ミャンマー軍の背後に見え隠れする「赤い影」 日米は対応迫られる

2021/02/10
更新: 2021/02/10

2月1日、ミャンマー軍はクーデターで政権を転覆させ、権力を掌握した。事件の全容はいまだ明らかになっていないが、時事評論家の陳破空氏は、ミャンマー軍総司令官と中国外相の会談の内容から、中国の関与を疑う。アジア新興国のクーデターは、人事配置からアジア関与を継続させる米バイデン政権にとって大きな試練となる。同時に、密接な商業的関係と手厚い支援を行う日本も、難しいかじ取りを迫られている。

クーデターの背後に中国共産党の影

ミャンマーのクーデターの後、多くの欧米諸国は声明を発表し、ミャンマー軍を非難した。そして拘束されている政治家を釈放し、民主政を復活するよう求めた。

いっぽう、中国の態度はあいまいだ。中国外務省の報道官は、「中国はミャンマーと友好関係を結ぶ隣国だ。我々は、ミャンマー人が憲法と法律の枠組みのもと紛糾を処理し、政治と社会の安定を維持することを期待する」と話した。

陳破空氏によれば、中国共産党はミャンマー軍を後押ししていたと指摘する。1月中旬、中国の王毅外相はミャンマーを訪問し、文民であるアウンサンスーチー氏やウィンミン氏と会談したほか、ミャンマー軍のミン・アウン・フライン総司令官と会談した。

ミン・アウン・フライン総司令官は王毅外相に対し、ミャンマーの総選挙には不正があり、アウンサンスーチー氏率いる国民民主連盟(NLD)が獲得した圧倒的勝利は認められないと話した。

いっぽう、王毅外相は次のように述べた。「中国は、ミャンマー軍が民族の振興に尽力し、長期的な目線で国家の発展について考え、中国とミャンマーの長きにわたる友好関係を維持し、促進していることを称賛する」「ミャンマー側が自国の実情に合った発展路線を探索することを支持する。ミャンマー軍が国家の発展のなかで、しかるべき役割を果たし、積極的に貢献することを支持する」

王毅外相のこの発言は、ミャンマー軍のクーデターに対する黙認であり、扇動ともとれると陳破空氏は分析する。王毅外相がミャンマーを離れた2週間後、ミン・アウン・フライン総司令官はクーデターを実行した。

対応に追われる米国と日本

米軍は2月に入り、中東に配備されていたニミッツ空母打撃群をインド太平洋地域に向かわせた。日本の横須賀港のロナルド・レーガン号空母と南シナ海で航行中のセオドア・ルーズベルト号空母と合わせて、米軍は中国周辺で3隻の空母を運用することとなる。

米中両国がミャンマー問題で対立することがあるのだろうか。陳破空氏は米国が取れる三つの選択肢を挙げた。一つ目は制裁だが、米国世論は否定的な態度をとっている。長きにわたり制裁を受けてきたミャンマーに、更なる制裁を課しても効果が薄いのではないかという考え方だ。二つ目は無視することだ。しかし、無視はクーデターを黙認し、5500万人の国民を擁するアジアの新興民主主義国家の滅亡を座視することになる。

三つ目は軍事行動だ。米軍がミャンマー軍を撃破するのは難しくないし、民主化を望むミャンマー国民も最大限の支持と歓迎をするだろう。しかし、ミャンマーの背後には中国共産党政権が控えており、牙をむき出しにして、一戦を交えようと準備している。「米国がどのような選択を取るにせよ、誕生したばかりのバイデン政権にとって、大きな試練であることには違いない」と陳破空氏は分析している。

1月、バイデン政権は、国家安全保障会議(NSC)にアジア政策を統括する「インド太平洋調整官」を新設し、知日派外交官のカート・キャンベル元国務次官補をこの重要ポストに迎えた。戦略国際問題研究所アジア担当上級副所長マイケル・グリーン氏は、ニューズウィークへの寄稿文で、「早くから中国の覇権拡大を警戒してきたキャンベル氏を迎えることで、新政権はアジアに関心がないという懸念は消えた」と書き、アジア関与を維持するとの分析を示した。

ミャンマーのクーデターに日本も苦慮している。政府は途上国に対する支援を減らしているものの、対ミャンマー支援は一貫して高い水準を維持しており、年間1500億円以上を提供している。さらに、中国共産党の脅威に対抗するため、インド太平洋地域諸国からなる地域安全保障の枠組みを強化している。このような流れのなか、ミャンマーが親中国になるのを避けたいのが日本政府の本音だろう。

米シンクタンク戦略国際問題研究所のシニアアドバイザー、エドワード・ルトワック氏は、自身のツイッターで次のようにつぶやいている。「もし、アメリカがミャンマーを見捨てれば、中国のものになるだろう。しかし、日本は、ミャンマーと独特で強固な歴史的結びつきがあるので、ミャンマーの統治者たちを中国からできる限り遠ざけることができるし、そうすべきだ」と日本に対する期待感を示した。

日本企業も対応に追われている。近年、新天地を求めて多くの日本企業がミャンマーに進出しているが、クーデターにともなう抗議デモなどで、操業中止を余儀なくされている。さらに、ミャンマー軍関連企業と連携している日本企業は、関係解消に動いている。軍と取引関係のある会社と合弁事業を営むキリンホールディングスは5日、「今回の事態は、当社のビジネス規範や人権方針に根底から反するもの」だとして、合弁事業からの撤退を発表した。

(翻訳編集・王文亮)