9月3日、北朝鮮が6回となる核実験を実施した。北朝鮮が核弾頭を搭載した大陸間弾道ミサイル(ICBM)の実戦配備が、現実味を帯びてきた。軍事手段を辞さない構えを見せているアメリカ、制裁の強化に抵抗するロシア、アメリカに協力の姿勢を示しつつも、強力な制裁行為には足踏みする中国。米中ロと北朝鮮の動きに半島情勢が左右される。
19大前、神経をとがらせる中国
国際社会が、北朝鮮問題の解決に中心的役割を果たすと期待されている中国。いっぽう、国内では、10月中旬の重要な党大会(19大)を控え、最高指導部の人事刷新をめぐって党内で権力闘争が繰り広げられている。
北朝鮮問題に関して、中国共産党政権はこれまで「金政権の安定」の維持を最優先にしてきた。同じ共産主義国家として、中国はこれまで北朝鮮を重要な盟友と見なし、経済的に援助してきた。
中国当局は従来、対北制裁に反対する姿勢を取ってきた。北朝鮮の挑発行為が度を越した時、中国は国連安保理の制裁決議に賛成する場合もあったが、実際、決議案の通りに制裁を行っているかどうかは不明瞭だ。
習近平政権に変わってから、中国は北朝鮮と距離を置くようになった。その腹いせか、北朝鮮は、昨年9月の杭州で開催された20カ国・地域首脳会議(G20)や、今年5月の「一帯一路」経済圏構想国際会合、そして今月3日の新興5カ国(BRICs)首脳会議などのタイミングでミサイル・核実験を強行し、中国当局のメンツを踏み潰した。
目下、中国当局にとって最大の関心事は10月中旬の党大会が滞りなく開催されることであり、外交や国家安全問題に問題が起こらないように神経を尖らせている。
一部の専門家は、長い目で見ると中国当局は「北朝鮮を核保有国として黙認するか」、または「非核化のため、金正恩政権の崩壊を認めるか」との究極の選択を迫られているとみている。現時点では、金正恩政権の崩壊は、中国当局にとって最も避けたい事態だ。連鎖反応で中国の共産政権も道連れにされかねないからだ。
在米中国問題専門家の楊光氏は大紀元に対して、「中国は顔に泥を塗られても、対北制裁に踏み切れないのが現状だ」とした。楊氏は以前の論文で、「金政権が崩壊しないかぎり、北朝鮮問題の解決はない。これはどの政府も分かっていることだが、誰もあえて口にしようとしない」と述べた。
大紀元コメンテーターの夏小強氏は、「習近平氏が共産政権の崩壊を危惧していることは金正恩氏に見透かされている。習近平氏が党の存命を優先すれば、北朝鮮政権の崩壊はない」との見方を示した。
アメリカ、軍事行動も選択肢 中国に圧力
現在、アメリカ国内に「制裁強化」と「北朝鮮の核保有を容認」の二つの意見がある。
前オバマ政権で国家安全保障担当補佐官を務めたスーザン・ライス氏は8月米紙・ニューヨークタイムズに寄稿し、北朝鮮の核保有を容認しながら、その使用を防ぐには「伝統的な抑止力を使うことができる」とした。
いっぽう、強硬派は、北朝鮮が核兵器の実戦配備を止めなければ、軍事行動を主張する。
ドナルド・トランプ大統領は7日、ホワイトハウスでの記者会見において、北朝鮮問題で「すべての選択肢がテーブルにある」と改めて強調した。また、「われわれが軍事力を行使すれば、北朝鮮にとって悲惨な日になる」と述べた。
国際社会が、挑発行為を続けてきた北朝鮮に対して、米国が軍事行動に踏み切るかどうかに注目している。
米国メディアの報道によると、米軍はすでに武力行使を想定し、10通りの作戦計画を作成してホワイトハウスに提出した。しかし、対北朝鮮の軍事行動はあくまで最終手段で、緊急事態の対応措置になる。軍人出身のマティス国防長官に近い情報筋は米メディアに対して、「長官は戦争の残酷さを知っているため、軍事攻撃には非常に慎重だ」とした。
米国は今後、石油禁輸など最大級の経済制裁の実施と、北朝鮮への圧力強化に中国当局とロシアに引き続き働きかけていくとみられる。特に、北朝鮮の後ろ盾で、最大の影響力を持つ中国当局に対して、貿易問題を切り札に圧力をかけていく可能性が高い。
ロシア 中国と歩調を合わせるか
中国とロシアはこれまで、国連安全保障理事会(安保理)で北朝鮮に対する制裁決議採択に反対し続けてきた。北朝鮮当局が3日に「水爆実験が成功した」と伝えられると、ロシア政府も中国当局と同様に、強い口調で非難した。
しかし、4日の国連安保理緊急会合で提案された北朝鮮への石油禁輸を含む制裁強化に、中国とロシアは一貫して反対し、対話による解決を強調した。中ロは、制裁強化と軍事行動で金政権が崩壊し、朝鮮半島と周辺国の情勢が混乱に陥ると危惧している。
北朝鮮と、ロシアの前身であるソ連との間で1961年に「ソ朝友好協力相互援助条約」を結び、軍事同盟を締結した。1991年にソ連が崩壊した後、ロシアは96年に同条約を破棄したが、ロシアと北朝鮮は「ロ朝友好善隣協力条約」を2000年に正式調印した。軍事同盟関係がないものの、友好関係を維持した。
ロシアは、極東国境が北朝鮮と隣接するため、北朝鮮政権が崩壊し米国と韓国の主導で朝鮮半島が統一すれば、アメリカなどの軍事的影響がロシアまで及ぶことを警戒している。北朝鮮はロシアと中国にとって、米国勢力の拡大を防ぐ「緩衝地帯」となっている。
「日本経済新聞」中国語電子版(4日付)によると、ロシアの軍事専門家ワシリー・カーシン(Vasily Kashin)氏は、「中国が北朝鮮への圧力を強めれば、ロシアも追加制裁に賛同するようになる」と指摘した。同氏は、ロシアは国際社会での孤立を避けるため、中国に歩調を合わせるだろうとの見方を示した。
北朝鮮の狙うものは?
今年に入ってから、北朝鮮がすでに13回ものミサイル実験を行った。日本の防衛省によると、3日の水爆実験の爆発威力は広島原爆の10倍以上だ。
北朝鮮が頻繁に核・ミサイル実験を行う理由について、多くの専門家は北朝鮮が半島情勢を緊迫させることで、アメリカとの駆け引きで多くの利益を手に入れたいとみている。
米メディアによると、東アジア問題専門家のダグラス・パール(Douglas Paal)氏は、北朝鮮が、6カ国協議より、米国のみの対話にこだわる理由は「非核化のプロセスで最大限の利益を狙う」とした。6カ国協議では、各国が北朝鮮への注文が多く、手に入る利益も少ないからだ。
在米中国時事評論家の朱明氏は、「北朝鮮の根本的な目的は、各国から援助を獲得し、労働党と金政権を維持することにある。その挑発行為や威嚇は、中米日韓からより多くの援助をゆするためだ」とした。
「しかしこの挑発行為が過激化すると、逆に米日韓の反発を一段と強め、中ロを米側に追いやってしまう可能性がある」。
金正恩氏は、核・ミサイル実験を行いつつ各国の反応を探っていくとみられる。
(翻訳編集・張哲)
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