<赤龍解体記>(36)中共指導部で妥協が成立したか

2011/10/17
更新: 2011/10/17

【大紀元日本10月17日】中共指導部における権力闘争は、非常に激烈で複雑なものであるが、その焦点は今もなお、江沢民と胡錦濤との角逐にある。つまり江沢民が指定した政治体制や政策制度を胡錦濤が継続していけるか否かをめぐる問題と思われる。

江沢民時代に密輸入や賄賂などにより指名手配を受けた頼昌星容疑者が2カ月前に、亡命したカナダから引き渡された。来年の秋に開催する18大を控え、胡錦濤が頼昌星容疑者を本国に引き戻したことは、江沢民の政治的影響力の低下を示すもので、胡錦濤が18大において江沢民の派閥をさらに牽制し、致命的な一撃を与えることになると考えられていた。つまり胡錦濤と江沢民との角逐が明暗を分けたと読まれていた。

しかし、この案件は想定外の方向へ展開した。

13日、中国国務院新聞弁公室が開いた記者会見で、中国税関総署の魯培軍副署長が頼容疑者の重大密輸入案件についてコメントをし、この案件を「普通貨物の密輸入にかかわった疑い」で捜査を進め、関係の捜査が順調に進んでいるとした。

これに対し、香港『明報』は次のように見ている。魯培軍の発言からすれば、頼容疑者案件に対する中共の基本方針が示された。一つは、本案件は税関から捜査を進めることによって、案件の単純化を果たし、政治方向への展開を避けることになる。今一つは頼容疑者の罪名は「密輸入」であり、死刑を逃れることができる。しかも、それによって、カナダから連れ戻すに際して明言した死刑にしないとの約束を守れるのである。その結果、これまでずっと注目されていた賄賂や腐敗については深く追及しないことになるであろう。

カナダ在住の華人作家・盛雪氏は、本案件に関して綿密な調査や頼容疑者本人への数回のインタビューを踏まえ、著書『遠華案黒幕』を出しており、本案についての権威者と見られる。頼容疑者が引き渡されて以来、ずっと本案件の進展に注目している盛氏は、今後の行方について、中共の政治体制の性質によってそのやり方を決めるもので、政治がすべてを統制すると言う。

「こういった政治優先の体制の下で、彼らは自分たちの政治的な需要によって案件の性質を決め、裁判を行うことによって、彼らにとって最適な結果を得ることになるのである。今のところ、彼らは実際のところ、本案件をなるべく縮小化し、ついには無にしようとしている。すなわち、本案件を早々と終了させたいというわけである。頼容疑者が連れ戻された目的は、海外ではなく自分たちの手元に置いておき、自由にコントロールできるようにするためである」

1996年から1999年までの間、頼容疑者は、アモイで石油、車、タバコなどを密輸入し、その総額は830億人民元にも上り、1949年以来最大の経済案件となった。本案件にかかわった容疑者はおよそ300人、その中で死刑を言い渡されたのは14人であり、無期懲役は12人、それ以下の刑を言い渡されたのは58人となった。

本案件の主犯として、頼容疑者は死刑にされるはずだが、中国税関総署のコメントにあるように、普通の貨物の密輸入罪として裁定するなら、最高でも終身監禁となる。

これに対し、雑誌「中国民営」の元記者でコラムニストの劉逸名氏は、「中国では法律に従ってやれば、多くの汚職官僚が死刑にされるはずだ。つまり100万元を横領すれば死刑と判決されるはずである。しかし、実際のところ、彼らは死刑にされない。つまり、中国は人治の国であって、法制なしということだ。一般の国民は犯罪を犯さなくても何らかの罪名を付けられて罰せられるが、これらの汚職官僚は死刑にすべき場合でも、わずか数年の禁錮で済むのである」

頼容疑者の案件にかかわった中共の高級幹部は多数おり、その中でも最高級の幹部は、中共政治局常務委員会メンバーで政治協商会議主席を務める賈慶林である。しかし、彼らはいずれも江沢民の保護を受けて無事である。

頼容疑者の案件がこういった結果に至ったのは、胡錦濤と江沢民が妥協した結果だとしか考えられない。これについて、盛氏は次のように見ている。

「中共の統制が今、きわめて困難な境地に陥り、統制という核心的問題に対して、中共はみなまともに直面しなければならない。過去12年間、中共の権力中枢にいる者たちは、中国社会全体の経済利益をすでに分け合った。そのため、内部闘争があっても、それよりさらに重要なのはお互いに黙認、妥協することである。実際は、中国の統制される国民こそが、この利益集団の共通した敵なのである」