中国国有ファンドは、米国新興企業に2億ドル(約220億円)を投資して、ボーイング社に新たな衛星を建造するよう委託した。中国が米国の企業を経由して、衛星を含む米国の軍事機密技術を入手している可能性がある。
米ウォールストリート・ジャーナル(WSJ)12月4日付の記事は、その手法を報じた。ロサンゼルス拠点の新興企業グローバルIP社は2015年から中国国有金融ファンドである中国東方資産管理(COAMC)から融資を受けて、ボーイング社に衛星の建造を委託した。衛星の完成は間近だった。
しかし、米国人の創業者2人は中国側の威圧的な取引姿勢により退社を余儀なくされた。東方資産管理の子会社・東引開発がグローバルIPの衛星建造を引き継いだ。2人は、米国が禁止する技術輸出規制に違反するものとして、米国カリフォルニア州の裁判所で中国企業を告訴した。
WSJの報道を受けて、ボーイングは6日、グローバルIPに新型衛星を供給する注文をキャンセルした。支払い不履行を理由に挙げた。
資金をあたえ米企業に依頼 米国衛星を狙う中国国有ファンド
グローバルIP社は2008年にEmil Youssefzadeh氏とUmar Javed氏が創業した。衛星建設計画は、アフリカでのインターネットの環境向上を目的としている。
グローバルIP社は、衛星プロジェクトのために5億ドル(約560億円)の融資を必要としていた。Javed氏は2015年、計画に関心を示した東方資産管理の耿志遠社長をふくむ政府高官の複数人と、北京の紫禁城で面会した。
耿社長の父親・耿〇(風へんに炎)は70年代に中国国務院副総理を務め、習近平・現主席は当時秘書を務めた。習主席と耿志遠社長は長年の交流がある。
東方資産管理は中国人民解放軍の資産も管理している。耿社長はJaved氏の支援に乗り出し、グローバルIP社は2016年にボーイング社に衛星の製造を依頼した。
中国共産党政府が製造大国を掲げ先進技術発展に取り組む国策「中国製造2025」には、1つの重要分野に通信衛星や宇宙開発の強化が記されている。中国政府の公開資料によると2017年10月から2018年3月までに、中国は19回のロケット打上げで自国の衛星40機を宇宙に放った。
米国の衛星技術に関する法律には、中国による投資や大型な企業株式取得は規制されている。このため、東方資産管理はグローバルIP社へ、英領バージン諸島や香港企業など複数のペーパーカンパニーを介して送金した。
米国の軍事技術を担うボーイング社には、衛星技術の外国輸出を禁止する企業規定がある。しかし同社は、グローバルIP社が中国政府ファンドからの支援があると申し出ていたにもかかわらず、衛星の建設を受託した。
グローバルIP社の創業者2人は、中国側の動きに不信感を抱き始めた。2016年8月、ボーイング社との衛星建造の契約前夜、東方資産管理の弁護士はロサンゼルスを訪れ、ボーイング社との契約書閲覧の権限を強く要求してきた。
ボーイング社との契約資料には数百ページの添付資料があり、同社の衛星設計技術が詳細に記載されている。この大部分は、米国の輸出管理法により、取り扱いが制限されている。2人はこの訪問者の要求を断った。
2017年6月、グローバルIP社の顧問弁護士は、中国東方資産管理は中国政府からの独立性が認められないと判断した。また同社からの威圧的な行動があり、グローバルIP社の創業者2人は退社を余儀なくされた。東方資産管理の子会社・東引開発が別の中国企業に出資し、グローバルIP社の株式75%を取得させた。
2人は、東引開発が自分たちが立ち上げた衛星計画を不正に継続して、米国の知的財産を流出の危機にさらしていると主張し、カリフォルニア州の連邦地方裁判所に告訴した。
東引開発の担当弁護士はWSJ紙の取材に応じ、「2人の扇動的な主張には何のメリットもない」と述べた。
この一件により、ホワイトハウスは、中国が長年、頻繁な不正行為で米国の知的財産や機密技術を入手しようとしているとの懸念をさらに深めた。オバマ政権時代に通商部次官を務めたエリック・シュホーン氏はWSJの取材に対して、このたびの中国国有ファンドによる、米新興企業を経由した衛星取得の手法は「多面的な攻撃」と形容した。
「彼らは(相手の)すべてのポケットに手を滑り込ませ、どんな隙間にも鼻でかぎつけて、どんな鍵穴からでも覗き見している」
(翻訳編集・佐渡道世)
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