エムバペか 中国共産党か 本当に中国人民の感情を傷つけているのは誰か

2026/11/01
更新: 2026/11/02

フランスのサッカー界のスーパースター、キリアン・エムバペが、毛沢東を「中国の独裁者」と呼ぶミーム画像をめぐり、中国共産党(中共)は「中国人民の感情を傷つけた」と非難した。

これについて、中国問題の専門家、余茂春氏は10月31日、中共のこうした言い分がいかに不合理であるかを詳しく分析した。毛沢東はそもそも独裁者だったとし、「この歴史的事実を口にすることが、毛沢東が当時あれほど多くの中国人を死に追いやったことより、中国人民の感情を傷つけるというのか」と問いかけた。

余氏は同日、SNSのXへの投稿で、毛沢東が大躍進政策を進め、人類史上最悪の人為的な大飢饉を引き起こし、推計3千万~4500万人の中国人が命を落としたと説明した。その後、文化大革命を起こし、社会全体を大混乱に陥れた。数え切れないほどの家庭が引き裂かれ、教師は学生からつるし上げられ、知識人は迫害され、寺院や史跡は破壊された。中国人民を殺害することは、中国人民の感情を傷つけることにはならないのかと指摘した。

余氏によると、エムバペをめぐる騒動はばかげて見えるが、中共が長年使ってきた政治的な手法を浮き彫りにした。共産党を批判すれば中国を侮辱したとし、毛沢東を批判すれば中国人民を傷つけたとする手法である。毛沢東は半世紀前に死去したが、残した独裁体制は続いており、中共は毛沢東の政治的遺産に触れることさえ許さないという。

中国共産党は日頃から「中国人民の感情が傷つけられた」と繰り返している。余氏は、こうした言い回しは数十年にわたって使われてきたと述べた。チャイナ・メディア・プロジェクトの調査によると、早くも1959年、中共の機関紙『人民日報』は、中印国境紛争をめぐり「中国人民の感情を傷つけた」とインドを非難していた。研究者が1959~2015年の『人民日報』に掲載された関連事例143件を集計したところ、この表現で最も多く非難されたのは日本で、次いで米国だった。台湾やチベットの問題も、しばしば引き金となっていた。

「要するに、中共の政治的利益に触れたり、歴史や領土に関する党の説明を受け入れなかったりすると、中国人民の感情が突然『深刻に傷つけられる』最も理不尽な例の一つが、1989年の天安門事件だ。当時、中共は軍を出動させ、民主改革を求める中国の民衆を弾圧し、虐殺した。米国議会がこの流血の弾圧を非難すると、北京は逆に、米国が中国人民の感情を傷つけたと非難した」と余氏は述べた。

「これはどういう理屈なのか。中国人民を殺害しても中国人民の感情を傷つけたことにはならず、中国人民を殺害する暴行を非難することが、かえって中国人民の感情を傷つける罪になるというのか。これこそ、中共の言い分の最も不合理で、最も偽善的なところだ」

さらに、「国民が国の指導者を自由に選ぶことも、政府を公然と批判することも認めず、インターネット上で本音を少し語っただけで問題になりかねない政権が、全ての中国人民の感情を最もよく理解していると、四六時中言い張っている。実におかしな話ではないか」と述べた。

余氏は元米国務省中国政策企画首席顧問で、トランプ第1次政権で米国の対中政策の強硬路線への転換を推進した中心的な側近の一人である。現在はハドソン研究所中国センター所長と、フーバー研究所客員研究員を務めている。

中国事情に精通する余氏は、中共の言う「中国人民の感情」には、奇妙な決まりがあると考えている。それは外国人だけを対象とするというものだ。

「共産党自身が中国人民を傷つけた場合は、口をつぐむのがよく、話題にすることさえ許されない。中共の目には、何十年も痛めつけられてきた中国人民には感情がないと映っているからだ」という。

国内問題から目をそらすため、外国人を標的に

余氏は、中国国内で経済に問題が生じ、社会的な対立が増したり、国民の政府への不満が高まったりすると、中共政権は外国人をはけ口にし、自らを民族の尊厳を守る英雄に仕立て上げることができると述べた。この政治的操作の最も重要な点は、共産党と中国を意図的に同一視することにある。しかし、中国は中国、共産党は共産党であり、両者は全く別のものだと指摘した。

余氏によると、エムバペ騒動は、この手法の不合理さをよく示している。中国のメディアは、エムバペのいわゆる「中国を侮辱する」発言を盛んに非難する一方、実際に何を言ったのかを中国の人々に明確に伝えようとはしない。

10月26日、エムバペがトーク番組『The Bridge』に出演した映像が広く拡散した。インタビューで、自分の顔を使ったミームのうち、どれが一番笑えたかと尋ねられたエムバペは、自分の顔を「中国の独裁者」の写真に合成したものが最も面白かったと答えた。どの独裁者かは名指ししなかったが、番組はエムバペの顔を中共の元指導者、毛沢東の姿に合成した画像を表示し、視聴者は毛沢東を指していると受け止めた。

この冗談は直ちに中国で大きな波紋を呼び、中国人民の感情を傷つけたと非難された。東鵬飲料、蒙牛乳業、妙可藍多など複数の中国企業は、その後、エムバペとの全ての提携を終了すると発表した。エムバペが関わる試合の放送は中止され、広告も取り下げられた。エムバペはその後、謝罪した。

余氏は、「こうした怒りは、多くの場合、人々の間から自然に生まれたものではない。中共が国民に怒ってほしいときに、意図的につくり出すものだ」と述べた。

「この手法は分かりやすい。国内では、経済、失業、腐敗、社会の不公正に対する国民の不満を外国人に向けることができる。国外では、巨大な中国市場を利用し、外国の政府、企業、学校、スポーツ選手、芸能関係者に、中共の政治的なルールをおとなしく受け入れさせることができる」

余氏はさらに、次のように述べた。

「中共は国を治めるすべを持たないが、人々を振り回す手口には事欠かない。現在の中国では、人々は生活に苦しみ、失業が急増し、仕事を得るのは難しい。誰もが国外への脱出を考え、多くの人が競争を降りて『寝そべり』、至る所で腐敗が横行し、監視や規制は際限なく、弾圧はかつてないほど激しい。それによって苦しむ何億もの中国人民の痛みは、数に入らないというのか。こうしたことは、中国人民の感情を傷つけていないのか」

「ところが、中共は、人々が自らの苦難を公に語ることを許さない。責任を追及しようとすれば弾圧されかねず、歴史を追悼しようとすれば、政治的に騒ぎを起こす人物と見なされかねない」

中国人民を本当に侮辱しているのは中国共産党

「さらに重要なのは、中共の最大の政治的なうそを見抜き、共産党は中国と同じではなく、共産党の利益も中国人民の利益とは同じではないと強調することだ」と余氏は述べた。

「中国人民を本当に侮辱しているのは、毛沢東を独裁者と呼ぶ人ではない。数千万人の中国人を死に追いやり、歴史の真実を隠し、国民の基本的自由を奪った政党が、なおも厚かましく、中国人民の感情の守護者を自称していることだ。中共政権は、全世界に中国人民の感情を傷つけるなと説教するより先に、共産党自身がどれほどの苦難を中国人民にもたらしたのかを説明すべきだ」

「要するに、中共は中国人民の感情を守っているのではなく、その感情を人質に取っている。中国人民の尊厳を本当に傷つけているのは、共産党を批判する外国人ではなく、共産党自身なのだ」と述べた。

(責任編集:林姸)

張婷