言いなりになった。自己検閲は一つの表れだ。
中国国務院台湾事務弁公室は、「聯合報(UDN)」、中時電子報(現「中時新聞網」)など少数の台湾メディアに対して、大陸で印刷、発行することを許可した。しかし、台湾国立政治大学国家発展研究所の黄兆年(こう ちょうねん)助教授は、発行の範囲は台湾企業、外資系企業、5つ星ホテル、台湾関連研究拠点など特定の組織や個人と指定されており、一部の地域に限定されていると指摘した。
一方、中共は、法輪功関連番組の放送停止を条件に、台湾テレビに北京を含む複数の都市に事務所を開設することを許可した。それにより、中国市場への参入を望むほかの台湾メディアも、法輪功関連の報道や番組の制作を相次ぎ中止した。中共はこのやり方で、台湾メディアの自己検閲を誘導した。
独立派のメディア、国家のアイデンティティを強く主張するメディアも、ビジネス上の理由から中共に協力している。
例えば、台湾民進党寄りで、反中の姿勢を明確にしていた三立新聞台(SET TV)は2008年以降、会長が本土でのビジネス展開に意欲を見せてから、同テレビ局は自己検閲に傾いた。 データ分析の結果、「六四天安門事件」に関する同テレビ局の報道が2010年以来減少傾向にあった。また中共は、反中色の強い人気トーク番組「大話新聞」の放送中止を求めた。
中共の要求は次々と受け入れられた。同番組では、中共を刺激するトピックが消えた(六四天安門事件、ダライ・ラマ、ウイグル人権活動家ラビア・カーディル氏など)。その後、アムネスティ・インターナショナルの台湾支部長や親チベット活動家など、中共を批判するゲストの出演が禁止された。最後、2012年5月、「大話新聞」番組自体が放送打ち切りになった。
2018年に台北で発足したネットメディア「大師鏈」は、大陸で事務所を設立するだけでなく、本土で放送権を与えられ、中共に認められた最初の台湾メディアとなった。元台湾国家安全保障局長の楊国強(やん こっきょう)氏、元台湾軍情局長官の張勘平(ちょう かんへい)氏らVIPは、同メディアに勤務している。
台湾政府は、中共の浸透に対抗するため、2019年末から「反浸透法」を施行した。「大師鏈」は、2020年1月1日から「台湾市場から一時撤退する」と強く反発した。
(翻訳編集・叶子)
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