黒い服に黒いマスク、店舗への破壊や略奪、警察車両への放火…米ミネソタ州ミネアポリスで警察に拘束された黒人男性が死亡した事件で、全米に広がる暴動が起きた。暴動のエスカレートに極左暴力集団「アンティファ(Antifa)」の扇動が取りざたされ、同組織が再び注目を集めている。
アンティファ(Antifa)は反ファシスト(アンチ・ファシスト)の略称で、指導者や本部はなく、同じ理念でひそかに集まる人々による実体がない組織である。賛同者たちは緩やかなネットワークでつながっているため、参加人数を確認することは難しい。
メンバーの多くは社会主義者や無政府主義者、共産主義者または反資本主義者だと自称している。イタリアとスペインのアンティファは共産主義を掲げている。
アンティファは欧米、特にアメリカを中心に活動している。アメリカでは複数の州のメンバーらが定期的に会合を開いている。参加者は若者が圧倒的に多く、街頭闘争に非常に熱心であり、異なるイデオロギーに対して暴力を振るう傾向がある。
アンティファを他の抗議者と区別することは容易ではないが、多くの参加者は全身黒ずくめの衣服をまとっていることから、「ブラック・ブロック(黒い塊)」と呼ばれている。警察や攻撃対象には自らの身分を明かさないため、マスクやヘルメットで顔を隠したりもしている。
アンティファの起源:旧ソ連の反ファシズム統一戦線
この組織はもともと、ソビエト連邦がドイツで共産党政権を実現するための統一戦線作戦の一環であり、すべてのライバル政党や組織には「ファシズム」というレッテルを貼ろうとしていた。統一戦線政策は、共産主義革命を扇動するために左派の諸勢力を結集させることだった。
1920年代から、ソビエト連邦では、ドイツ共産党を含むコミンテルンとその系列政党は、資本主義社会全体および事実上の反ソビエト、反共産主義の活動や見解を表すには、「ファシズム」という代名詞を使用していた。
ドイツ共産党は1932年5月26日、機関紙「Die Rote Fahne(赤旗)」で「反ファシスト運動(アンティファ)」の結成を正式に発表した。同運動を「唯一の反ファシスト政党—ドイツ共産党の指導下にある赤い統一戦線」と表現した。
ドイツ最大のアンティファ団体だった「オートノーム・アンティファ(Autonome Antifa)」の元メンバー、ベルント・ランガー(Bernd Langer)氏が執筆したドイツ語の回想録『80年の反ファシズム運動』によると、アンティファは1921年6−7月のコミンテルン第3回大会で採択された統一戦線政策にまでさかのぼることができる。
ランガー氏は本のなかで、「反ファシズムは一つのイデオロギーではなく、一つの戦術である」と定義し、ドイツ共産党が統一戦線政策のもと、反資本主義を「反ファシズム」として対抗していた。そして、このレトリックを使って、他のすべての敵対政党にも「ファシズム」というレッテルをつけたと述べた。
この本は2012年、反ファシスト文化振興協会によって出版された。「オートノーム・アンティファ」は2004年に解散した。
ドイツの情報機関、連邦憲法保衛局(BfV)は2016年の年次報告書で、極左暴力集団アンティファが掲げている「ファシズム」というレッテルは通常、本当のファシズムを指しているのではなく、単に「資本主義」を意味していると述べた。彼らは「反ファシズム」を掲げて他の団体への攻撃を仕掛け、実際の行動で「資本主義と戦う」ことを示しているという。
アンティファの元メンバーは6月1日、米FOXニュースの番組で、「反ファシスト」という実体の伴わない名称が大衆をミスリードするものであり、実際は「極左のアジェンダに合わないものは何でもファシズムとみなす」と言い、彼らは「反ファシズム」の名の下に、失敗した左翼イデオロギーのために戦っているに過ぎないと語った。
矛先が保守派とトランプ大統領に
1970年代後半にアメリカで勃興したアンティファ運動。当初は白人至上主義や人種差別に反対していたが、近年はその矛先が保守派やトランプ大統領の支持者に向いている。
トランプ政権発足以来、アメリカは左寄りの政策にブレーキをかけるため、左翼運動が勢いを増した。トランプ大統領の就任式があった2017年1月20日、黒い服とマスクを着用したアンティファをはじめとする大勢の集団が首都ワシントンで抗議を行った。デモ隊の一部が放火や破壊行為などの暴動にエスカレートし、複数の警察官が負傷し、200人以上が逮捕された。
