中国の覇権戦略、欧州まで影響力拡大「ロシアより一枚上」=報告書

2018/02/14
更新: 2018/02/14

欧州の主要シンクタンク、ベルリンに本拠を置くメルカトル中国問題研究所(MERICS)とグローバル公共政策研究所(GPPi)は5日共同で発表した調査報告で、覇権主義を強める中国共産党がここ数年、欧州で影響力を拡大していると分析した。独週刊誌シュピーゲル(Der Spiegel))などが報じた。

報告書によると、フェイク(偽)ニュースを通じて世論操作を狙ったロシアと違って、中国のやり方は静かで控えめなようたが、より巧みで速く、より効果的に欧州連合(EU)に浸透している。また、経済援助で丸め込まれたいくつかのEU加盟国の助けによって、中国は欧州の政策決定に影響力を増しているという。

中国共産党は欧州の市場開放を一方的に利用しているが、自国では外国の思想や資本などの流入に厳格な規制を敷いている。今は、こうした不均衡な政治的関係による影響が浮き彫りになった。

報告書の作者の一人、クリスティン・シクプファー(Kristin Shi-Kupfer)氏は、ロシアより中国のほうが「やり方が巧み」なため、この現状を真剣に受け止めなければならないと強調した。「中国は欧州の戸を叩いているのではなく、実際はとっくに入ってきている」にも関わらず、欧州の政治家はまだ気が付いていないという。

中国マネーで政治的な分断へ

ギリシャやハンガリーなど中国の投資や援助を受けているユーロ圏諸国を利用し、中国当局はEUの意思決定に影響力を発揮している。中国にくさびを打たれたEU内部に亀裂が入ってしまったという。

今まで人権問題の取り組みで一致団結した姿を示したEUだが、意見の食い違いが出始めた。ハンガリーは2017年3月、人権弁護士を拘束・虐待する中国当局に抗議するEUの書簡への署名を拒否した。

同6月、国連人権理事会で中国の人権侵害を批判するEUの声明が、ギリシャの反対で否決された。ギリシャはまた、ハンガリーやクロアチアとともに、南シナ海で強硬な立場を主張する中国政府を非難するEU声明の発表を繰り返し阻止してきた。中国はギリシャなど財政難のEU周辺国に何十億ドルもの投資を供与した。

中国マネーで共産党思想が欧州にまで浸透

中国当局はあらゆる分野で浸透工作を活発化させている。近年、ヨーロッパのマスコミや世論に対する中国の影響力が高まっている。なかには、中国の国営英字紙チャイナ・デイリー(China Daily)傘下の「チャイナ・ウォッチ(China Watch)」が、重要な手段となっている。

「チャイナ・ウォッチ」が世界中の大手マスコミのカバレッジを借りて共産党思想を拡散するという目的で1992年に創刊され、海外向けの多言語・挿入式月刊である。広告費を支払う形で、米紙「ワシントンポスト」や「ニューヨーク・タイムズ」、英「デイリー・テレグラフ」、仏の「フィガロ」、独の「ハンデルスブラット」と「南ドイツ新聞」など各国の有力紙に折り込まれて出版されている。

報告書はこの8面で構成されている「チャイナ・ウォッチ」が「広告」との表示があるのにも関わらず、紙面構成が新聞と何の違いもないため、中国共産党がこうした手口を通じて欧州で世論に影響を及ぼそうとしていると指摘した。しかも、新聞各社がこのやり方で多額の広告収入を得ているため、中国マネーへの依存が高まり、利用されつつあるという。

ほかにも、中国当局はメディア買収などの戦略を打ち出したものの、現在まだ目立った成果を出していない。2017年、中国の企業は米出版社フォーブス・メディアを買収しようとしたが結局中止になった。

中国のエネルギー複合企業である中国華信能源(CEFC)が米総合メディア大手タイムワーナー傘下の中央ヨーロッパ・メディア・エンタープライズ(CME)を買収する方向で協議に入っていることが昨年11月、ロイター通信に伝えられた。

直接投資:中国資本の大量流入

 

中国からEUへの直接投資(FDI)が2016年に前年比77%増の350億ユーロとなり、うちドイツへの投資額は110億ユーロと31%を占めた。中国が近年、欧州企業の優れた技術力を狙って、欧州への直接投資額を増加している。同時に、巨額の投資を巡る懸念もEU域内で広がっている。

昨年6月、中国を含む外国資本の投資活動への規制に関するEU決議がメルケル独首相らの支持を得たにも関わらず、ギリシャとチェコの反対で効力が薄れてしまった。一部のEU加盟国を利用して欧州に覇権を広げる中国の動きにEU各国は危機感を募らせている。

1月28日付けのドイツ紙「ヴェルト・アム・ゾンターク(Welt am Sonntag)」によると、EU域内で、独政府の主導の下で、技術やノウハウの流出を防ぐため、中国企業による欧州企業の買収や投資について規制強化の動きが出ている。ドイツ政府はすでにフランス、イタリアとともに、立法に向けて草案を起草し、欧州議会に提出したという。

中国共産党の本当の狙いは?

中国共産党が欧州における政治的影響を獲得するには、2つの企みが絡み合っている。まず、何よりも重要なのは共産党政権の安定を確保することである。次は、北京は自らの政治思想や経済行為を、競争力のある国家モデルとして世界に広げようとしているという。

報告では、こうした企みを実現させるために、中国共産党が次の3つの目標に向かって取り組んでいるとの分析があった。

▼中国共産党は政界や経済界、マスコミ、シンクタンク、大学などの欧州社会のエリート層に繋がる強固な人脈ネットワークを築き、中国共産党の利益に関わる具体的議題や政策議論において、広範の国際的な支持を集めている。

▼中国共産党はEU 内や欧米を含む西側諸国の信頼関係と団結力を弱体化させようとしている。

▼北京は、共産党政権の政治体制と経済制度を民主主義の代替案として、国際社会に肯定にとらえられるよう強く推し進めている。

欧州は唯一の目標ではない

欧州は中国共産党の唯一の目標ではなく、最も重要な目標でもない。共産党政権は世界的に拡張計画を進めている。2000年から2016年にかけて、オーストラリアの政治家への外国の政治献金の8割は中国共産党とつながりのある企業や個人によるものだった。一部の政界実力者らは定年後に中国企業に雇われたという。

キャメロン英前首相は最近、中国主導の巨大経済圏構想「一帯一路」を支援する10億ドル(約1100億円)規模の投資ファンドの要職に就任することが昨年12月、イギリスのメディアに報じられた。中国に籠絡される欧州の政治家たちは今後も増え続けると予想されている。

報告書の執筆者らは最後に、欧州が共産党政権の影響力を無視することは自らを危険にさらし、危惧すべき問題だと警告した。それを食い止めるには迅速で、早急の決断と行動が必要であると述べた。

(翻訳編集・王君宜)