香港国家安全維持法(以下、国安法)が可決、施行したのを受け、在日香港人が組織した団体は7月1日、記者会見を開いた。自民党の中谷元衆院議員、無所属の山尾志桜里衆院議員、自民党の山田宏参院議員らも出席し、国際的連帯の必要性を訴えた。
会見を主催したのは日本にある香港民主派組織「香港の夜明け」。メンバーは「香港人に何も知らされないまま、香港の自由が中国共産党により奪われた」と述べ、失望感をあらわにした。国安法は、香港政府が現地時間の6月30日午後11時に施行を発表するまで、その内容が明らかにされなかった。メンバーらは、中央政府および香港政府の暴力的な行動から、命を守る行動のために「香港衆志(デモシスト)」などの政治団体は解散を余儀なくされたと述べた。
香港政府により公表された国安法の総則によれば、「国家分裂罪や国家転覆罪、テロ活動の組織化、国家の安全を脅かすための外国勢力との共謀を防止、抑制、処罰する」とある。さらに、これらの法律に違反した者は、「香港市民や中国人、外国籍であることに関わらず処罰する」という。同法が違法とする定義はあいまいで、中国共産党の都合次第で、香港にいる外国人を逮捕することが可能になった。
「香港の夜明け」メンバーは、この国安法を悪法と批判し、「私たちがもし香港に戻れば、日本という外国勢力と共謀したとして、中国本土の法執行機関に逮捕されかねない」と危機感を口にした。
国安法第33条には、犯罪に関わった者が他の共謀者の情報を通告すれば刑罰が軽減もしくは免除されると記されている。これについて、メンバーは「香港市民の間で裏切りや猜疑心を蔓延させようとすることが狙いだ。これは中国共産党が香港に仕掛けた白色テロだといえる」と述べた。
メンバーらは、今後、香港の民主主義が失われたことで、多くの香港人が民主主義制度を持つ日本に移住することを検討していると説明。日本政府に、移住条件の緩和や事務手続きの簡素化を求めた。
香港の今後について、独立、中国への編入、他国の保護下に入るなど、さまざまな道があると述べたうえで「何よりも重要なのは、香港人が自らの手で未来を決めることができ、その決定を尊重する国際社会の存在が必要だ」と語った。
国会議員らが会見に参加
会見には自民党の中谷元衆院議員、無所属の山尾志桜里衆院議員、自民党の山田宏参院議員が参加し、それぞれ意見を述べた。中谷議員は「世界平和を基調とする香港の人々の人権、自由、尊厳を守るために、中国の強権的な法施行には、激しく抗議し、是正を求める」と述べた。同議員によれば、香港には現在、日本企業が1413社、在留邦人が約2万5000人いる。また、日本の農産物の輸出額は香港がトップで、香港からの訪日客も年間およそ230万人だという。
山田宏議員は、香港での事情は「日本やアジアの将来に関わっている」と語気を強めた。今回の国安法は、香港政府の法律として、中国語版しか発表されず、英語版が出なかった初めての例だという。法制定において香港議会および香港政府のプロセスを全く通過しておらず、一国二制度の形骸化があらわになった。山田議員は、「法治から中国共産党の支配に変わったということだ」と述べた。
また、日本人でも、国安法に違反すれば、中国本土や香港で逮捕される可能性があり、「日本人の表現の自由の危機をもたらしている」と述べた。
2議員によると、中国の香港国安法成立に対して、国会決議を検討する作業を進めている。
山尾議員は、法施行後、香港人が「香港独立の旗を所持していた」という理由だけで逮捕されたとの報道を引用して、喫緊の課題であることを強調した。「国家が自国民を弾圧している以上、内政干渉に値しない。国際社会が声を上げることが責務であり、臆するべきではない人権問題だ」と訴えた。
山尾議員は6月30日に公開された、北米や欧州、アジア、日本の議員らによる85組織の「香港の自由および自治を守るための国際声明」を紹介。マグニツキー法に基づく対中制裁、そして人権侵害に関与した中国および香港の当局者らに対して罰則を科すことを政府に求めていくとした。
山尾議員と中谷議員は、15カ国と欧州連合(EU)による国際議員連盟「IPAC(対中政策に関する列国議会連盟)」の日本代表でもある。山尾議員は、国安法の成立を受けて、IPACも声明を出していることを紹介した。これは、各国が対中政策を再調整する、迫害の危機にある香港市民を保護する措置をとる、国連事務総長に対して香港監視のための特使を指名することを要旨としている。
7月1日、国安法に反対するデモが香港で行われ、香港警察はデモ参加者ら370人ほどを逮捕した。高圧放水車が投入され、市民やジャーナリストたちが近距離で放水を受けた。
ボリス・ジョンソン英首相は同日、英議会で、英政府は英国海外市民(BNO)旅券保有者300万人に対して英国の滞在条件を緩和する方針を示した。5年間の就労やその他の永住資格申請を可能にするという。
米ホワイトハウスは6月30日付の声明で、国安法の成立を受けて「米国は香港の自由と自治に対する抑圧への強力な対抗措置をとり続ける」と警告した。制裁を含めた追加措置を辞さない姿勢を示すとともに、同法の撤回を要求した。
台湾の蔡英文政権は1日、香港を離れる人々を支援するための事務所「台港服務交流弁公室」を台北市に開設した。対中政策を担う大陸委員会の陳明通主任委員は開設に合わせて開かれた会見で、「香港の民主主義と自由をさらに支援するための重要なマイルストーン」と例えた。また、香港国安法第29条と第38条を引用して、同法が香港市民のみならず世界各国すべての人々に適応されるため、多くの人々が脅威にさらされることに注意するよう促した。
(取材・張本真/編集・佐渡道世)