トランプ氏の再選を阻止することが左翼の目的である。今年1月にSNSの検閲や偏向性を監視するNGO団体「プロジェクト・ベリタス(Project Veritas)」が公開した映像では、左派バーニー・サンダース上院議員の陣営のフィールド・オーガナイザー(現地選挙スタッフのまとめ役)が、トランプ大統領が再選を果たすとすれば、国中に深刻な街頭暴動が広がるとひそかに断言した。今や、こうした街頭暴動が予定より早く訪れた。
アンティファの後ろ盾
アンティファのメンバーは逮捕後、なぜすぐに保釈され、弁護士の無償援助を受け、法の裁きを逃れられたのか?それは「全米法律家ギルド(NLG)」の力強いサポートによって実現している。NLGがアンティファの非公式な「法務部」 として、逮捕者に無償で法律支援を提供している。
2019年6月29日、オレゴン州ポートランドの街頭で、アンティファを数回にわたり報道したベトナム系ジャーナリスト、アンディ・ノー(Andy Ngo)氏が同集団に襲われた。メンバー15人が同氏を激しく殴打したが、結局そのうちの2人だけが有罪判決を受けた。
アンティファは暴力行為を扇動し、実行しているが、いつもNLGの庇護のもとで法の裁きから逃れることができる。NLG弁護士の連絡先や電話相談窓口が、アンティファのウェブサイトやソーシャルメディアに掲載されているケースが多い。
1937年に設立されたNLGは、全米150以上の支部に所属する約6千人の左翼弁護士で構成されている。自らをアメリカ左翼の「必要不可欠な法律の片腕」と自称し、会員数41万人を超える米国法曹協会(ABA)の保守的な動きに対抗している。
フォード財団や米投資家のジョージ・ソロス氏など左派リベラル系の財団が後援するNLGは、アンティファ運動を支援するための訴訟や広報活動を積極的に引き受けている。
ソロス氏は1997年のアジア金融危機をはじめ、世界金融市場を大きく撹乱した。2017年9月、ホワイトハウスの陳情サイト「WE the PEOPLE」では、「ソロス氏を国内テロリスト(domestic terrorist)と認定するよう」求める請願書に、10万人以上が署名した。
請願書によると、ジョージ・ソロス氏は意図的かつ継続的に反政府的暴力行為を扇動し、米国を不安定化させている。米国のシステムと憲法の崩壊を唯一の目的とした数十(おそらく数百)のならず者団体を作り、資金援助しているという。
一方、NLGはアメリカ共産党と密接な関係を持っていたのである。左翼思想を掲げる個人や団体資料の検索サイト「Discover the Networks (DtN )」によると、1940~50年代には NLGのメンバーは、ソ連のスパイ容疑で逮捕されたローゼンバーグ(Julius and Ethel Rosenberg)夫妻やアルジャー・ヒス(Alger Hiss)、ジュディス・コップロン(Judith Coplon)など共産主義者の弁護人を務めた。
下院非米活動委員会(HUAC)は1950年、NLGについて「共産党の法律的防壁」と題した報告書を発表し、NLGは「共産党の付属組織としての実際の目的を隠し、効率的な奉仕組織として機能している専門団体のような善意を装っている」と指摘した。
1970年代以来、NLGは、ほかの左翼団体と同様に、人種差別への抗議運動に関わり、ブラックパンサー党やアメリカインディアン運動、プエルトリコ独立党の強力な後ろ盾として機能していた。そのうち、1960年代後半から1970年代にかけて活躍したブラックパンサー党は、毛沢東思想などの共産主義の影響を受けた黒人極左組織として知られている。
また、NLGは、警察官を定期的に起訴する、いわゆる「法律監視員(リーガル・オブザーバー)」運動を主導している。何百人ものNLGボランティアがアンティファの抗議活動中に警察を監視し、逮捕者を弁護するための証拠を集めている。しかし、保守派がアンティファのメンバーに殴られたり、権利を侵害されたりした場合、NLGの監視員は常に見て見ぬふりをしていることが指摘されている。
(翻訳編集・王君宜)
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